番外編.黒(歴史の)騎士物語5
番外編.黒(歴史の)騎士物語5
結局、そのまま吹雪に閉ざされ日没に成った…。狭いテントの中で身体を寄せ合い寒さに耐えている。皆、無言だ。一日中テントの中で話すことが無くなった。雪がテントの屋根を流れる音が響く。魔法コンロから出る湯気を呆然と眺めている。「魔法瓶の水が一杯に成ります。」「そうか。薄くなる前に…誰か飲むか?」兵の報告に鍋を管理する一等兵が訪ねる。僕は首を振る。この様な場合には飲みすぎて悪い事は無い…。とは教えられているが。やはり小便が近く成るので…、外に出るのが億劫になる。その後、遠慮がちに二三のカップを差し出す兵。次々に注がれる。「よし。もう欲しい者は居ないな?水を足すぞ。」静寂の雑音の中に温かい物を啜る音が加わる。一等兵が鍋に水を加え、魔法コンロに 火力 ( 魔力 ) を与える。最後に削ったエンリケバーと塩が投入される。テントの中にエンリケの香りが強くなる。軍支給のコンロで魔法で動く。謎の 技術 ( テクノロジー ) だ…。一番先に飲み干した別の一等兵が毛布を畳み、コートを着始めた。準備が整うと報告する。「では、歩哨の交代を行います。」「うん、解った。」「耳と鼻、手足を揉むのを忘れるなよ。」「了解しました。」笑顔で筒型襟巻で顔を隠しフードを被った一等兵はテントの外に出た。少々開いただけなのに、雪と風が侵入して、テント内の温度が一気に下がる。寒さに毛布を固める…。振るえると徐々にテントの中が温まってくるのが解る。外はまだ風が強い様子だ…。「うん?なんだ?」「なんですか?」「いや…。何か騒がしい様子だ。」「何も聞こえ…。」誰かが雪を踏みしめ走ってくる音が聞こえてくる。「少尉殿!歩哨に立って居たアクリダ二等兵の姿が見えません!」あのお調子者の二等兵だ。「なに!各テントはカーバイトランプを着けろ。点呼を開始、人員を掌握せよ!」急いで防寒コートを着て飛び出す。外は暗闇で視界は白い。テントの外にカーバイトランプが出ると一面の白い世界だ。隣のテントにカーバイトの炎が辛うじて見える。ランタンの光が集まっている方に進む…。数人の兵が居る。「歩哨に立って居た者は?」「はい、」「自分です。」雪だるまが2人が手を挙げた。「状況を報告しろ。最後にアクリダ二等兵を見たのはだれだ?」「自分はテント側に立って居ました、分散してお互いのランタンの炎を視認していました。雪が強くなり視界が無くなり…。それ以来です。」「私は、橇の方に立って居ました。途中までアクリダ二等兵の姿を見ました。持っていたランタンの光は見えていました。視界が悪化してから見失いました、当時、視界不良でテントの旗も見えませんでした。」「そうか…。方向は?」腕で方向を示す兵。「この辺りにアクリダ二等兵が立って居たはずなのですが…。」積もった雪を掻き分け、位置に立つ兵。新雪で痕跡は見えない…。歩哨は周囲に三方向に配置した。テント裏と橇、犬だ。恐らく犬の方が敵の発見が速い。在るのは雪饅頭だ、犬は雪の中に固まって眠っている…。とにかく視界が悪い。他の兵達も周囲の…橇の影やテントの周囲を捜索している。「アクリダー!!」「どこだー二等兵!!」「返事をしろー!」暗闇の中に兵の叫び声は、風と降り積もった雪の中へと消えてゆく。軍曹が走って来た。「少尉殿、アクリダ二等兵が見つかりません。捜索に犬を使う事を進言します。」雪の中に二等兵が埋まって居るとなると…。「そうだな…。アクリダ二等兵に一番懐いている犬を使おう。」犬の鼻が役に立つだろう。しかし、新雪の中では追跡できるだろうか?「はい!寝てません!」いきなり雪饅頭が崩れて…。雪達磨のアクリダ二等兵が直立敬礼して雪山の中から出現した。思わず剣に手を掛けてしまった。「貴様!!何処に居た!!」「え?いえ…。軍曹殿。歩哨です移動してません。」崩れた雪饅頭の中から犬達が迷惑そうな顔で首を上げている…。(ねないこだれだ。)「あ、コイツ!犬と一緒に眠ってやがった!!」交代の一等兵が非難する。「い、いえ寝てません!!」寝起きの顔で答える二等兵…。異常は無さそうだ。溜息を付いて軍曹に命令する。「軍曹、兵の健康状態を確認して点呼を取って後で報告してくれ。俺は橇の固定を確認してからテントに戻る。」「はい!了解しました。」敬礼して向きを変えると鬼の表情を向ける。「こら!二~等~兵~!」「はい!軍曹殿!」ココは任せて良いだろう…。橇の捕縛を確認してテントに戻る…。軍曹が外で待っていた。「総員20名異常無し、アクリダ二等兵は指先に軽度の凍瘡です。現在治療中。お札を使う程ではありません。」「そうか…。良かった。」雪の中で眠るのは生命に係る。「犬と共に雪洞の中でした。普通死ぬんですが…。」呆れる軍曹。兵が無事なら問題は無い。「恐らく連日の疲労が出たのだろう。各員、温かい物を飲んで睡眠をしっかりとれ。この雪が止むまでは動けん。」「はっ!」移動する軍曹の背を見送る…。そして、テントの中に入った。既に捜索から戻った兵が落した雪で湿っている。テントの中はエンリケの香りで満たされている…。「少尉殿、温かい内にぞうぞ。」「ああ、頂こう。」そう言えば、エンリケバーの効能は血行促進の効果もあると言う。水分は多めに取れとの命令だ。食料は未だ余裕がある…。未だ慌てる時間ではない。貴重な時間を消費している…。クソっ!何時まで待てば良いのだ。