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そこから俺の記憶はほぼなくて、気がついたら昼休みを告げるチャイムが鳴っていた。これは俺が睡眠不足なのではなくて、教壇に立つ先生の口からはきっと何かしらの睡眠を誘発するようなアルファ波が出ているのだと思う。そうでない限り俺がこんなに眠くなるなんておかしいのだから。「拓矢お前、寝すぎだろ。まだ寝不足なのか?」「あはは、今日はなんかお昼寝日和でさぁ」寝不足の原因があるとしたら八雲お前だっつーの!などと言えるわけもなく、笑って誤魔化す。果たして俺はうまく笑えているのだろうか。「じゃ、昼飯行こうぜ」「あ、えーっと、」「どうした?」素直に出雲と昼飯を食うと言えばいいのに、何故か言い淀んでしまう。何も後ろめたいことなどあるはずないのに。「今日は、その、えっとー」「なんか用事でもあんのか?」「拓矢」何か上手い言い訳をしなければ、と思案していると出雲が教室へやってきて俺を呼んだ。ナイスタイミングなのかそうじゃないのかわからないけど、正直助かったと思ってしまった。「なんで出雲が俺のクラスに?」八雲がきょとんとしている、なかなかレアな表情である。それもそうだ、出雲は八雲が嫌いだから用事がない限り八雲のいるこのクラスに近寄ることはないのだ。「うるせーな、お前に用はないっての。拓矢と飯食うから迎えにきたんだっつの」「は?」「だから、俺と拓矢が飯を食うんだよ。秀才様なんだから一回で理解しろっての」出雲は八雲のことが大嫌いだという態度を全面に押し出しながら、喧嘩腰で突っかかる。このままでは教室のど真ん中で喧嘩になりかねないと二人の間に入る。滅多に揃うことのないイケメン双子が並んでいるのだ、教室の注目の的でしかない。「け、喧嘩すんなよ!ごめんな、八雲。俺、今日出雲と昼飯食う約束してて、えっと、そんで、」「わかった、悪かったな」「いや、別にいいよ、俺こそなんかごめんな?」「じゃ、俺は乃来と約束してるから、行くな。次は一緒に昼飯食おうぜ」「う、うん」八雲は俺の頭を撫で付けて微笑む。だから俺にいちいちそうやって触れないでほしい、でも八雲は俺の気持ちのことを何も知らないのだから仕方がない。「今日だけじゃねーよ」お弁当を持って教室を出ようとする八雲に、出雲が苛立った様子を隠すことなく言った。「なんだよ」「だから、今日だけじゃなくて明日も明後日も明々後日も拓矢は俺と飯食うんだって言ったんだよ」「んなの、出雲が決めることじゃねーだろ」明かな苛立ちをぶつけられたからか、八雲の言葉にも少し怒りが滲んでいた。お、俺はどうすればいいんだ。どう考えても俺のために争わないで、みたいな空気だが、そんなこと言えるわけもない。でもどうしてそんなことで争ってるんだ。「じゃあ拓矢に聞けばいいだろ、目の前にいるんだから」「そうなのか、拓矢?」どうしてここで俺に振るんだ、そりゃもちろん八雲と乃来ちゃんが二人でいることを見るのはしんどかったし距離を置きたかったのは事実だ。でもこんな風に伝えたかったわけではない。やり方がムチャクチャだ。「……うん」俺はそう頷くしかなかった。八雲が少しショックを受けたような顔をした。申し訳ないことをしている。八雲を傷つけたいわけじゃないのに。「あ、そ。まぁ、拓矢が言うならそうなんだな。ごめんな、次からは無理に声かけたりしねーから」「あ、別に八雲と飯食いたくないわけじゃないよ!ただ、二人が一緒のとこに俺がいたら、邪魔かなって思っちゃって……」言ってて自分でショック受けてたら世話ない。声が少しずつ尻すぼみになって俯いてしまった。だって、二人のことを見ているのもつらいけど、八雲の邪魔をして嫌われるのも怖かったのだ。「そんなこと、気にしなくていいのに」「あ、ほら、乃来ちゃん待ってると思うから早く行きなよ」「おう、じゃあまた後でな」八雲は去り際に俺の肩を叩いてから、教室から出ていった。そんな簡単に俺に触れてくれるなよ、と思いながら。八雲がいなくなったのを見て、俺と出雲も教室を出る。少し歩いて誰にも使われていない空き教室に入る。使われていない机と椅子を並べ、埃を少し払う。少し埃っぽくても飯が食えればそれでいいだろう。飯を食い始めてから少し、俺は出雲に切り出す。「出雲、なんでああいう言い方しかできないの?」「だって、あいつは拓矢の気持ちを考えもしない、無神経だ」出雲は悪びれもせずそう答えた。俺には普段の鬱憤を晴らしているようにも見えたが、それはあえて触れないでおこう。「当たり前だろ、俺は八雲に何も言ってないんだから、八雲がああ言うのは当然のことだ」「それでも、」「出雲、それ以上言うと俺怒るよ」出雲はまだ何か言いたげだったが、俺はそれを制し、昼飯を食べようと促した。出雲の言ってることもわかる、何が言いたいのかも。だけど俺は八雲に全てを隠してるのだから、八雲を責める権利などないのだ。八雲は何も知らないから、俺が悪いのだ。でも、このまま放っておいたら出雲が八雲に何もかも言ってしまいそうで怖いな、とも思った。