第26話 思い出
第26話 思い出
「ただいま」 帰宅するとお母さんがまだ起きていた。「汰由、おかえり」「あ、うんっ、ただいまっ」 そのお母さんと顔を合わせることのないようにそそくさと階段を駆け上った。悪いことなんてしてないし。晶のことはわかってるし、その晶とカラオケに行ってくるってことは伝えてる。だから何も言われないだろうけれど、それでもなんとなく今、出くわしたくなくて。「あとでお風呂入りますっ」 それだけ言って部屋に入った。「……」 あそこで義信さんに会えるなんて思いもしなかった。 駅、反対側に住んでるんだ。新情報ゲットしちゃった。 じゃあ、いつも歩いてあそこを通って、反対側に帰ってるんだ。そっか。 あそこのパン屋さんよく行くって言ってた。今度、差し入れとか持っていこうかな。 カーディガン、貸してもらっちゃった。 義信さんは寒くなかったかな。 袖、すっごい余ってる。サイズ……全然違うんだ。「……」 あ。 わ。「香……水……?」 普段、義信さんはそういうのつけてない。でも、袖の長さをじっと見つめて、その袖口に自分の唇で触れてみたら、少しだけ、ほんのちょっと、わずかに香りがした。 甘くない香り。 デスクワークだけしてたって言ってたっけ。 お休みの日はこんなふうに少しだけ香水とかつけるのかな。 大人、だ。 ―― 汰由の声は澄んでて綺麗だから、なんでも歌えそうだよ。 そう言って声のことを言われたのは二度目。 一度目は、初めての夜に。 ―― 汰由、澄んだ綺麗な声だ。 変な声って思って、そしたらそう言ってくれた。 さっき目を丸くしてた。あれは、あの夜のことを覚えてる感じだった。「……っ」 義信さんはあの夜のこと、覚えててくれたんだ。 忘れる、とかじゃなくて、なんていうか、義信さんの中ではあの夜のことはなかったことになってるんだって思ってた。仕方のない状況だったしって、割り切ってるんだって。 でも、覚えていて。 俺の声が澄んだ綺麗な声って思っててくれて。 ちゃんと。「ぅっ……ン」 ちゃんと、俺のこと抱いたの、覚えてて、くれた。「あっ」 胸、いじるの好きて言ったのも覚えててくれるの、かな。 どこをどう、一人の時はするのって訊かれて、乳首、触るって言ったら、ここ。「あ、ぅ……っ」 抓ってくれた。「っ、っ」 それから爪でカリカリって、してもらった。 乳首に、キスもらえた。 ――気持ちいい?「あっ、ぅ、ン、ぃ……い」 それから俺、口で義信さんのを咥えて。くびれのとこ、されるの好きって教えてもらった。 ね、俺、義信さんのを口でしてあげたこと、ある。 俺の、この口であの人のを咥えて、しゃぶって、キス、した。「あっ」 思い出す。義信さんに抱かれた時のことを思い出しちゃう。 俺の初めての相手は、義信さん、ってこと。「ふっ……ン」 男物の香水を少しだけつけるんだって。休みの日の、俺の知らない義信さんを知ることができた。 かっこよくて。 背も俺よりあって。裾、こんなに余っちゃうんだ。 手も大きいの。「あぅっ」 あの人に前も後ろも触ってもらった。 指、長くて、自分の指でするよりずっと気持ち良かった。「あっ……ン」 男の人の、それを模したオモチャでするよりずっと、ずっと、気持ち良かった。熱くて、硬くて。「あぁ、ン」 澄んだ声で、綺麗だって、もっと声出していいよって言ってもらえた声を自分の枕に押し付けて、溢れてしまわないようにって、ぎゅっと枕で塞いで。「っ、っ」 義信さんのを口でしたことを思い出しながら、今、濡らした自分の指を。「っっっっ!」 挿れた。 指を中に。 ――汰由。 優しいけれど、低い声が掠れててセクシーって思った。 俺がキュって身体を締め付けると、俺の中で彼のがびくんって跳ねて、息を詰めてくれた。 俺の中、気持ちいいですか? って尋ねると。 堪能するように中を擦って、突いて、教えてくれた。 すごく気持ちいいよって。 義信さんのが。「は、ぁっ……はぁっ」 俺の中に入ったことがある。 あの人と、セックス、したことがある。「ふっ……ぅ」 あの人のを口で咥えて、しゃぶって。 奥まで射抜かれながらイッて。 揺さぶられながらしがみついた。 ――目に毒だから。 二回目もした。 ――汰由からいい香りがする。 俺のことを引き寄せて。 ――美味しそう。 そう言ってもらえた。「ぅ……ン、ンっ」 一晩で二回、した。「あ、あ、あ、あ」 一つの夜に、二つ、行為をしてもらった。 二つ目は窓際で立ったまま、したの。見られてしまいそうなのがすごくすごく興奮した。義信さんが少し強引で、ゾクゾクした。激しくして欲しいって思った。 ――汰由「あっ」 もう一回、したい。「あ、あ」 もう一回、義信さんとしたい。「あ、ぁ…………さんっ」 義信さんが欲しい。 欲しいの。 カーディガンを貸してくれる優しいあの人に激しく抱いてもらいたくて、指が勝手にあの夜の彼の熱を真似た。激しく突き上げられたのを真似て。 何度も、中のいいところを太いので擦り上げてくれたのを真似て。 耳には抱きながら呼んでくれる彼の声を何度も再生させながら。 ――汰由。 甘く掠れた低い声で耳元で囁かれたい。「あっ……イクっ……っっっっっ」 もう一回――。「あっ……ン」 あの人と。