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404. ヒュドラの脅威

お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜 — ncode.syosetu.com · All chapters

ヒュドラの脅威

トリブートまでは意外にも短かった。なんなら一時間半もかかっていない。

「こんなに近かったの!?」

僕がそう言ってしまうのも当然だろう。だが、アーブが青白い顔で口を開く。

「ヴァン様……この距離が、どれだけ遠かったか……」

アーブの言葉に、ロウも無言で頷いている。その様子を見て、海を渡ることの怖さを改めて実感した気がする。

「なるほど……確かに、海の上であんな怪獣と戦ってられないよね。本当、フィエスタ王国の船の技術は脅威だと分かったよ」

溜め息交じりにそう告げつつ、トリブートの港に船を寄せる。船を着桟させる時にはもう港に人だかりができていた。というか、騎士団から何から色々と人が集まっている。お祭りか? これから海の神様を崇めるお祭りでも始まるのか。暴王とか海王とかいう怪獣は撃退してしまったが。

そんなことを思っていると、船の下から大きな声が聞こえてきた。

「ディー殿御一行の船とお見受けする! パナメラ伯爵、ヴァン子爵の捜索に進展はあっただろうか!?」

船の下から野太いおじさんの声が響いてきた。その声に、ディーが笑みを浮かべ、大股で甲板の上を縁まで歩いて行く。

そして、船から身を乗り出して大声で宣言した。

「セアト村騎士団団長、ディーである! 我らは、見事! ヴァン様、パナメラ卿の救出に成功した!」

ディーがそう叫ぶと、港で驚きの声と歓声が一気に広がっていく。その声に笑い、パナメラやアルテ、ティルと一緒に船の甲板から桟橋へ下ろされた階段へ向かう。顔を出した瞬間、大歓声が迎えてくれた。

「ちょっと照れるなぁ」

「ご迷惑をお掛けしてしまった気がして、申し訳ないです……」

「あ、アルテ様。大丈夫ですよ。皆、優しいですから」

笑いながら手を振る僕とパナメラの横で、アルテが物凄く不安そうな顔で階段を下り、ティルが励ましていた。いや、アルテが正しい反応なのだが、どうも大歓声を受けると手を振りたくなってしまう。ふふふ。良きに計らえ。

階段を下りて桟橋の上を進んでいくと、港町から騎士達を引き連れてロッソが姿を見せる。

「おお、パナメラ卿! ヴァン卿! よくぞ、無事でいてくれた!」

ロッソは両手を広げ、笑顔で帰還を喜んでくれた。それに、パナメラが優雅に一礼をして応じる。

「ありがとうございます。お陰でどうにか戻ってくることができました」

「ありがとうございます!」

パナメラの礼に乗っかってお礼を口にしておく。それに微笑み、ロッソは頷いて答えた。

「うむ。二人の無事は陛下もお喜びになることだろう。とりあえず、今はゆっくり休むと良い」

ロッソがそう口にすると、パナメラは笑みを浮かべて顎を引く。

「ええ、ありがとうございます。それでは、遭難中に得たモノだけ閣下にお渡ししておきます」

「遭難中に得たモノ? それは……」

パナメラの言葉に首を傾げるロッソ。それに微笑み、パナメラは船の上で停船作業を行っているディーに声を掛けた。

「ディー殿! 例の物をそこから出せるか!?」

パナメラが大きな声でそう尋ねると、ディーが甲板から顔を出して拳を振り上げる。

「おお! お任せあれ!」

二人のそのやり取りに、港に集まった大勢の目が船の方へ向いた。皆の視線を集めたことを確認し、パナメラが口の端を上げる。

そして、ディーとアーブ、ロウ、カムシンが四人で甲板の端にヒュドラの頭部を置いた。その巨大な生首はその場にいる全員を驚愕させるのに十分な迫力であり、港ではすぐに驚愕の声が広がっていく。

「な、なんだ!? あの巨大な魔獣は!?」

「ど、ドラゴン……!?」

そんな叫びと悲鳴が響き渡る中、ロッソが唖然とした顔で甲板に置かれた頭部を見上げ、呟いた。

「…………まさかとは思うが、あれは、ヒュドラではないか?」

ロッソがそう口にして、パナメラが目を細める。

「まさに、ヒュドラです。私も初めて見ましたが、あまりの巨大さに驚きました」

パナメラがそう言って笑うと、ロッソは片手の手のひらを頭に置き、呆れたような声で笑った。

「は、ははは……驚いたどころではないぞ。ヒュドラは、我が領地でもこれまでに何度か目撃されている。まぁ、私の代では一度だけだがな。ヒュドラが現れれば、海に面した街道の二ヵ所が閉鎖となり、トリブートからも住民を避難させる手はずになっている。それは何故か分かるかね?」

ロッソのその問いかけに、パナメラは深く頷き、答える。

「もちろんです。これまで、どの国もヒュドラの撃退ができなかったからでしょう。巨大であり、海の中に体の大部分を沈める強大な魔獣です。どんな魔術師でも決定的な一撃を与えることはできなかったと聞いております」

その回答に、ロッソは苦笑とともに肩を竦める。

「その通りだよ。つまり、ヒュドラを撃退どころか、首を獲るなど……歴史に残る偉業だと言えよう。ヒュドラは火の魔術に対して強い抵抗力があると思うが、誰が首を落としたのだね?」

「ディー殿です」

ロッソの質問に、パナメラは即答して甲板に目を向けた。甲板ではディーが音頭を取り、ロープを結び付けたヒュドラの頭が桟橋へと下ろされている最中である。パナメラと共にその光景を見上げて、ロッソは声を出して笑った。

「はっはっは! やはりか! いや、ディー殿の豪傑っぷりには驚嘆させられるな。竜を討伐したと思ったら、次はヒュドラの首とは……」

ロッソが笑いながらそう言うと、パナメラはフッと息を漏らすように笑い、こちらに顔を向ける。

「……それもこれも、ヴァン子爵の驚異的な武器によるものです。本当に、無事に帰れて良かった。我が国は、最大の戦力を失うところでしたから」

そんな言葉に、ロッソも大きく頷いて振り返った。おお、何故か最後に持ち上げられた。