お嬢様は最高だぜ!
お嬢様は最高だぜ!
居間に通され、そこで、くたくたのせんべい座布団にお嬢様を座らせる釧路。
「ほんと、こんな場所で申し訳ないです……」
「い、いえ、いいの!! 大丈夫です!!」
妹はまだ少し疑いの視線を向けているが、黙って一緒に座っていた。
「ごめんなさいねぇ、あまり大したおもてなしができなくて……」
水が注がれたコップを持ち、釧路の母がやって来て、二人の前に座る。
「いえ、とんでもございません。えーっと、釧路くんのお姉さん?」
そう言われて、釧路の母は「まぁ」と言って両手で口を隠す。
「石垣さんったらお上手なのね、お母さんですよ」
「えぇ!?」
石垣はお世辞を言った訳ではなく、本当にそう思っていたのだ。
釧路より少し明るめの茶髪をハーフアップにしており、肌つやや体型も子供がいる年には到底見えない。
「まぁー、嬉しいわー!!!」
釧路と妹は声を揃えて言った。
「母さん、恥ずかしいからやめて」
「はいはい。それで石垣さん、私達も一緒にって何のお話?」
石垣は緊張しながらも言葉を出す。
「それは……。こんな夜分に突然来て申し訳ございませんが、単刀直入に言います。釧路くんを私に下さい!!」
釧路と妹はブーッと水を吹き出した。
「え!? そ、そういう関係? 逆プロポーズ?」
母もあわあわとしだしたが、言葉が悪かったと、石垣も落ち着いて言い直す。
「いえ、その、違くて!! 釧路くんとお母さま、妹さんがよろしければですが!! 私の家で家事のお手伝いをしてほしいんです!!」
釧路の母はますます混乱する。
「えっ、ますますどういう事かしら?」
「母さん、石垣さんは石垣財閥の関係者で、その娘さんなんだ」
そう言われ、母も妹も今日何回目かも分からない驚きの声を出す。
「えぇー!?」
「実は、俺、今日退学届を出そうと思ってさ、それを石垣さんに見られて。ごめんだけど家の事情を話しちゃったんだ」
その言葉に、釧路の母は胸を痛めた。
「そんなっ……」
「でも、石垣さんが、俺達家族を雇って、家にも住ませてくれるって」
母と妹は無言になる。石垣はやっぱりこんな提案はダメだったかと俯いた。
「やったー!! 本当に良いの石垣さん? お仕事ゲットだわ!!」
釧路の母は笑顔で喜び、ポカンとする石垣。
「私も、お屋敷に住めるなら行く!!」
妹も乗り気だ。立ち上がって両手を上にあげてバンザイしている。
そこで釧路がお辞儀をした。
「というわけで、よろしくお願いします石垣さん。いや、お嬢様」
「え、えぇ!? 本当に大丈夫なんですか!?」
あっさり決まりすぎて困惑する石垣に、釧路の母は親指を立て言う。
「決断力の速さが釧路家の良い所です。お嬢様」
釧路の妹もゴマをすりながら石垣に言う。
「そうですそうです、お嬢様」
「まぁ、それなら……。で、でもお嬢様って言われるのは恥ずかしい……ので……」
赤面する石垣に、釧路は
「ですが、お嬢様以外に呼び方がありませんよ、お嬢様」
そう言って更に赤面させる。
「お嬢様バンザーイ!」
妹がコールを始めると、釧路家総出でバンザイコールが巻き起こる。
「お嬢様バンザーイ!!! お嬢様バンザーイ!!! お嬢様バンザーイ!!!!!」
「ちょっ、やめ、やめてー!!!」
石垣と釧路家の面々が顔を合わせたその日は、ひとまず解散となり、明日面接という形になった。
今日はちょうどバイトが無かったので、18時に迎えが来るという約束だった。
家にいる釧路家の三人はその時間を静かに待っていた。
「あ!! 来たんじゃない!?」
高級車が家の前に停まり、三人は急いで階段を下りる。
執事の御影が車のドアを開け、中からお嬢様が降りてくる。
「お待たせいたしました。皆さま」
「いえ、全然お待ちしておりません、お嬢様」
釧路がまたお嬢様と言うと、石垣は照れていた。
「だ、だからお嬢様は……。まぁいいです。お乗りください」
慣れない高級車に三人は乗り込む。
「お初にお目にかかります。亜子お嬢様の執事を務めさせて頂いております。御影でございます」
堅苦しい自己紹介をされ、釧路の妹が元気よく挨拶を返した。
「釧路|真菜《まな》です! よろしくお願いします!」
続けて母が挨拶を入れる。
「真幸の母の真弓と申します。よろしくお願いいたします」
それを聞いて御影も目を開いて驚く。
「母? 失礼ながらお姉様かと思っておりました……」
「まぁ! 御影さんもお上手な事!」
真弓は照れながら首を振っていた。そんな反応を見て、息子と娘の二人の方が恥ずかしかった。
「あぁ、そうそう。お嬢様、俺の事は|真幸《まさき》って呼んでください」
「えっ!? えぇ!? い、いきなり名前呼び!?」
「いや『釧路』じゃ、ここの三人全員『釧路』なので」
それもそうかと石垣は納得し、それならばと自分も言う。
「そ、それじゃ、私のことも|亜子《あこ》って呼んでほしいな、なんて……」
「かしこまりました。亜子お嬢様」
真幸に言われ、顔を赤らめる亜子。
車を走らせながらの雑談は続く。
「そういえば、亜子お嬢様は何故、俺を雇おうと思った……。いや、思われたんですか?」
「その、えーっとね……。そう! クラスメイトが学校を辞めちゃうのは悲しいから……」
「なるほど、お優しい」
真幸はうんうんとうなずいてその言葉を噛みしめていた。
そんな中、真幸の母、真弓は改めて確認をする。
「でも亜子お嬢様、本当にいいのかしら?」
「亜子お嬢様はやめて下さい!! お母さん!!」
思わず勢いでお母さんと言ってしまった事に気付き、亜子は顔が赤くなっていった。
「あらあら、お母さんなんて」
「す、すみません!!」
「いや、良いのよ。お嬢様」
妹の真菜もニヤニヤしながら亜子に言う。
「私は亜子お姉様とお呼びしてもいいですか!? やっぱダメですか!?」
「お、お、お姉様!?」
釧路家のノリにたじたじになる亜子だったが、不思議と嫌な気はしなかった。