第8章 全然足りない
第8章 全然足りない
カイルドの屋敷で暮らし始めて、数日が経った。 リオには一室が与えられていた。 一人で暮らしていた部屋よりずっと広い。 大きなベッドに机、クローゼット。窓際には小さなソファまである。 最初に案内されたときは、本当にここを一人で使っていいのかと何度も確認した。 けれど、数日も暮らせば慣れてくる。 朝起きて学校へ行く。 授業が終われば食堂でアルバイトをして、屋敷へ帰る。 食事をして、風呂に入り、自分の部屋で眠る。 以前よりずっと楽になった。 ただ、一つだけ予定通りにいっていないことがある。 研修だった。 せっかく同じ屋敷で暮らしているのに、カイルドがいない。 騎士団の仕事が、また忙しくなっていた。 朝早く出ていき、リオが眠ってから帰ってくる。 騎士団本部へ泊まる日もある。 一緒に暮らし始めれば、もっと簡単に研修できる。 そう思っていたのに。「今日も帰らないんですか?」 夕食の席で尋ねると、給仕をしていた執事が頷いた。「本日は騎士団本部にお泊まりになると伺っております」「そっか……」 リオは少し肩を落とした。 仕方がない。 カイルドは王国騎士団長だ。 自分の研修より、仕事のほうが優先されるのは当然だった。 分かっている。 けれど。 あの日から、まだ一度も研修できていない。 初めて最後まで精気を受け取った日。 あれほど満たされたのだから、しばらく平気だと思っていた。 実際、最初の数日は調子がよかった。 身体が軽い。 授業にも集中できる。 アルバイトをしていても疲れにくい。 これが十分な精気を得た状態なのかと、少し感動したくらいだった。 ところが。 その夜。 自室のベッドへ入ったリオは、何度目か分からない寝返りを打った。「……寝れない」 身体が落ち着かなかった。 覚えのある感覚だった。 腹の奥が熱い。 むずむずして、じっとしていられない。 なら、やることも同じだ。 リオはベッド脇の収納を開けた。 中から取り出したのは、引っ越しの荷物にも当然のように入れてきた、小さなピンク色のディルドだった。 前の部屋でも使っていたものだ。 これまでなら、これで十分だった。 リオはベッドへ戻った。 先は丸く、根本にハート型の台座がついているそれは、掌に乗せると思ったより軽かった。 前は気にならなかった軽さだ。 慣れ親しんだ丸いピンクの先端を咥えて性急に唾液を絡めていく。シリコンに柔らかい舌を押し付けると唾液が溢れてくる。 うつ伏せになり、片膝を引いて、後ろから自分で入り口に手を伸ばす。 先日と同じポーズを取るとそれだけで胸が高鳴った。 ローションで濡らした指を一本、二本、三本と抜き差しのたびに増やしていく。 早く中を埋めたかった。 ディルドの丸い先が沈む。 ハートの台座が肌に当たるまで押し込むとリオは小さく息を吐いた。 なじむまでまって抜き差しを繰り返す。 いつもの手順だ。 これで発散して、眠る。 そのはずだったのに、抜き差しを始めてすぐに違和感が出た。 入っている。 なのに、熱が乗ってこない。 シリコンはぬるいだけで、相手の体温がない。 重さもない。 奥で脈を打つ気配もない。 あの時と違う。 カイルドは角度を変え、腰を押さえ、リオが逃げる先まで塞いだ。 今、中にあるのは静かな棒だけだ。 リオはそれでも、あと一ミリでも奥へ欲しがってディルドをねじ込んだ。 届かない。 ハートの台座に入り口が吸い付くだけで、それ以上深くは入らなかった。 むなしく根本を咥えたまま、リオは小さく息を吐いた。「……足りない」 声に出すと、よけいはっきりした。 サイズのせいだけではない。 身体が、動く相手を覚えている。 リオは台座を握り直して、角度を変えた。 前は、ただ出し入れすればよかった。 今夜は違う場所を探す。 カイルドが指で固定して、逃がさなかった一点。 丸い先をそこに当てる。 腰が落ちた。「あっ……ああっ」 気持ちいい。 リオは覚えたての快感を貪るように尻を振った。 何度も擦る。 小さく、同じ場所だけ。 快感に身をよじり、シーツの上で腰が逃げる。 カイルドにされたときより、自分の手なら弱いはずだった。 なのに熱が強すぎて、台座を握った指が止まる。 