411. 現状確認
現状確認
陛下からのお叱りも終わり、改めて現状について確認と報告をすることとなった。
実際に作った船を見に行き、桟橋の前に簡単な東屋を作って会議をする。
陛下がお誕生日席に座り、ロッソとアペルタが左右のポジションだ。そこからピスタ、パナメラ、僕が交互に座っていき、更にアルテ、ディーが特別に席に座ることを許された。陛下と同卓につくことになり、アルテは可哀想なほど緊張している。カムシンとティルは護衛とお世話係として背後に立っている状態だ。
そして、今回は色々と専門的な話も加わる為、ドワーフ鍛冶師のハベルも東屋の端っこで参加してもらった。
ちなみに、東屋は海から見た時に映えるように、ギリシャのパンテオン風である。背が高く、丸い大きな柱が何本も並んで屋根を支えている。我ながら格好良い休憩所が出来た。
「……つまり、この船はフィエスタ王国の技術を模倣したものということだな。しかし、何故失敗したのかは分からない、と」
「確かに、大型の水棲魔獣が多く棲息する危険な外洋を渡るには何か仕掛けが必要でしょう。いくらヴァン卿であっても、そのような特殊な装置や設備は簡単には作れないでしょうな」
「……そうだな。ヴァン子爵、海に出ることができるか否か、どうやって判断したのだ?」
そう質問されて、桟橋の方を指差す。
「水中に何か仕掛けがあると思い、アプカルルのラダヴェスタさんに協力してもらいました。その後、ドワーフのハベルさんと一緒に試行錯誤を続け、フィエスタ王国の大型船と同様の機構を付けることができたと判断しました」
「なに? ラダヴェスタ殿が来ておるのか」
こちらの説明を聞き、陛下が驚いて海を見る。すると、そこには桟橋の向こう側で水面から顔を出すラダヴェスタの姿があった。ラダヴェスタは腕を組み、上半身の半分ほどを露出させて口を開く。
「……久しぶりだな。大族長よ」
ラダヴェスタが対等のような態度で挨拶すると、陛下は目を細めて頷いた。
「おぉ、ラダヴェスタ殿。そちらも元気そうで何よりだ。それで、ラダヴェスタ殿が見る限り、ヴァン子爵の作った船は充分な代物だったのか」
陛下はラダヴェスタの態度に笑いながら頷き、そんな質問をする。まぁ、ラダヴェスタがあれで充分敬意を払っているのは知っているからだろう。対して、ラダヴェスタも真面目な顔で頷き、答えた。
「うむ。海底では船が波を受ける度に不思議な高音と低音が鳴り、小さな魔獣は離れていくのを確認した」
と、ラダヴェスタが答える。それに、後ろで聞いていたアペルタが興味深そうに唸った。
「なるほど……その特殊な仕組みが魔獣を寄せ付けない装置ですかな? しかし、それはどのような仕組みなのか」
アペルタが疑問を口にすると、ハベルが腕を組んで答える。
「船の底には金属の板が貼り付けてあって、変わった溝みたいな模様が入っている。その溝に一定の速度の水流が当たると、水中で人間には聞こえないくらいの音が鳴っているようだ」
と、ハベルが簡単に説明した。それを聞き、陛下とアペルタは驚き、目を丸くする。
「……そのようなものが作れるとは、流石は海洋国家と言うべきか」
「それも驚嘆すべきことですが、見ただけでそれを再現したことも驚くべきことですぞ」
二人は驚いたような、呆れたような顔でこちらを見る。それに苦笑しながら、ラダヴェスタに視線を向けた。
「まぁ、内緒で水中からラダヴェスタさんに調査してもらって、何度も試行錯誤しましたからね。船底に溝があれば良いくらいの情報だったら、何年あっても完成しなかったですよ」
ラダヴェスタに何度も水中で確認してもらったからこその結果だ。そう口にすると、ハベルも眉間に皺を寄せて唸った。
「その通り。それに、合金の比率を試すのも中々の労力だった。まぁ、ヴァン様が一瞬で合金を作れるから、普通に作るよりも遥かに楽だったが」
鼻を鳴らしながらハベルが苦労した点について語る。そんな無礼千万な態度も気にせず、陛下は深く頷き、海に浮かぶ船を見上げた。
「それはそうであろうな。これほどの物を作り上げるのは簡単なことではない。それにしても、驚くべきはフィエスタ王国か。貴殿らが揃って研究しても開発が難しいとはな」
陛下がそう口にすると、ハベルの自尊心に傷がつく音が聞こえた。
「た、確かに難しいが、本気で取り組めば数年で……いや、一年以内に完成させてみせる。もうやり方は分かってきたからな」
「おお、流石はドワーフ屈指の鍛冶師であるハベル殿だ。楽しみにしておるぞ」
「む、ぐぅ……ま、任されよ!」
真っすぐに返されて、答えに窮するハベル。陛下の方が上だったか。あっさりとハベルが不利な状況となった。
なにせ、船の研究は一年どころか、数年経っても進むか分からないのだ。ラダヴェスタの協力により、表面上は殆ど完成に近い状態の筈だ。ならば、どこを改善すべきか。
恐らく、内部である。内部といっても、船内を歩いた感じでは分からなかったので、自分たちだけで研究するとなると本当に手探りとなるだろう。フィエスタ王国の外洋船研究の歴史を侮ってはいけない。それを分かっているから、ハベルも答えに窮したのだ。
「……やっぱり、もう一度トランさんと会ってヒントを貰わないと無理かなぁ」