274.モンスターがあふれる世界になったので
274.モンスターがあふれる世界になったので
最終回です
活動報告の方も更新しております
――終わりよければ全てよし……なんてのは物語の中だけの話で、実際にはまだまだ解決していない問題が山のように残っている。
とりあえず『英雄賛歌』の反動で死ぬほど苦しんだ後、リベルさん、先遣隊の残りのメンバーを含めて、今後の話し合いが行われた。
「これからのことについてだけど、私は先遣隊のメンバーと一緒に、一旦向こうの世界に戻る事にしたわ」
「戻る? え、戻れるんですか?」
あれってマスターキーが無ければ無理だったのでは?
「出来るわ。カズトの『英雄賛歌』で目覚める私の固有スキル『廻向転換』は『座標交換』をより強力にしたようなスキルみたいでね。向こうの世界との往来も可能に出来るみたいなの。それにスイちゃんの『緑皇領域』を組み合わせれば、システムや体への負担も極力軽減する形で行える」
「スイの固有スキル?」
そういえばスイの固有スキルってどんな効果だったっけ?
戦いの最中は確認している暇がなかったけど……。
『――『異界固定』の強化版みたいなスキルなのです、お父さん』
と思ってたら、スイが膝に乗っかって説明してくれた。
異界固定っていうとトレントが持ってた種族スキルか。確かこちらの世界と向こうの世界の同化を阻害するみたいな効果だったっけ?
『阻害だけでなく、向こうの世界との一時的なパスも繋げられるようになったのです。限定的ですが、向こうの世界の事情が把握できます』
「そりゃすごい」
今後においてはこれ以上ない程に有益なスキルだ。
流石、神樹の生まれ変わり。
「では今後は向こうとこちらの世界を往来すると?」
そう訊ねると、リベルさんは少しだけ残念そうな顔を浮かべた。
「……それは無理よ。出来るのは一回だけ。向こうに戻れば、パーティーメンバーからは強制的に外されちゃうもの。次にこちらの世界に来るのは『大陸融合』の後になると思う」
大陸融合。リベルさんたちの世界と、俺達の世界の本格的な融合。
その結果、どういう世界になるのかは、まだ分からない。
ただ少なくとも、あの白い少女の言葉の通りなら、最初にモンスターがあふれた時のような状態にはならないと思う。
「こっちの世界には戻れないけど、スイちゃんの固有スキルがあれば、私達の動向はある程度、そっちに伝わると思う。向こうの世界の人達に全てを話すわ。こっちの世界の事もね。そして説得してみせる。アナタ達が作ってくれた時間を決して無駄にしないと誓う」
すると後ろに控えていたガシュマシュも声を上げる。
「俺達先遣隊のメンバーもリベルさんに協力することにした。これでも向こうの世界じゃ英雄だからな。影響力は結構ある方だぜ?」
ランドルが居なくなった今、彼らが俺達と戦う理由もない。
協力してくれるなら大歓迎だ。
「シュリとベルドは大丈夫なのですか?」
俺と戦った忍神シュリと槍使いのベルド。この二人も一命は取り留めている。
今はリベルさんの影の中に拘束、治療中だ。
「大丈夫よ。シュリとベルドも、ランドルへの忠義よりも、私やアイヴァーへの私怨で参加してたようなもんだし説得してみるわ。まあ、嫌って言っても無理やり従わせるけどね」
こうしてみると、なんだかんだで先遣隊のメンバーも半数以上が生き残ったんだな。
死んだのはランドルも含めて四名だけ。
だが今後の事を考えれば、彼らが生き残ったことも幸運だったといえるだろう。
なにせ俺達に残された時間はあと十年しかないのだから。
「そういえば、マスターキーは破壊してしまいましたが、本当に大丈夫だったのですか?」
「問題ないわよ。アレは外部の人間がシステムに干渉するためのアイテムだから。システムが正常に稼働している今じゃ、逆に邪魔なだけ」
確かにあればあれで第二、第三のランドルが現れるとも限らないもんな。
システム自体に不安がないといえば嘘になるが、それよりも悪用される方が遥かに恐ろしい。
過ぎたる力は自分も滅ぼす。
それはランドルの最期を見てもよく分かる。
「じゃあ次に――……」
その後も様々な話し合いが行われた。
こちらの世界での俺達の今後の動き方。他の固有スキル保有者、ネームドモンスターの所在。
向こうの世界での予想される動き。
リベルさんや先遣隊の持つ知識やシステムの特性。
数日にわたって行われた話し合いもようやく終わり、リベルさん達が異世界に戻る日がやって来た。
「本当に……もう向こうの世界に行くんですか?」