身体はそれでも、そこを擦れと求めてしまう。 ディルドの先がそこを叩くたびに、背中が跳ねた。 手が止まる。 やめたくない。 台座はまだ握っている。 なのに指が緩む。 強すぎて、続きが怖い。 怖いくせに、身体がその熱を求めている。 カイルドは、逃げても腰を押さえてくれた。 逃げ場を奪われたまま、強烈な快感を余すところなく叩き込まれた。 その時のことを思い出すと今も身体の芯がずくりと熱く疼く。。 リオ一人では、本能的に逃げる自分の腰を抑えられない。 尻は止まらず、あさましく揺れ続ける。 逃げようとするたびに、ディルドの先が前立腺を追い、熱い場所を擦り続けた。 ベッドの上で、リオは脚を開いたままその姿を晒していた。「……っ、もどかしい」 額をシーツに預けたまま、短い息を繰り返す。 自分の思った通りにしか動かないディルドが、かえって空虚だった。 仕方なく、空いた手を自分の先へ回す。 袋を掌に乗せて、茎だけを擦る。 先端には触れない。 後ろの刺激は中途半端なまま、手前だけを終わらせにかかった。 腰が浅く、かくかくと動く。 その動きで先端が強くベッドシートに擦りつけられ、予期せぬ強い刺激に白いものがシーツを汚す。 身体が震えて、脱力した体がベッドに放り出される。 ディルドはまだ入っている。 リオは抜かずに、しばらくそのままだった。 性欲は処理できた。 処理した実感もある。 なのに腹の底は満たされなかった。「もう一回」 ローションを足す。 同じものを沈める。 同じ場所を探る。 熱は来る。 形は来る。 相手の重さは来ない。 二度目は、一度目より早く終わった。 終わったあとの空洞だけが、前より深かった。「……全然足りない」 身体の奥だけが、まだ空いている。 リオはしばらく考えた。 ディルドを見る。 それから、自分の腹へ手を置いた。 思い出したのは、数日前のことだった。 カイルドの寝室。 初めて知った、本物の感覚。 玩具とは違った。 大きさだけではない。 熱があった。 重さがあった。 自分の予想とは関係なく相手が動く。 何より――。「……精気がないから?」 リオはぽつりと呟いた。 あのときは、触れられているだけでも精気が流れ込んできた。 最後まで終えたときには、今まで経験したことがないほど身体が満たされていた。 当然だ。 玩具をいくら使ったところで、精気は一滴も入ってこない。 今は、一度完全に満たされた感覚を知っている。 身体が覚えてしまった。「……困ったな」 性的な欲求は落ち着いている。 なのに、精気を求める感覚だけが消えない。 リオは枕へ顔を押しつけた。「団長、いつ帰ってくるんだろ……」 口にしてから、自分で恥ずかしくなった。 まるでカイルドを待ちわびているみたいだ。 違う。 欲しいのは精気だ。 研修も進めなければならない。 だから早く帰ってきてほしいだけだ。 そう考えていたときだった。 扉が叩かれた。 リオの身体が固まる。 こんな時間に誰だろう。「リオ」 聞こえてきた声に、さらに固まった。「……団長?」「ああ」 帰ってこないと聞いていたのに。「ちょ、ちょっと待ってください!」 慌ててベッドの上を片付けようとする。 けれど、遅かった。「入るぞ」「待ってって言ったのに!」 扉が開いた。 そこに立っていたのは、騎士団の制服姿のカイルドだった。 どうやら本当に今帰ってきたらしい。「予定が変わった」「そうじゃなくて!」 リオは慌ててディルドを隠した。 カイルドの視線が、その動きを追う。「……何をしてた」「何もしてません」「それは何だ」「見ないでください!」 隠すのが遅かった。 死にたい。 よりにもよって、カイルドに見られた。「忘れてください」「別に珍しいことでもないだろう」「珍しくなくても恥ずかしいんです!」「そうか」「そうです!」 カイルドは大して気にしていない。 それが余計に恥ずかしい。 リオは布団を引っ張り上げた。「もういいでしょう。出てってください」「リオ」「何ですか」「顔を見せろ」「嫌です」「いいから」 仕方なく、布団から目だけを出す。 カイルドはからかっているようには見えなかった。 むしろ、何かを確かめるようにリオを見ている。「体調は?」「え?」