415. 火薬の使い道
火薬の使い道
黒色玉作りについてもう少し詳細に聞くことができた為、船の研究は一旦ストップして、先に黒色玉造りを行うこととなった。
それについては陛下達も納得してくれたのだが、ここで問題が生じることとなる。爆発物を作るということで、危険作業は禁止とされてしまったのだ。
その為、火薬作りはパナメラ騎士団の屈強な男達が対応してくれることとなった。大変ありがたい申し出だが、慎重に混ぜ混ぜしてもらいたい。場所はもし爆発しても問題がないように海岸を選定している。壁も設置しているが、なによりも火薬混ぜ混ぜボックスを頑丈にしたので、もし着火しても爆発は上にだけ向かうはずである。
ちなみに、材料の分量は塩鹸が七から八割、木炭と淡黄石が一割ずつくらいとのこと。アバウトだ。なお、混ぜてできた代物は積み重ねて放置していると出火、爆発する可能性があり、水に濡れると使えなくなるとのこと。扱いも難しい。
遠目でハベル指揮の元、黒色玉のサンプルを作る様子を眺めながら、運用について悩んでいると、不意にパナメラが口を開いた。
「バリスタを使って黒色玉を遠くに飛ばすのか?」
パナメラからそんな質問を受け、腕を組んで唸る。
「それも良いですけど、もっと派手なのが良いんですよね。それこそ、火砲より射程を伸ばした兵器とか……」
「火砲より遠くに? あの威力の攻撃が更に距離が延びられたら、本当に魔術師はお払い箱になってしまうではないか」
こちらの考えの一部を伝えると、パナメラは呆れたような顔でそう答えた。
それに、近くに作った東屋で休む陛下とアペルタが答える。
「すでに、ヴァン子爵のバリスタでも十分に魔術師以上の脅威になっているではないか。今更だ」
「そうですな。射程に関してもイェリネッタ王国の火砲に負けてはいなかったかと」
二人がそう答えると、パナメラは恭しく頭を下げた。
「確かに、その通りでした」
素直に自分の言葉を訂正するパナメラだったが、それをバリスタ開発者の僕自身が否定する。
「いやいや、魔術の方が遥かに柔軟性がありますよ。複数の拠点の防衛ならバリスタが向いているかもしれませんが、野戦や市街地戦、山や森の中での戦闘でも魔術の方が優れているでしょうね。なにせ、隠れている敵も攻撃できる上に、範囲まで自由自在ですから」
そう言って苦笑し、陛下を見る。陛下は苦笑しつつも、僕の言葉を否定するつもりはないようだ。要は使い方である。エスパーダの土の魔術を見ればそれが良く分かるだろうが、攻撃も至近距離、遠距離、直線や弧を描くように側面からの攻撃など、多くの種類がある。その上、一人を対象にしたものから数百人を対象にしたものまで自由に選択できると考えたら、そこは魔術に軍配が上がるだろう。
バリスタは直線上でのピンポイントの攻撃力は最大級だと自負している。ただし、有効な距離は一キロとする。他にもメリットをあげるなら、防衛に関して言えば百でも二百でも並べることができることだろう。
対して、魔術は魔術師がいれば良いので、身軽でどこでも行くことができ、尚且つ近距離でも遠距離でも対応可能だ。有効射程はバリスタより短いかもしれないが、それでも一撃で広範囲を攻撃することができるのは圧倒的なアドバンテージだろう。その代わり、一流の魔術師はそれほど多くはない。簡単に戦力増強できない点が最も大きなデメリットだ。
「ただ、今回の黒色玉、火砲を好きに作ることができるようになったら、またバリスタとも魔術とも違う使い道が可能になります」
「魔術よりも遠い距離で範囲の広い攻撃が可能、ということであろう?」
陛下が予想していたように答え、アペルタやロッソも頷き、陛下と同様の使い方を想像していたようだ。それに、首を左右に振って答える。
「もちろん、火砲としての攻撃も想定していますが、それ以外でも使い道があります」
「ほほう。他の使い道も気になりますな。黒色玉とは違うのですかな?」
アペルタが興味深そうに聞き返してくる。それに頷き、元々考えていた運用方法を伝えてみた。
「やはり、設置式で使うのが有用だと思っています。例えば、濡れないようにだけ気を付けて山道や橋の下などに設置し、敵軍が通る時にそこに火の魔術や火砲で着火。山道だったら崖崩れなども狙えます。後は、現在の海上での戦闘だと僕が作った船では太刀打ちできないので、頑丈な船を作って風の魔術で送り出し、相手の船に激突させて爆破という手段が安定しているかなぁ、とか……」
と、色々と火薬についての運用方法を話していると、ふと妙な視線に気が付く。顔を上げると、陛下やアペルタ、ロッソが信じられないものを見るような目でこちらを見ていた。そして、パナメラは腹を抱えて笑っている。いや、後は遠目で話を聞いていたピスタだけは目を輝かせていたが。
「……よくぞ、そこまで悪魔のような手法を……」
「ヴァン子爵が我が王国の貴族で本当によかったと思いましたぞ」
「ヴァン子爵。もし我が領地が戦場になった時は助力を頼んだよ」
陛下とアペルタが呆れたような顔で、ロッソは困ったように笑いながらそう言った。パナメラは楽しそうに笑いながら、離れた場所で行われている火薬のサンプル作成風景を眺める。
「これは楽しみだな。ソルスティス帝国の有利な点が消えると喜んでいたが、それ以上の成果が期待できそうだ」
パナメラは目を細めてそう言うと、初めての黒色火薬作成現場を眺めたのだった。