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174.竜、混乱する

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174.竜、混乱する

『影』から出てきた一之瀬さんに作戦を説明する。

今回も彼女の協力が不可欠だからだ。

「……しょ、正気ですか?」

「勿論」

俺の作戦を聞いた一之瀬さんは目を丸くして驚いていた。

隣で話を聞いていた五十嵐会長も呆然としている。

「正直、今回も一之瀬さんの腕頼りになりますが、お願いできますか?」

「な、何とかやってみます」

ふんすっと頷いて見せる一之瀬さん。

その隣で擬態を解いたアカも「がんばるよー」と震えている。

「よくもまあ、そんな馬鹿げた作戦を思いつきましたね……」

「褒め言葉として受け取っておきます」

「皮肉じゃなく、素直に驚いてるんですけどね……。何か手伝う事はありますか?」

何でも言って下さいと胸に手を当ててこちらを見る五十嵐会長。

何でも、ねぇ……。

「それじゃあ一つ、いや二つですね。お願いしたいことがあります」

「何でしょう?」

「まずあの竜を『鑑定』する事は出来ますか?」

出来ないと思うけど、一応試しておこう。

こくりと頷いて、五十嵐会長は双眼鏡で竜を見つめる。

そして、

「――見えました」

「ッ……! 本当ですか?」

正直期待していなかっただけに驚いた。

一之瀬さんも驚いている。

「全て――ではないですが、ステータス、それとスキルは見えました。どうやらあの竜はクドウさんやペオニーと違い『鑑定妨害』は持っていないようですね。一部は文字化けしていて見えませんけど……」

