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417. 【別視点】船と大砲

お気楽領主の楽しい領地防衛 〜生産系魔術で名もなき村を最強の城塞都市に〜 — ncode.syosetu.com · All chapters

【別視点】船と大砲

【アポロ】

街道に出て、馬車を走らせながら海の方を見る。晴天の海は美しく、太陽の光を反射させて宝石箱のように煌めいていた。

「少々準備に時間が掛かってしまったが、どうにか間に合いそうだ」

予定より一日遅くなってしまったが、急げばなんとかなるだろう。

向かう先は中央大陸の商業ギルド本部である。

「カデット様ならば、スクーデリア王国の将来性を認めてくださる筈だ」

そう呟き、道の先を見る。護衛として雇った冒険者達が、周囲を警戒しながら先導するように前を進んでいた。

商業ギルドの内部では、ソルスティス帝国が最も影響力を有している。中央大陸最大の国であり、その国土から得られる豊富な資源、人材、兵力は圧倒的であり、商業ギルド内では当然のように帝国贔屓な空気があった。

もちろん、これまでは帝国が領土を広げ、国力を増強していく中で商業ギルドも利益を得て、より大きな組織へと成長することができた。

しかし、商業ギルドの理念は中立であり、優先すべきは利益を上げることだ。それを考えると、ソルスティス帝国に傾倒し過ぎているように感じていた。

いや、個人の考えを述べるなら、今後世界の中心になるのはスクーデリア王国だろう。西大陸担当のギルド員の何名かは同じ考えの者がいるが、商業ギルド全体ではごく少数でしかない。

このままでは、商業ギルドは大きな商売の機を逃すだけでなく、ソルスティス帝国贔屓の流れのせいで、ギルド自体が衰退してしまう可能性があると思っている。

この意見は突飛なものと受け取られるだろう。それどころか、ギルド員としての能力を疑われる原因になりかねない。

だが、ここで自分の判断を信じられないようなら、そもそも商業ギルドで働く意味などない。

誰が何を言おうと、私は商業ギルドの西大陸担当者として、スクーデリア王国の将来性を本部に伝えなくてはならないのだ。

そう思い、決意を新たにしたその時、後方で火砲の砲撃音が鳴り響いた。その音に、前を進む冒険者達が驚いた様子で後方を振り返る。

それに釣られるように、馬車の御者席から後方を振り返った。

「……ヴァン様は流石ですね。もう火砲を再現されましたか」

音はソルスティス帝国の火砲よりも少し小さかったかもしれないが、黒色玉の材料を渡してそれほど時間も経っていない。その事を考えて、思わず笑みが浮かぶ。

スクーデリア王国初の火砲の砲撃音は、自分の判断は正しいと言ってくれているように感じられた。

「……さぁ、急いで中央大陸に向かいましょう。急がないと、最高の商機を逃してしまいますからね」

【ロッソ】

当初、フィエスタ王国の船が現れた時はこのような事態になるとは思っていなかった。

いや、海を越えて遠くの国へ移動することができることへの脅威は認識していたが、それ以上ではなかったのだ。

大きな変化が起きたのは、ヴァン子爵と出会ってからである。

元々、ヴァン・ネイ・フェルティオという少年の報告は聞いていた。近年大きく力を増していたフェルティオ侯爵家の四男であり、神童と噂された子だ。

大きな戦いがある度に、ヴァンの驚くべき功績を耳にしてきた。そもそも、初めて爵位を得た理由がドラゴンの討伐である。最初に報告を受けた時は、まるで英雄譚の序章のようだと笑って聞いたものだが、今ではそれも冗談と笑えなくなってきた。

もし、これが英雄譚の一幕ならば、フィエスタ王国の登場はまさに運命だと言えるだろう。

フィエスタ王国との出会いにより、ヴァンは船という新たな武器を手に入れる。そこにソルスティス帝国の大砲が加わるのだから、敵対する国はたまったものではない。

「……それに、ヴァン子爵ならば船も大砲も、元のものより優れたものを作り上げるだろう」

そう呟き、今試し撃ちしたばかりの大砲を改良するヴァンの姿を眺める。

「耐久力は問題なし、と。飛距離は火薬の量が少なかったから仕方ないか……砲身の内側に溝を入れておいたから、命中率はイェリネッタ王国が使っていた大砲よりもずっと良くなったかな?」

ぶつぶつ言いながら、ヴァンは大砲を更に大きく改造していく。その言葉を聞き、物作りに優れた種族であるはずのドワーフが目を輝かせて質問をしたりしていた。

「鋼鉄なら火薬に耐えられるということか。そんで、溝ってのはなんだ? おお、この筒の中にあるやつか? なんで真っすぐの溝じゃねぇんだ?」

ドワーフのハベルが矢継ぎ早に疑問を投げかけると、ヴァンは人差し指をくるくると回しながら答える。

「こういう螺旋回転をつけると、丸い玉でも真っすぐに飛ぶんだよね。弓矢でいうところの羽根の代わりみたいな感じ」

「ほほう、螺旋回転か! それで真っすぐ飛んだのか……ん? 玉にも溝があるってことか?」

「いや、本体だけかな。本当は砲弾の形や機能にも凝りたいんだけど、今は飛距離と命中率に焦点を当てて研究してみようかな、と」

「お、おお……なんか分からんが、大砲ってのも奥が深いのは分かった」

と、ドワーフであるハベルの方がヴァンの知識を聞き、驚いている始末だ。それを見て、陛下やアペルタ侯爵も苦笑してしまっている。

本来なら、ソルスティス帝国の躍進とフィエスタ王国の登場は、スクーデリア王国にとって将来に影を落とすような事態だと言える。だが、ヴァンを見ているとそんな状態でも、なんとかなるような気がしてくるから不思議なものだ。

私はそんなことを思いながら、ヴァンとハベルのやり取りを眺めて笑うのだった。