LNCrawler

401. 撃退戦5

お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜 — ncode.syosetu.com · All chapters

撃退戦5

アルテの人形改良計画は大成功だった。いや、今回の改良は対ヒュドラ専用の改造ではあるが、それでも上手くハマったと思う。

「空中に飛び出し過ぎないようにね!」

「は、はい!」

アルテが返事をすると、人形の動きもすぐに変化する。ぴょんぴょんと飛んでいた人形は地を這うように走り出し、回避に集中している。飛べば五本の首が襲い掛かってくる為、いつかは攻撃を受けてしまうだろう。

ウッドブロック製の人形であっても、大型魔獣相手だと一撃で破壊されてしまう可能性が高い。爪だろうと牙だろうと尾の一撃だろうと半壊以上のダメージを受ける。ならば、回避力に全振りした尖った性能の人形が一番良いという判断だった。

結果、アルテの人形は何度もヒュドラの攻撃を避け、二度三度と剣を当てていた。相手が大き過ぎて決定的な一撃を入れることは出来ないが、それでも十分過ぎるほどの活躍をしてくれている。

更に、そこへクロスボウを手にした人魚達が援護を開始した。現在は二十個のクロスボウがあり、一人二本の矢を持って攻撃し始めたのだ。小さな矢による攻撃であっても、目や口内など、少しでも痛みを与えることが出来るなら十分である。重要なのはヒュドラに狙いを定めさせないことだ。

「効果があるみたいです!」

「すごい!」

雨のような矢が降り注ぎ、ヒュドラは鬱陶しそうに尾を振り回しながら振り返った。とはいえ、頭の一つはまだアルテの人形に向いている。

「い、今なら……!」

隙が生まれたと思い、焦りが出た。アルテは一言呟くと、人形を一直線に走らせ、残ったヒュドラの首に向かって行った。だが、アルテの人形を睨んでいたヒュドラは即座にもう一本の首を戻し、横から人形へ噛みつきにくる。

それに気がついて人形も地を蹴って飛ぶが、ヒュドラの動きは尋常ではなかった。横から突っ込んできた首が、軌道を変えながらアルテの人形を捉え、胴体部分を牙が貫く。瞬きする間もない一撃だった。

「……っ!」

アルテが息を呑む声がする。大きなショックを受けているかもしれない。しかし、それを慰めている余裕も無い。

「ぬん!」

アルテの人形の破片が舞う中、ディーが大剣を振り上げて飛び込んでいた。戦場で培った嗅覚か。それとも野生の勘なのか。ディーは僅かな間に訪れた絶好の機会を見逃さずに攻撃を加えた。

アルテの人形を破壊する為に、ヒュドラの首の一つが右から左に真っすぐに伸びている。その首を、ディーの大剣は上から下に斬りつけた。

大量の鮮血が舞い、ヒュドラの五つの頭が同時に絶叫する。ディーの膂力もあり、二メートル近い刃はヒュドラの首一本に深手を負わせることに成功する。太いヒュドラの首が、半ばまで切断されている。恐らく、骨に達する一撃だったはずだ。

この一撃はヒュドラを動揺させるには十分なものだった。結果、ヒュドラは胴体の動きを止めて尾と首を動かし、最も強敵であると認識したディーへ総攻撃を仕掛ける。

振り向き様に地上を走る尾の一撃。遠目から見ても巨大な尾が高速で移動する恐ろしい攻撃だが、ディーから見れば壁が迫るようなものだろう。その尾による攻撃を、ディーは大剣で受け流しながら空を舞う。そこへ、四本の首が殺到した。

「バリスタ発射!」

「一斉攻撃だ!」

ヒュドラの動きが止まったら攻撃するとは伝えていた。それにしても、最高のタイミングだ。砦の上からアーブとロウが指揮をとり、同時にバリスタが矢を発射する。連続で二本ずつ。合計四本の矢が次々にヒュドラの体に向かって飛来した。

ディーに当たらないかと肝を冷やしたが、バリスタの矢は三本が体に命中し、残りの一本が偶然にも激しく動く首に命中する。その威力と衝撃は、あの巨大なヒュドラの体をも揺るがした。

「ぬおっ!?」

ディーを狙っていた牙の多くはそれたが、それでも一つはディーを捉えてしまう。大剣で直撃は避けたが、それでも空中では衝撃を逃がすことが出来ない。ディーは勢いよく砦の方へ吹き飛ばされてしまった。

その時、パナメラ達の魔術も詠唱を終えて発動する。

「炎槍!」

パナメラの魔術が合図となり、連続して魔術がヒュドラの体に迫る。これには流石にヒュドラも撤退するだろう。そう確信できる猛攻撃だ。

しかし、予定と違う事態が起きた。攻撃を受けながらも、ヒュドラがこちらに迫ってきたのだ。いや、正確には砦を目指しているのだと思うが、その方向には僕たちも立っている。

海岸に、巨大な何かが降ってくる。あまりの大きさにそれが足だと認識出来なかった。僕が作った砦よりも大きな前足だ。いや、手なのか前足なのか判断に困るところだが、とりあえずヒュドラの巨体を支えるに足る巨大なものだった。ぱっと見で二本か三本の爪が目に入ったが、前に伸びた太い爪を受けるだけで砦が破壊されそうだ。

「退避! 絶対に退避! 砦の皆も退避ー!!」

叫びながら走り出す。慌てて皆も走り出したが、アルテが遅い。

「アルテ!」

「アルテ様!」

ティルと一緒に名前を呼び、手を引いて走る。アルテも必死に走ろうとしているが、間に合いそうにない。

「カムシン……っ!」

その時、砦の方からディーの叫び声が聞こえた。腹に響くような大きな声だ。

「守れ!」

その一言に顔を上げた時、空が暗くなる。何が起きたのか分からなかった。だが、カムシンが横から飛び込んできたことは理解できた。

ラグビーのタックルに近いだろう。ロケットのように飛んできたカムシンの力で、なんとティルやアルテも含めて、僕たちはまとめて吹き飛んだ。そして、次の瞬間には目の前に黒い壁が出現する。

ヒュドラのもう一つの足だ。

そう認識した時、僕たちは揃って海岸から転げ落ち、海へと落ちてしまったのだった。