本編 18話
本編 18話
夏休みになった。毎日登校ではないが、Ωは夏休み前と大して変わらず、午前だけ、補習が入っている。ヒートが夏休み前に被っているΩは、俺達よりももっと登校しないといけない。登校時間がいつもより遅いので、楽ではあるが、Ωクラスは長期休暇でもいつもと変わらない毎日を過ごしているというわけだ。「あ~ッ!補習のせいでαの女、逃した!」 後ろの席で悲鳴を上げる赤城に俺と木野崎はふと視線を合わせる。「赤城、珍しいな」「珍しくねえよ!高校入ってからじゃ初めてだけど、毎回こうなんの!長期休みも一緒にいられないΩとは付き合えねえんだって!」 どこかで聞いたことがあるセリフだ。……西条さんを振った時の、俺である。「つったってしゃーねーのに。俺たちΩはヒートに備えて先行授業だし」「その割に休暇後の補習は無くならないけどな」「そんなに気にするほどの女だったのか?」 赤城、俺、木野崎の順にパラパラと喋る。「木野崎……お前、αの女には興味津々だな?」 俺は女のことを気にする木野崎を詰める。「……赤城が気にしてっから聞いただけだよ」 ギクッと音が聞こえそうなほどマズったという顔で答える木野崎に俺は笑いかける。「嘘つけよ。オメーが気になってんだろ。木野崎は、αの女が性癖なんだもんな?」「え?そーなの?初耳。俺とシュミ被るわ。てか琉人、なんか怒ってない?」 聞き方が意地悪……。と、ぴえんと鳴き真似する赤城を鼻で笑いながら木野崎とゆっくり目を合わせる。木野崎の顔が引きつるが、目を合わせたままニコォと微笑んでやる。 怒ってなどいない。 ただ、普段は雑でアホな木野崎が珍しく他の奴を気にしたと思ったら、αの女だったのがちょっと鼻についただけだ。 前に木野崎の部屋を訪ねたとき、女αのエロ本があったのを思い出したのだ。 午前授業の補習が終われば、夏休みは解散。「この後どうする?涼華とうららも誘って遊び行くか」 何も考えていなさそうな様子で提案してくる赤城。「俺と木野崎は、用があるから帰る」「……そう?んじゃあ、俺もこのまま帰るか」 大人しく変える用意を始めた赤城を背に、俺はよそよそしい態度をとる木野崎の肩に腕を回した。 帰り道、俺の半歩後ろを歩く木野崎はちらちらと俺を気にしている。「……なぁ。怒ってんの?」「怒ってねーよ」「……悪かったよ」「何に謝ってんだよ」「……赤城の女αのこと」「やっぱ気になったんだ?」「……」「お前が、ズリネタ目の前にして犯すような変態なのは、俺も知ってるよ」「お前っここ外ッ」 突然木野崎の変態行為を話しだした俺の口を、木野崎が慌てて塞ぐ。「でもなぁ、今は俺と付き合ってんだろ。女αがどんだけエロくても、俺と付き合ってんだろ。……だよな?俺だけが付き合ってると思ってんじゃねえよな!?」「付き合ってる。俺が悪かった。……お前いんのに、他の奴気にするヨユーなんて、ないって。ほんとだって」「女αのエロ本、捨てるか?」「それとこれとは話が別……痛い痛い痛い」 ほざく木野崎の顎を掴んで引っ張る。コキッと鳴ってはいけない音が鳴る。 別に嫉妬なんか、していない。 ただ、αに靡くΩ達と木野崎は、違うと思ってたのに。 自分勝手な失望だ。 俺は元々、αに靡かないΩが木野崎だったから好きになった。 でも木野崎にしたら、女αか男Ωなら性癖にハマるから、誰でも良いわけで。「なぁ、なんで俺のこと好きになった?」 今時女でもしない質問だ。私のどこが好き?なんつって。 大体、俺のことも西条さんのことも散々振り回しておいて、何でコイツが俺を好きなのかはまだ聞いたことがない。 俺も言っていないからお互い様だが、俺の場合はハッキリと木野崎でないと駄目な事情があるのに、木野崎はそうじゃないという時点でどっか力関係に差が出ているような気がする。「あーもーッそーゆーとこだよッ」 木野崎が頭を抱えて蹲る。「俺のこと好きなのが全部!出てんだよ!んで俺は、お前のそういうとこが好きなの!」 さっきまで俺の発言に慌てていたくせに、今度はガツガツと寄ってくる。「行っとくけどお前、そんじょそこらの女・男どもじゃ敵わねぇくらいカッケーんだからな。そんな奴が俺のこと好きだっつって誘惑してみろ。エロすぎて落ちねえわけねーんだッ」「なッ……み、見た目か?それともお前のこと好きだっつー奴なら誰でも良いのか?」「んなわけねーだろ!普段仲の良いお前が!アホみたいな話ばっかしてる誰にでも股開くお前が!俺のこと落とそうとしてアクションかましてくんのが刺さるんだろうが!」 木野崎が目と鼻の先まで寄ってきては人差し指を俺の胸に突きつける。 俺は西条さんで処女を失ったばかりなうえにセカンドヴァージンは木野崎なので誰にでも股開いているわけではないが、俺が股開いた上に寝た子たちが乗っかってヤッてるという想定なら木野崎の言うこともわからんではない。「お前は俺のこと落とそうとしてる自覚なんてねぇだろうけどな、フツーに見たらそうだから!んでお前に落ちない男なんか、ガッチガチの理性持ってるやつでなきゃなかなかいねぇよ!」「……ふ、フーン……」「オイなんだよ、静まんなッお前が言い始めたことだろッ俺一人残して勝手に納得してんじゃねぇッ」「……じゃあ、俺のこと好きだってとこ、見せて」 テンション上げてく木野崎に俺はちょっと上目遣いで聞いてみる。俺の顔って、ハイブリッドだから。顔が良いのは自分でも知ってる。じゃあこの顔使って媚びたら、木野崎には効くんだろうか。「……はぁ!?」 俺は木野崎の手を取って歩き出した。 俺は木野崎の家に上がり込んだ。 木野崎の部屋に着くとバサッと上を脱ぎ捨てる。