「ええ。だってこれ以上いれば、戻りたくなくなっちゃうもの。決心が鈍る前に戻りたいのよ」
「……分かりました」
正直に言えば、まだまだリベルさんにはこちらの世界に残って俺たちの手助けをしてほしい。
でもそれじゃあリベルさんの言った通り、決心が鈍ってしまうだろう。
俺達の世界だけじゃない。両方の世界を共存させるために、彼女はこれまで頑張って来たのだから。
「それじゃあカズト、頼むわね」
「はい。『英雄賛歌』――発動」
俺は久々に英雄賛歌を発動させる。
上杉市長をパーティーメンバーへ加え、リベルさん達が戻るのに必要な固有スキルを発現。
『――『緑皇領域』発動。……うん、向こうの世界とのパスを確認したのです』
そう言ってスイが手をかざすと、目の前の空間が僅かに歪んだ。
「そこね。――『廻向転換』発動」
次にリベルさんが固有スキルを発動する。
すると空間が更に歪み、巨大な黒い渦が出現した。
「……これ本当に大丈夫なのか?」
ガシュマシュが不安そうな声を上げる。
「そう思うなら、アンタがカナリヤになりなさい。ほれ」
「あ、ちょ――」
そんなガシュマシュをリベルさんが後ろから蹴ると、彼の体は黒い渦に吸い込まれた。なんて無慈悲な……。
「スイちゃん、どう?」
『――確認しました。向こうの世界で、今の人の気配を感じたのです』
「よし、安全性は確認されたわね。じゃあ、ちゃっちゃと行くわよ」
……マジでカナリア扱いだったらしい。ちょっとだけガシュマシュに同情してしまった。あと今更だが、このスキルで先遣隊だけを向こうの世界に戻す事は出来ない。あくまでリベルさんが同行するのがスキルの条件だからだ。
「かっかっか! それじゃあな! 次に会う時にはもっと腕を上げておけよぉ!」
「……九条あやめによろしくと伝えておいてくれ。この世界の剣聖と話せて実に有意義だった。また会おうとな」
先遣隊のメンバーが次々に入ってゆく。
最後に残ったリベルさんは相葉さんの方を見た。
「アイヴァー、アンタは本当に戻らなくていいの? 向こうの世界でなら、また人間に戻る事も出来るのよ?」
「ええ。これは私が選んだ選択ですから。それに私の力はまだこちらの世界で必要でしょう。だからベルドのこと、よろしくお願いします」
「……分かったわ。アンタも頑張んなさい」
リベルさんは相葉さんの胸を軽く叩くと、次は海王様の方を見る。
海王様も見送りに来てくれたのだ。
「シュラム、後のことは任せたわよ」
『安心しろ。我がなんとかせずとも、この世界の人々は強い。きっとお前が望む未来を築いてくれるはずだ』
「ふっ、そうね……」
海王様の体をかるく撫でると、最後にリベルさんは俺達の方を見た。
「十年後、再びアナタ達に会えるのを楽しみにしているわ。その時は、本当の意味でアナタ達と手を取り合えることを願ってる」
差し出されたその手を、俺は握り返す。
「勿論です。お互い頑張りましょう」
「ええ、また会いましょう、カズト」
そしてリベルさんは異世界へと帰って行った。
十年後、再び会えることを信じて――……。
●
「――さて、それじゃあ俺達も出発しますか」
「ですね」
「わんっ」
リベルさん達が異世界へ戻り、俺達も活動を再開する。
今後の活動としてはまず、世界がこうなった経緯と、今後起こる異世界との大陸融合と移民の情報を各地に知らせることだ。
俺達だけでなく、西野君たちのグループ、市役所メンバー、あや姉のグループも連携して、世界各地へとこの事実を伝えてゆく。
まずは日本、その後は海外だ。
移動手段も以前より格段に増えたし、今後は加速度的に行動範囲が広がってゆくだろう。
ソラに乗って移動していると、魔剣に戻ったアロガンツが話しかけてくる。
『はぁ……退屈だね。ねえクドウカズト、たまには『英雄賛歌』を使って、私を解放してくれないか? 頼むよ、ほんの数時間でいいから』
「駄目に決まってるだろ」
進化して『英雄賛歌』の持続時間も伸びて、反動も少なくなったとはいえ、なんでお前の暇つぶしの為に、そんなことしなきゃならないんだ。
そう思っていると、ソラも声を上げる。
『我もたまには『英雄賛歌』を使うべきだと思うぞ? ついでにそこの魔剣の奴に『魔王礼賛』も使わせろ。そして夫に会わせろ。会いたい、会いたい、会いたい』
「……それはまあ、これから何とかしてみるよ……」
『絶対だぞ? 約束だからな? 嘘だったらタダでは済まんぞ?』
「勿論だって。というか、お前本当にフランメさんが絡むとキャラが変わるな……」
むしろこっちがソラの素なのだろうか?