「悪くないのか」「悪くはないです」「精気は」 リオは黙った。 さっきまで考えていたことを思い出す。「……足りない、かもしれません」 カイルドの眉がわずかに動いた。「この前、かなり渡したはずだ」「俺もそう思ってたんですけど」「もう欲しいのか」「……みたいです」 自分で言っていて情けなくなる。 けれど、嘘をついても仕方がない。「さっきも、それで?」「最初は普通に寝れなくて……」 リオは布団の中へ半分顔を隠した。「いつもみたいにすれば落ち着くと思ったんです。でも、全然足りなくて」 カイルドが黙る。 リオはてっきり呆れられたのだと思った。 だが、カイルドが考えていたのはまったく別のことだった。 あの日、かなりの量を渡した。 これまでなら、一人の淫魔へ一度に与えることなどなかった量だ。 それをリオは問題なく受け止めた。 それどころか、まだ余裕すらありそうだった。 そして数日後には、もう精気を求めている。「今日は?」「え?」「このままで眠れるのか」 リオは返事に詰まった。 眠れる。 と言いたかった。 けれど、身体の奥に残った空腹感はまだ消えていない。「……たぶん」「たぶん?」「分かりません」 正直に答える。 カイルドは少し黙った。「必要なら渡す」「今から?」「足りないんだろう」 あまりにも当然のように言われて、リオのほうが戸惑った。「でも、団長、今帰ってきたばっかりですよね」「ああ」「疲れてるでしょう」「だから何だ」「いや……」 疲れて帰ってきた相手に、精気が足りないから研修してくださいと言うのは、さすがにどうなのだろう。 リオが迷っていると、カイルドが言った。「夜中に一人で玩具を使うよりは効率がいいだろう」「……」 正論なのだろうか。 リオには分からなかった。 ただ。「……じゃあ、お願いします」「ああ」 リオの部屋には、一人で終えたあとの熱がまだ残っていた。 窓を開けていないせいで、ローションの匂いと、少し甘い精の匂いがベッドの周りに溜まっていた。 小さなピンクのディルドが、シーツの端で乾ききらずに光っている。 カイルドは上着を脱ぎ、ソファの背にかける。 袖を返してかける動作だけが丁寧で、顔は少し疲れてみえた。 一人掛けの椅子へ腰を下ろすと、指先でリオを招いた。「ここへ来い」 リオが膝の前で止まる。「手短に済ませる。魅了をかけろ」 そう言って、カイルドはリオの後頭部を掌に収めて口を重ねた。 浅く触れて終わるキスではなかった。 舌が歯の裏を押し、上顎を撫で、リオが息を吸う隙間まで塞いだ。 リオは相手の瞳を見たまま、身体の奥の魔力を集める。 ――『魅了』。 いつものように精いっぱい力を込める。 いつものように、反応はない。 カイルドの目は澄んだままだ。 なのに口の熱と、掌の大きさで、リオの膝が先に折れた。 魔力ではなく、キスでとろんとなる。 されるがままに顎を開いて、絡まれた。「んっ……む、ちゅっ……」 カイルドが下唇を吸うたびに、リオの先が跳ねた。 裸なのは自分だけだ。 隠すものがない。 反応するたび、視線の前で揺れてしまう。 唇が離れると、細い糸が顎を伝った。 リオがそれを拭うより先に、カイルドが口を開く。「両足を開いて、肘掛けに乗せろ」 リオは言われた通り、片足ずつ左右の肘掛けへ乗せた。 足裏で肘掛けを踏ん張ると、曲げた膝が大きく左右へ開く。 腰を深く下ろせる姿勢ではない。 中腰のままでは上半身が安定せず、リオは支えを求めるように両腕をカイルドの逞しい肩へ回した。 自分からなら、絶対に取らない姿勢だった。 脚を大きく開いたことで、先ほどまでほぐされていた入口が無防備に空気へさらされる。 ひやりとした空気に触れただけで、敏感になったそこが小さくひくついた。 そう意識した途端、リオの耳まで一気に熱くなった。「いい眺めだな」「見ないで、ください……こんな、開いて……」「隠すな」 カイルドの手が後ろへ回る。 指はいきなり奥へは入らず、襞の縁を一周してから、リオが一人で探していた一点を正確に探り優しく擦る。「あん……あんっ」 指の腹が熱い膨らみを撫でるたび、中が自ら絡みついた。 ぐちゅ、と小さい音が鳴る。 腰が揺れた。 淫魔としての自分に、遅れて火がつく。 