五十嵐会長は俺たちに竜のステータス、そしてスキルを教えてくれた。

ブルードラゴン LV38

HP :1400/5200

MP :550/2300

力  :1200

耐久 :800

敏捷 :2500

器用 :1200

魔力 :2200

対魔力:1100

SP :176

固有スキル

■■■■

スキル

爪撃、息吹、竜鱗、高速飛行、索敵、威圧、咆哮、

狂化、息吹強化、息吹超強化、爪撃強化、竜鱗強化、飛行速度強化、

危険感知、射程強化、意思疎通、念話、MP消費削減、気配遮断

これがあの竜のステータスである。

なんとまあ、馬鹿げたスキルとステータスだ。

全てのステータスにおいて俺の遥か上をいってやがる。

スキルのレベルまでは見れなかったが、これだけで十分すぎる成果だ。『鑑定』凄い。『鑑定』欲しい、マジで。

とはいえ、これならいけるかもしれない。

あればいいなと思っていたスキルも確認できた。

「頼んだぞ、モモ」

「わんっ」

モモも「まかせてっ」と頷く。

「もう一つは?」

「ああ、それは――」

五十嵐会長に頼みたいことを伝える。

それを聞いた彼女は完全に笑みがひきつっていた。

「……そ、それを私にやれと?」

「出来るでしょう?」

「わ、分かりました。やりますよ、やってみせますっ」

すぅっと指を鳴らす仕草をすると、五十嵐会長はやけくそ気味に頷いてくれた。しきりにお腹の辺りを擦ってる。効果は抜群である。

「……クドウさん、彼女に対してはナチュラルに鬼畜野郎ですね」

「……別にそんなことありません、たぶん……」

一之瀬さんのちょっと微妙な視線を受けながら、それぞれ配置につく。

それじゃあ作戦開始だ。

「ギュァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

竜が雄叫びを上げる。

その体は既にボロボロだった。

あの花粉によって接近できない以上、竜の攻撃手段は遠距離からのブレスのみ。

だがそれも距離が離れすぎていれば、ペオニーまでは届かない。

その前に無数の蔦に防がれてしまうからだ。

『~~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!!!』

対するペオニーの攻撃手段もほぼ同じ。

無数の木の葉による範囲攻撃だ。

何度もブレスで防がれているが、次第にその攻撃は竜に届くようになっていた。

――竜の体力の限界。

竜のブレスとて無限ではない。

回数を重ねれば重ねる程、その威力は弱まり射程も短くなってゆく。

対してペオニーは自己再生スキルがあるため、何度攻撃を行おうともその威力が落ちる事は無い。

回数を重ねる程に、その差は歴然とした優劣となって現れる。

「ギュァァアアッ!?」

竜はペオニーの攻撃を防ぎきる事は出来ず、その体は少しずつ切り刻まれてゆく。

そして攻撃を喰らえば、反応は鈍り、動きは遅くなる。

悪循環。竜は完全にペオニーの戦法に嵌っていた。

「ギュァ……ァァ……」

満身創痍。

そして、決着の瞬間は訪れる。

しゅるりと、遂にペオニーの蔦が、竜の脚に届いたのだ。

「ッ!?」

疲弊していた竜はそれに気付くのが数瞬遅れた。

それはペオニーを前にして致命的な隙であった。

シュルルルルルルルルルッッ! とペオニーの蔦は瞬く間に竜の脚を絡め取った。

ガクンッと、竜の体が空中で急停止する。

すぐさまブレスで蔦を焼き切ろうとするがもう遅い。

勢いよく竜は蔦に引っ張られ、おもいっきり地面に叩きつけられた。

「ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

堪らず竜は悲鳴を上げる。

空の支配者たる自分が空を見上げるなど、余りに屈辱的であった。

何とか蔦を爪で切り裂き、何とかその場から飛び立とうとする。

だが、既に視界いっぱいにペオニーの蔦と木の葉が広がっていた。

それは 植物 ( ペオニー ) によって創られた『檻』だ。

――逃ガサナイ。

そう言われているようだった。

既にボロボロのこの身では精々あとブレスを一発撃てるかどうか。

あの攻撃を防ぐことなど出来ないだろう。

「ギュァ……」

竜は己の運命を悟る。

自分は間違いなくここで果てるだろう。

だがその瞳はまだ死んでいなかった。諦めていなかった。

「ギュルルル……ッ」

口に己の残った魔力を込める。

諦めない。諦めて堪るものか。

コイツに殺された番いの為にも、自分がここで負けるわけにはいかないのだ。

さあ、喰らうがいい! 竜の怒りをその身に刻み込んでやる!

「ギュゥゥウウウウアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

咆哮と共に、竜は最後のブレスを放とうとする。

その瞬間だった。

目の前に広がる無数の枝――その内の一本が不意に折れた。

たった一本。だが、それは明らかに何者かによる攻撃であった。

――赤イ銃弾?

竜は驚異的な視力でその正体を看破する。

折れた枝を貫いたのは、赤い銃弾だった。

それは昨日、竜が右眼をやられた時のあの攻撃に似ていた。

あの人間が撃ったのか?

分からない。

だが、更なる混乱が竜の目の前に広がった。

赤い銃弾はグニャグニャと形を変え、小さなスライムへと姿を変えたのだ。

「ッ!?」

更にそのスライムは体を震わせ、ポンッポポポポンッとその数を爆発的に増やしてゆく。

数を増したスライムは重力に従いそのまま竜の方へと落ちてくる。

空の光を遮り、小さな『影』が竜の額に出来上がった。

「――わんっ!」

「ッ!?」

すると突然、目の前に犬が現れた。

なんだ、この犬っころは? 一体どこから現れた?

「おいおい、ボロボロだな……。まあ、こっちもその方が運びやすくていいけど」

人間の声が聞こえた。

この声、聞き覚えがある。

昨日、自分を散々挑発したあの人間の声だ。

「よう、昨日ぶりだな、 竜 ( ドラゴン ) 」

その人間が、突然目の前に現れた。

「ギュァ……?」

竜はさらに混乱した。

そう言えば、昨日もこの人間は突然現れては消え、殺しても何度でも蘇ってきた不気味な奴だ。

――最悪だ。

竜は己の運の悪さに歯噛みした。

おそらくこの人間は自分とあの木が戦っているのに気付いて漁夫の利を得ようとやって来たのだろう。

相変わらず狡賢い奴らだ。

前の大陸でもそうだった。弱いくせに奴らは知恵ばかり無駄に働くのだ。

だがどうする? どうすればいい?

考えるが、この状況を打開する手段が思いつかない。

「大丈夫。あと数秒くらいなら時間は稼げるよ」

「?」

何を言っている?

そう言えば、どうしてあの木から追撃が来ない?

空を覆う『檻』も動かずそのままだ。一体どうして?

そんな混乱を極めた竜は不意に、目の前の犬っころがじぃっと自分を見つめている事に気付く。

「わんっ」

「ギュァァ……?」

なんだ?

貴様はあの人間の仲間なのだろう?

噛み殺してやろうか?

敵愾心をむき出しにして、竜は犬っころを睨み付けるが、向こうは視線を逸らすどころか、恐怖に震える事もしなかった。

己を前にしても震えないその胆力に竜は少しだけ感心する。

すると、

≪モモが仲間になりたそうにアナタを見ています。仲間にしてあげますか?≫

「…………………………ギュァ?」

頭の中に響いたその声に竜は完全に混乱した。