エピローグ 1話
エピローグ 1話
昼休み、購買で葛飾と京本とすれ違う。 葛飾は俺を見てにやりと笑い、一言声をかけた。「よお、兄弟」「……どういう意味だよ」「そのままの意味だよ」 そう言って葛飾は去って行く。「あれ、どういう意味?」 教室に戻り、隣の席の木野崎が俺に聞く。 あれ、とは、葛飾のことだろう。 俺だって知りたい。 でも、じっと探してみれば、言われてみれば、心当たりは今までにいくつかあったのだ。 俺は、葛飾のことを誰かに似ているが誰に似ているのか思い出せないような顔の奴、だと思っていた。 誰に似ているんだ? 深く、考える。『葛飾君と相浦君って同じタイプのイケメンっていうか……アタシらのタイプなんだよね』『ねっ』 過去のクラスメイト達のセリフが頭の中にフラッシュバックする。 そうだ。葛飾が誰に似てるって。周りの奴らでさえ、そう思うほどに。 毎朝鏡の中に映る俺……、自分に似ているんだ。 それに、俺には父親が居ない。木野崎のように、親が離婚したとか、そういう話ではない。生まれたときからいなかった。 父親は、俺ができたときは高校生だったため、母が父との結婚を拒否したのだと聞かされて育ってきた。 その父親が、よそで子供を作っていたとしたら。 同じ学校の、それも同じ学年に兄弟とも呼べる人間が居たとしても、おかしくはない。『いくらなんでも近親相姦は、ヤれねぇ』 葛飾のセリフにも、納得がいく。 俺は一人っ子だ。 別れた父親のことを今でも大事に思っているであろう母親は、父と別れた後、誰とも一緒にならなかったからだ。 そんな俺にもいるかもしれない。 別れた父親によって生まれた、俺と血を分けた、家族。 そして葛飾に頼れば、父と会うことだって叶うかもしれない。 ともすれば、母と父を合わせることすらも。 俺は毎日一緒に帰っている木野崎を一人で先に返し、αクラスへと出かける。 葛飾は、ちょうど帰る用意をしているところだった。「葛飾。話がある」「……さっきぶりだな、お兄ちゃん」 俺と葛飾は、近くのファストフード店へと寄った。 注文したセットを受け取って、席に着く。 4人用のテーブルだが、葛飾との距離感はこれぐらいが良い。「高校入学してすぐ、Ωクラスにすげーイケメンがいるってお前が話題になった時から俺は、気付いてたよ。一目見ただけで、わかった」 葛飾は話し始めた。「その顔だ。……これ、見てみろ」 カバンから生徒手帳を取り出し、生徒手帳のカバーの透明部分に挟まれた写真を葛飾は俺に見せた。 それを見た俺は動揺する。「これ……、俺……?」「ちげえ。俺らの、父親だ」 そこに映っていたのは、俺とうり二つの、言われなければ自分の写真と見間違うくらい俺に似た男だった。 俺に似た男と、もう一人、小柄な男。そして幼い葛飾と、もっと小さな、葛飾の弟と妹であろう子供が二人。5人、写真には写っていた。「普通は他人の空似かと思うかもしれねぇ。でも、お前はあまりにも……父親に似すぎた」 じっと俺の顔を見つめる葛飾は、続ける。「昔からよくあったんだ。親父の不倫相手が刃物片手に突撃してきたり、昔の相手が家に押し掛けてきたり……な。俺に、弟と妹以外に兄弟がいるって気づいたのは、小学生の頃だった。親父が昔孕ませた女が、ガキ連れて親父を頼って訪ねてきた。そいつは女なうえにΩだったから、一人で子育てするには限界だったんだろう。その後も親父が捨てたΩとその子供が何人か俺達の前に現れた。 Ωは受胎率が他のバース性と比べて段違いに高い。だから一回の浮気や寝た相手を孕ませたまま親父は捨ててた。両親の恋愛話なんざ興味はないが、中学に上がる頃には、その事情がもう分かるようになっていた。 お前以外にも、俺達には他に兄弟がいる。相浦、お前は俺より誕生日が早い。俺は早生まれだから、ギリギリ同じ学年になった。 俺の親父は遊んだ相手を捨ててた。たとえ子供ができてもだ。俺の母親は、男Ωだが、親父の本命相手だった。何度浮気しても、親父はお袋の所に戻ってきて、結局結婚して、俺と弟と妹が生まれた。今も5人で幸せに暮らしてるよ。たまに親父が浮気するけどな。俺たち親父の子は同じ血が通ってる分どっか似てるとこはあるが……お前ほど似てんのは、初めてだ」 俺はと言えば、頭が追い付かない。 葛飾の身の上話は別にどうでもいい。 重要なのは、葛飾の親父が遊んでいて、遊んだ相手を捨てていたということだ。たとえ、子供ができたとしても。俺は、その浮気相手の子供だということだろう。 受け入れ難い現実に、身を震わせるしかない。 それに、葛飾は父親の本命相手だという母親と、家族と共に幸せに暮らしているという。「……俺は、俺が母ちゃんのお腹にできたとき、親父は責任とって結婚してくれるって言ったけど、母ちゃんが断ったんだって、聞いて育ってきた」「あの親父がか?ありえねーよ」 葛飾がその顔に軽薄な笑みを浮かべた。