相手も喜ばせなければ。 精気を引き出すのは自分の仕事だ。 リオはカイルドの下腹へ手を伸ばした。 布の上からでも、硬さと熱が掌に残る。 リオの指がベルトにかかったところで、手首を止められる。 力は強くない。 止められた、と分かる程度。「今日の前半は、俺の好きにさせてくれ。後半は、君の好きにしていい」「……はい」「倒れたら危ないから暴れるなよ」 そういった瞬間から指の動きが変わった。 やさしい円が、一点への固定になる。 潰し、転がし、一瞬解放された瞬間にまた潰される。 逃げ場のない腰が震える。 開いた脚は肘掛けから下ろせない。 熱が余さず中へ入ってくる。 腰があまりの快感にたまに上下し、前後にずれる。 逃げるつもりの浅い動きなのに、指の腹が当たる場所が変わるたび、熱が一段深くなった。 3本の指がそれぞればらばらに動き、逃げた先にも指がある。 引いても押しても、腫れたいちばん弱い場所から離れない。 動くほど正確にいじめられる。 肘掛けに脚を開いたまま、ほぐした穴も、涎を零しながら喜び跳ねる分身も、全部正面から晒されている。 責め苦だと分かっていながら、腰がまた浅く動いた。 逃げているのか、自分からしこりを擦りつけにいっているのか、区別がつかない。 そのみっともなさに、全身が熱くなった。 わけが分からなかった。 ぐちょ、ぐちょっ。「もっと……それ、すきぃ……んあっ」 水音が部屋に跳ねる。 すすり泣きと喘ぎが重なる。 充血してぷっくり膨らんだ一点が、指の腹にあたるたびに形を変えて、もっと、と主張した。 カイルドは最初こそ優しく擦った。 指の腹で熱い腫れを確かめるように、ゆっくり撫でる。 リオが息を合わせたところで、爪を浅く立てた。 切るほどではなく、表面をひっかく程度。 リオの腰が跳ねる。 すぐに爪を退け、膨らみを二本の指で挟んだ。 摘むように、逃がさないように。 ゆるめたかと思うと、今度はとんとんと小さく叩く。 当たるたび、内側が収縮して指を咥えた。 それから円を描く。 一点だけでなく、その周囲まで広範囲を撫でて熱を散らし、また真ん中へ戻した。 やさしいだけではない。 膨らみに指を押し当てたまま、動きを止める。 圧だけが残る。 待たされた中が、その指へ自分から擦り寄る。 カイルドはそこで指を内側へ折り、呼び込むように一点を掻いた。 リオの声が裏返る。 二本で膨らみを挟み直し、狭い間を指の腹で擦る。 左からも右からも逃げ道を塞がれて、挟み込まれた熱はどこにも逃げられない。 内側にこもった熱だけが、じわじわと濃くなっていく。 ゆっくりと、丁寧に。 いちばん弱いところばかりを、執拗に責められる。「そこ、もっと……っ、いじめて、ください……んあっ」一人でするときは、耐えきれなくなると途中で逃げてしまう。けれど今は、逃げたくなかった。逃げられないまま、もっと深く、もっと長く、この感覚に浸っていたかった。お願い。もっと。声にならない言葉を喉の奥で何度も繰り返しながら、リオは身体を開いたまま、すべてを相手に預けた。前には、まだ触れられていない。 白いものが跳ね、カイルドのシャツの裾を汚す。 リオは射精した後も足を閉じることは許されず、そのままの姿勢で短く泣いた。 休む間もなく、同じ場所をまたいじめられる。「きもちいいよぉ……っ」 二度目の射精はカイルドのシャツの腹へ落ちた。 前は、まだ一度も握られていない。 先だけが空振りのように痙攣し、白濁がボタンのあいだを伝った。 カイルドは指を抜いた。 抜けた穴が、音を立ててすぼむ。 代わりに、硬く脈を打つ先が当たる。 カリの段差が縁を押し、熱い肉襞を一つずつ開いていく。 肘掛けに脚を乗せた姿勢のまま、沈めてくる。 奥まで開かれた瞬間、リオの先から白い粘液が零れた。 入っただけで、また出た。「あっ……中、いっぱいになって……っ」「じゃあ、そろそろ君の番だ。好きにしていい」 そういわれてリオは力の入らない足裏を、肘掛けの上で動かそうとした。 力を入れて腰を上げるつもりが、腿の力が抜ける。 体重ごと落ちる。 先が結腸の奥まで一気に入った。 頭が白くなる。 リオはカイルドの背中に爪を立て、首に顔を埋めてしがみつく。 