『おい、私とソラとでは態度が違いすぎないか?』
「当たり前だろ。フランメさんはお前と違って話が分かるモンスターなんだから」
ソラの旦那さん――竜王フランメさんや蘇ったネームドは、アロガンツが魔剣に戻ったのと同時に消滅した。
固有スキルで蘇ったモンスターには相葉さんの『完全再現』も効果は無いらしく、あの時のソラの悲しみと暴れっぷりといったら凄かった。会わせろ、会わせろって毎日のように詰め寄ってくる。
まあ、その気持ちはよく分かる。
「だから、まずはそれが出来るかもしれない固有スキルの保有者を探しにいくんだろうが」
『当然だ。最優先で探せ。早く我を夫に会わせろ』
――固有スキル『蘇生』。
人でもモンスターでも一度だけ蘇らせることが出来る破格の固有スキル。
その所有者もこれから向かう場所に居るらしい。
情報源はあや姉の固有スキル『叡智』。知りたいことがほぼ何でも調べられるって俺の『早熟』より遥かにチートだと思う。
「あ、見えてきましたよ!」
「おぉ……やっぱり大きいですね」
一之瀬さんが指さす先にあるのは巨大な大地――北海道。
あそこに『蘇生』の固有スキル保有者が、それと『強奪』と『断絶』の固有スキルの保有者、更に六王の一角『幻王』候補のネームドも居るらしい。流石、試される大地。イベント山盛り感が凄い。
「……流石に北海道なら、シュヴァルツも追って来ないだろ」
「わふんっ」
モモは当時のことを思い出したのか、俺の膝の中でぷんぷんしている。
「ふふ、あの時のモモちゃんの剣幕は凄かったですからね」
一之瀬さんも思い出したのか、思わず笑ってしまったようだ。
あの戦いの後、傷を癒したシュヴァルツは仲間と共に俺達の前に現れた。
正々堂々、勝負を挑みに来たのだが、それがモモの一声で延期になったのだ。
「こっちはそれどころじゃないんだーってモモちゃん、それはもう怒りぷんぷんでしたからね」
「シュヴァルツも完全に毒気を抜かれてましたね……」
完全に拒否柴モードを発動したモモに、シュヴァルツも流石に困惑したらしい。
いちおう十年後の大陸融合が終わった後でって約束したけど、なんやかんや理由を付けては俺達の元へやって来ては勝負を挑んでくる。
そしてその度に、モモの拒否柴モードが発動し、意気消沈して帰ってゆく。
……あれ、勝負を挑みに来てるというより、単にモモに会いに来てるだけなんじゃないかな?
なんでもモモが食べた魔石が、シュヴァルツの番いのものだったらしいし。
ただ来るたびにアイツの力は上がっているし、仲間も増えて進化している個体も多い。なんかその内、魔王みたいになりそうで怖い。
まじで戦いたくない。
「十年後、ですか……。私達、どうなるんですかね?」
ふと、一之瀬さんがそんなことを口にする。
「さあ、それは分かりません。でもリベルさんと約束しましたからね。お互いに共存しあえる世界にするって」
ぶっちゃけただの社畜だった俺には荷が重い話だ。
それでもやるしかないし、これは他の誰でもない、俺自身が決めたことだ。
だったら全力でやってやる。
ついでに一之瀬さんやモモたちと一緒に世界旅行もしてやろうじゃないか。
それくらいの気持ちで臨んだってバチは当たらないだろう。
「だからまぁ、これからも一緒に戦ってくれると嬉しいです」
「当たり前じゃないですか。ずっと一緒に居るって言いましたよね?」
「わんっ」「きゅー」「……(ふるふる)」『ふんっ』
一之瀬さんの言葉に、モモたちも声を上げる。
その姿を見ていると、俺も自然と笑みが浮かんできた。
「そうですね。それじゃあ、これからも一緒に生きていきましょう。この――モンスターのあふれる世界で」
俺達は生きてゆく。
これからもずっとこの世界で。
何よりも大切な仲間と共に――。
『モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います』
完
読んで頂きありがとうございます
これにて『モンスターがあふれる世界になったので、好きに生きたいと思います』は完結となります。
小説家になろうに投稿してから約7年。
こうして完結まで書き続けることが出来たのは、間違いなく本作を読んで頂いた読者の皆様のおかげであります。
欲を言えば、もう少し早めに書きたかったです。書籍版は別ルートにしちゃったし、色々あってweb版は途中期間がだいぶ空いてしまいました。
お待たせしてしまった皆様には申し訳ないです。
ですが本作を読んで、楽しかった、面白かったよと言ってもらえたら何よりうれしいです。
あとこれを機に書籍版も読んで頂ければ尚嬉しいです。
アロガンツや葛城さんとかほぼ別人よ?
ランドルや先遣隊メンバーも設定は変わってますがイラストとかも載ってます。
また完結を迎えましたので、改めまして本作が面白かったと思ったらぽちっと下から評価して頂けると嬉しいです。
完結はしましたが、ちょこちょこ後日譚なんかも投稿していく予定です。
彼らの十年後の物語も読みたいと需要があれば、ひょっとしたら新作として書くかもしれません。
ここでは書き切れない部分は活動報告の方に載せてあります。
あと本作の外伝にあたる『現代剣聖物語』や新作の『魔物にプロテインをあげたらとんでもないことになった件 』も読んで頂けたら嬉しいです。
では最後にもう一度。
本作を読んで頂きありがとうございました!