LNCrawler

402. 撃退戦6

お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜 — ncode.syosetu.com · All chapters

撃退戦6

二度目の海へのダイビング。もし可能なら次はシュノーケルくらい欲しいと思っていたのだが、残念ながらそれは間に合わなかった。

身体全体で抵抗を感じ、肌で海を感じる。音が変わり、ごぼごぼという音や鼻に入った水の痛みでここがもう水中であると理解出来た。目を開けてもぼんやりとしか見えないが、それでも皆の安否が気になって目を開ける。

アルテとティルの手は離さずにいたようだ。そして、カムシンも僕の両肩を抱くようにして抱き着いている。今回は、四人が揃って海の中だ。いや、安心するポイントではないかもしれないが、何となくホッとした。二度目ともなると、何故か妙に落ち着いている。

「ぶぶぼぼぶぼー」

どうしようかなー、みたいなコメントをしてみたが、喋れなかった。当たり前である。ティルとアルテの髪が昆布みたいに海中に漂う光景を眺めながら足をバタバタと動かしていると、不意に金色の昆布が現れた。

リルダだ。ラルグス達も現れ、あっという間に人魚達が十人近く集まってきた。そして、僕たちの体を支えて海面へと浮上してくれる。ちなみに僕の体はリルダではなくラルグスが掴んで運んでいた。いや、別にその情報に他意はないけれど。

「ぷはっ」

海面に上がり、皆で同時に息を吸う。新鮮な空気を取り込み、生き返ったような感覚になった。

「はぁ……ありがとう」

リルダ達を見てそう告げると、笑顔で頷いてくれた。可愛い。リルダ達にお礼を言ってすぐに皆の顔を確認して、カムシンにもお礼を言う。

「カムシン、ありがとう。助かったよ」

「い、いえ……!」

カムシンは本当に嬉しそうに目を細めてそう答えた。それに微笑み、ヒュドラへ目を向けた。そこではまだ戦闘が続いており、まるで怪獣映画のような光景が広がっていた。

「あ、オルトさん達も帰ってきたのか」

砦のバリスタ以外からも矢が飛んでいるのを見て、小さく呟く。避難するように指示したつもりだったけど、砦の上にはパナメラの姿もあるようだった。なにせ、バリスタが一斉に発射したら矢を準備する間に魔術による攻撃が繰り広げられている。

「もしかして、僕が海に落ちたから急いでヒュドラを撃退しようとしているのかな?」

そう口にして、流石に焦ってきた。このままいけばヒュドラが上陸を果たすのは間違いない。そう思ったのだが、その懸念を打ち破るようなディーの怒鳴り声が響いてきた。

「退けぃ……っ!」

まさかヒュドラに退けと言ったのだろうか。そう思いながら陸地の傍に移動させてもらうと、陸上で繰り広げられる光景に声も出せなくなった。

鬼気迫る表情のディーが、ヒュドラの首の一本を踏み台にして飛び上がる姿が目に入ったのだ。いや、それどころか、動きを止めていた首に向かって斬りかかる始末である。最初にディーが深手を負わせた首を、下から切り上げるようにして薙ぎ払う。

これが決め手となった。

ディーの大剣は深くヒュドラの首に刃を沈め、ついに両断を果たす。ヒュドラの大きな首が地面へと落下していき、本体も仰け反って海の方へ後退する。

「おお! ヒュドラの首一本ゲット!」

最高の素材だ。間違いない。これはもしや、ヒュドラ装備なんて夢の防具が作れるのではないか。

夢の素材に胸をときめかせている中、ティルが興奮した様子で声を上げた。

「ヒュ、ヒュドラが帰っていきます! 海に!」

その言葉に顔を上げると、頭一つを失ったヒュドラが大きく体を動かして海の方へ向かっていた。そして、そのまま海の中へ頭から入っていく。

「や、や……っ」

やったー、と言おうとしたのだ。だが、海に帰り際に海面に飛び出たヒュドラの尾が海の家を破壊していって言葉が出なかった。ついでのように壊された海の家を眺めて、喜びが半減する。

「……と、とんでもない魔獣でしたねぇ」

ティルが乾いた笑い声をあげてそう呟くと、アルテが涙目で何度も頷いていた。

僕、ヒュドラ嫌い。

リルダ達に連れていってもらい、無事に陸地へと戻ることが出来た。

「ヴァン様! ご無事でしたか!」

「ヴァン様ー!」

大剣を担いだままのディーが走ってきて、アーブとロウも遅れてやってくる。砦の屋上ではヒュドラが戻ってこないか警戒した様子のパナメラの姿があったが、ちらりとこちらを見て笑みを浮かべていた。

「皆、ありがとうね」

セアト騎士団の皆を一人一人見て、心からの感謝を伝えた。皆は照れ臭そうに笑いつつも、ハイタッチしたりして喜びを分かち合っている。それだけの強敵だったということだ。なんなら、イェリネッタ王国一国を相手にするよりも命の危機を感じたくらいだ。

大型の魔獣、恐るべしである。

そんなことを思っていると、ディーとアーブ達がカムシンの下へ群がっていった。

「カムシン、よくやったぞ」

「やるじゃないか!」

「最高の働きだ!」

ディー達が次々にカムシンに声を掛け、肩や背中を叩いたりしている。それに、カムシンは満面の笑みで応えたのだった。