先から熱い透明なものが噴いて、カイルドのシャツを濡らしていく。 精液とは違う。 薄い熱が止まらず、潮になって溢れた。「んあっ、だめ、出てる……っ、あっ、ああんっ」 止められない。 腰が痙攣し、抱いた腕の中で小さく跳ねる。 後ろがきつく締まり、カイルドに吸い付いて離さない。 よがる声が喉の奥で潰れて、また溢れた。「んあぁ……とまんない……っ」 どう見ても、意識ははっきりしている。 魅了を受けたときの、あの独特の感覚もない。 それなのに。 カイルドは目の前のリオから目を離せないまま、小さく呟いた。「……本当に、魅了はかかってないんだよな」「……?」 独り言は聞こえていなかったらしい。 リオは意味も分からないまま、カイルドの肩に腕を回している。 その姿を見ているうちに、これ以上ゆっくりしている余裕がなくなった。「悪い。余裕がなくなった。動くぞ」「え――」 両腕で腰を抱える。 上半身はぴったりついたまま、短いピストンが始まる。 椅子が後ろへ傾きかけ、カイルドが床を踏んで止める。 その振動まで奥へ届いた。 結腸を出たり入ったりするたび、精気が熱い道になって流れ込む。 口で受け取った夜より多い。 一人でディルドを咥えた夜には、存在しなかった熱だった。「熱い……精気、くる……っ、奥が、…んあっ」 リオはただ喘いだ。 抱かれたまま、奥を使われる。 カイルドが出すとき、リオの先からはもう何も出なかった。 なのに身体だけが強く痙攣して、一緒に果てた。 精気は、その痙攣のいちばん深いところへ落ち、染み渡った。 カイルドは、汚れたシャツのままリオの髪を一度だけ撫でた。 リオは肘掛けに脚をかけたまま、カイルドの肩に顔を落とした。 汚れたシャツのボタンが、頰に冷たく当たる。「……全然違う」 リオは自分のベッドへ沈みながら呟いた。「何が」「さっきまで、何回やっても足りなかったのに」 今は違う。 身体の奥に残っていた空洞が、きれいに消えている。「やっぱり精気だったんだ……」 自分でも妙に納得した。 カイルドはベッドに横たわるリオの隣でその言葉を聞きながら、考えていた。 やはり、普通ではない。 受け取れる量だけではない。 必要とする量も多い。 これまでリオがどうやって生活していたのか、不思議なくらいだった。「これから我慢する必要はない」「……はい?」「足りなくなったら言え」 リオがカイルドを見る。「団長に?」「他に誰がいる」「そうですけど……」「専属なんだろう」 そう言われると、確かにそうだった。「じゃあ、お願いします」「ああ」 話はそれで終わった。 カイルドは自分の部屋へ戻った。 それから、少しだけ生活が変わった。 最初に変わったのは、カイルドだった。 以前なら騎士団本部に泊まっていたような日でも、屋敷へ帰ってくるようになった。「最近、団長ちゃんと帰ってきますよね」 夕食の席でリオが言う。「自分の家だ」「それはそうですけど」 リオは知らない。 屋敷に精気の状態を見ておくべき研修生がいる――カイルドが、それを理由に仕事を切り上げるようになったことを。 研修の回数も自然と増えた。 精気が減ればリオが伝え、必要な分を補う。 終われば、それぞれの部屋へ戻る。 そんな生活がしばらく続いたある夜。「……眠い」 研修を終えたリオは、カイルドのベッドに転がったまま動かなかった。「部屋へ戻らないのか」「戻ります。……あと五分」 そう言ったくせに、数分もしないうちに眠ってしまった。 カイルドは起こさなかった。 それをきっかけに、夜遅くなった日はそのまま寝室に残ることが増えた。 やがてカイルドからも、「動けないのなら、今日はここで寝ろ」 と言うようになった。 基本的には、今も別々の部屋だ。ただ、精気管理のためという理由で、同じベッドで眠る夜が少しずつ増えていった。「……団長、近いです」「お前が寄ってきたんだろう」「……そうなんですか」「寝てたからな」 リオは少しだけ身体を離そうとした。 けれど、眠気に負けたのか、途中で動きを止める。「……すみません。もう眠くて」「なら寝ろ」「はい……」 結局、そのまま離れなかった。 カイルドも、何も言わずに受け入れた。 朝、リオのベッドが使われていない日が、少しずつ増え始めていた。