LNCrawler

413. アポロの気持ち

お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜 — ncode.syosetu.com · All chapters

アポロの気持ち

ヒュドラの首を前に、アポロが唖然とした顔で固まっている中、ピスタが嬉しそうにこちらに話しかけてくる。

「凄いですね! ドラゴンよりも希少な素材と聞きました! 流石はヴァン子爵です!」

「いえいえ、首を切り落としたのはディーですし、皆の協力でようやく達成できたことですから」

まるで僕の手柄のように話すピスタに、苦笑交じりで訂正をしておいた。そんな会話をしていると、アポロが油の切れたロボットのような動きで振り返る。

「……これは、凄いことですよ。本当に、歴史に残る偉業と言っても良いくらいです」

アポロのそんな言葉に、笑いながら片手を振った。

「いやいや……今話題になっているフィエスタ王国なんて、大海原を自由に航海していますからね。もしかしたら、ヒュドラ討伐とかもしたことあるかもしれないですよ」

そう言って笑っていると、アポロは神妙な顔で首を左右に振る。

「私が直接フィエスタ王国の使者と顔を合わせたわけではないので恐縮ですが、フィエスタ王国は船の研究を進め、海で魔獣に襲われない船の開発に成功し、外洋を渡って他国を調査しているという話を聞いております。つまり、多数の船で艦隊を組織したとしても、大型の魔獣は脅威であるという証拠だと推測されます」

「……ならば、他国と同様に、フィエスタ王国であってもヒュドラは脅威である、ということか。ヒュドラの撃退はスクーデリア王国の力の証明に役立つかもしれませんね」

アポロの言葉にロッソが頷いてから、陛下へと視線を向けた。それに無言で頷き、今度は陛下とアペルタがこちらに目を向ける。嫌な予感がするぞ。パターンは違うのに既視感がある。

そう思って警戒していると、予想通り、陛下から依頼がきた。

「このヒュドラの首、王家で買い取ることは可能か?」

「ぐ、ぐぬぬぬ……」

陛下に尋ねられて、すぐには答えられず唸ることしかできなかった。せっかくの希少な素材だが、陛下からの依頼を断るのはあまりにも世間体が悪すぎる。明確に国の利になることであり、更に陛下はきちんと買い取ろうとしてくれている。それを断ってしまうと、変な噂が広がる恐れもあった。

「……わ、かりまし、た。お、お譲り、します……」

苦渋の決断である。伝説のヒュドラ装備を作りたかったが、仕方ない。血の涙が出そうな気持ちで返事をすると、陛下が困ったように笑いながら首を傾げた。

「嫌なら嫌と言っても良いのだぞ、子爵」

「……大丈夫です」

陛下の言葉に惑わされず、きちんと王の臣下としての返事をした。ヴァン君は忠実な家臣。忠実な家臣。忠実な家臣……。

目を閉じて自己暗示をかけていると、パナメラが噴き出すように笑い、口を開いた。

「少年、良いのか? 嫌だと言っていただろう?」

パナメラが僕の本音をさらりとバラす。それに溜め息を吐き、首を左右に振って答えた。

「まぁ、もう一回撃退すれば良いので大丈夫ですよ。次は首二本獲りますから」

そう言って肩を竦めると、一瞬、沈黙が場を支配した。何かと思って顔を上げると、すぐに陛下とパナメラが声を出して笑いだす。

「はっはっは!」

「流石だな、少年」

二人がそんなことを言いながら笑っていると、アペルタやロッソ、アポロも苦笑交じりに顔を見合わせた。

「いや、この年齢で中々言えることではありませんな」

「あのヒュドラを相手に、ですから」

アペルタとロッソがそんな会話をしていると、アポロが頷いて口を開く。

「……この情報に関しては我が商業ギルドがフィエスタ王国の使者へと届けましょう。ただ、中央大陸やソルスティス帝国と同盟を結んでいる国には広まらないように気を付けようと思います。下手にソルスティス帝国を刺激すべきではないでしょう」

アポロの一言に、陛下が眉根を寄せて唸った。

「……つまり、今はまだ帝国が我が国を脅威と認識していない、ということか。それはそれで癪だが、国力の差は無視できないか。面白くない話だ」

鼻を鳴らして、陛下がそう言った。それに、アポロは困ったように笑いつつ、自分の考えを口にする。

「……商業ギルドは、スクーデリア王国の国力を百としたら、ソルスティス帝国を五百として考えております。イェリネッタ王国との戦争に勝つまでは五十程度に考えられていた為、かなりの飛躍です。しかし、それでもソルスティス帝国には勝てないものと……」

「そうであろうな。単純に、広大な領土とそれに伴う豊富な資源と人口の差……これらは簡単に覆せるものではない。更に、火砲や黒色玉という我が国にはない脅威があるのだ。これだけの差を考えれば、五倍以上の差があると思われていても仕方があるまい」

面白くなさそうに陛下がアポロの言葉に同意し、客観的に自国と帝国との差を分析する。だが、それにアポロは首を左右に振った。

「まさに、それが商業ギルドの考えですが、私は違います」

アポロはそう口にしてから、こちらに振り向いた。

「私は、スクーデリア王国こそが最も大きな可能性を秘めた国であると思っているのです。それこそ、今回のフィエスタ王国との出会いは、それをより確実なものにするだろうと思っております」

アポロがそう言って微笑むと、ピスタが拳を握って何度も頷く。王子様が大興奮だ。いやいや、変に期待されても困る。ソルスティス帝国が火薬をどこまで研究しているか知らないが、下手をしたら近代的な兵器が出てくる可能性もあるのだ。

そんなことを考えながら、僕は苦笑いで誤魔化すのだった。