マナー
マナー
「そうだ、私。お食事のお手伝いをしてくるわ」
真幸の母である真弓がそう言って立ち上がる。
「いえ、皆さんはお疲れでしょうし、今日はゆっくりしてください」
亜子は止めるが、釧路家の面々は一斉に立ち上がった。
「私も手伝うー!!」
「俺も同行しよう」
真菜と真幸も立ち上がり、亜子は仕方なく厨房に案内する
「おや、皆さん」
御影は料理を温めながら亜子と釧路家の方を見た。
「お手伝いに来ました!」
元気よく真幸が言うと、御影は初めてフッと笑う。
「いい心がけですが、今日はもう温めるだけですので、皆さんは食堂でお待ちください」
「ですが……」
真弓が言いかけると、御影は遮った。
「明日から、よろしくお願いいたします」
「それだったら、わかりました」
釧路家は一礼して厨房を去っていった。
亜子に案内され釧路家は食堂の椅子に座って待っていた。
「お待たせいたしました」
運ばれてきたのはカボチャのスープだ。
「ありがとう、御影さん。さぁ、皆さんいただきましょう!」
そう言って亜子がスプーンを持つと、釧路家の面々も真似て持つ。
「いただきます!!」
スプーンでスープを|掬《すく》い、真幸は口に運ぶ。
優しい甘みが口いっぱいに広がり、目を見開いた。
「お、おいしい……」
妹の真菜と母の真弓も同じような反応だ。
その後も次々と運ばれてくる料理。
だが、真幸は浮かない顔をしていた。
「あの、亜子お嬢様……。俺、テーブルマナーとか知らなくて……」
そんな言葉にあわあわとして亜子は答えた。
「だ、だから、お嬢様じゃなくて良いから!! テーブルマナーも別に気にしなくていいから!!!」
悲しそうに母の真弓も言う。
「ごめんなさい。教えられる機会がなくって……」
「い、いえ、とにかく好きに食べてください!!」
亜子の言葉に安堵し、釧路家は好きなように食べ始めた。
満腹になり、亜子と御影に釧路家の面々がお礼を言った。
御影は軽く頭を下げて返事をする。
「ご満足いただけて何よりです」
亜子も立ち上がり、釧路家の皆に声を掛ける。
「それじゃ、夜も遅いし、皆さんのお部屋にご案内します」
広い廊下を渡り、使用人部屋に案内される釧路家。
一つの部屋の前で立ち止まり、亜子は言う。
「まず、真弓さんはこちらに……」
その言葉に釧路家の面々は驚く。
真菜が思わずお嬢様に尋ねた。
「も、もしかして……。一人一部屋ですか!? お姉様!!」
「え? えぇ、そうですが……」
その言葉に真菜は目を輝かせる。
「やったー!! 憧れの自分の部屋だ!!」
案内された部屋も立派なもので、真菜はすっかりテンションが上がっていた。
「それで、真幸くんの部屋はここ!」
最後に真幸が案内された。そこで亜子は言う。
「とりあえず。明日色々とご説明しますので、今日はゆっくりと休んで下さい。あぁ、荷物の搬送も引っ越し業者を頼みますので」
真幸は申し訳なさとありがたさで胸がいっぱいだ。
「もう至れり尽くせりで、何とお礼を言っていいのか……」
亜子は気にしないで欲しかったが、釧路家の面々は頭を下げる。
「だ、大丈夫ですから! それじゃおやすみなさい! ゆっくり休んで下さいね!」
早速、真幸は部屋の中で、ベッドに横になってみた。
ベッドで寝るなんて中学の修学旅行以来だった。
今まで感じた事もない柔らかさに包まれて、いつの間にか眠ってしまっていた。