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昼休みが終わるギリギリに教室に戻ろうとしつつ、今の状態で八雲に会うのはしんどいので、午後の授業をサボってしまおうか、などと考えながら人気のない廊下をとぼとぼと一人歩いていた。あんなにかっこよくて頭も良くて運動まで出来てしまう八雲に、今まで恋人がいない方がおかしかったのだ。それなのに俺には全然覚悟が出来ていなかったから、大ダメージを真正面から食らってしまった。八雲だって一人の人間だ、恋愛する権利だってあるし、それを俺に止める権利の方がどこにもないのである。「拓矢、」不意に呼び止められる声がして振り返ってみるとそこには、八雲の双子の弟の出雲がいた。出雲は俺の想い人を知った上で引かずに友達を続けてくれる貴重な存在だった。出雲も同性愛者で、お互いにそれに気付いたときから何かと相談しあっていた。出雲は俺が同性愛者ではなくただ単に八雲が好きなだけだろ、なんて言ってたけど。一途に八雲だけを想ってきた俺と違って出雲は特定の相手を作らずにフラフラしていることが多かった。そのため、相談するのはもっぱら俺だった。八雲と何かあったときは必ずと言っていいほど出雲に相談していた。ずっと助けられてきた、大切な幼なじみの一人である。「大丈夫か、その、色々と」八雲から一応報告されてる、と気まずそうな顔で声をかけてきた。髪の分け目以外は八雲とそっくりな出雲を見ていたら我慢していたものが込み上げ、昨日泣き腫らしたというのもあり俺の涙腺はあっという間に決壊して、気が付けばボロボロと涙をこぼしていた。「大丈夫なわけない〜」我ながらなんとも情けない声を上げながら泣いていると出雲が心配そうな顔をしながら駆け寄ってくる。「えっと、次の授業大丈夫か?サボっても平気そうならどっかで話聞こうか……?」「ん、サボる」「じゃあ屋上でいいか?」「……だ、だめ!屋上はだめ!どっか適当な空き教室がいい……」泣き出した俺を支えて出雲は屋上まで連れて行こうとしてくれたが、屋上は八雲との思い出があるし、それに今行けば教室に戻る二人に遭遇する可能性だってないわけじゃない。どこか遠くから聞こえてくるようなチャイムを聞きながら、適当な空き教室に入り少し埃っぽい椅子を向かい合わせに並べて腰掛けた。ハンカチなくて悪いな、なんて言いながら出雲はセーターの袖口で俺の涙を拭ってくれた。きっと今もう目は真っ赤になっているのだろう。あとで教室に戻ったときどう誤魔化すべきか、なんて頭の片隅で考えていた。「大丈夫、じゃないよな。昨日八雲から報告されたんだよな?」「うん、乃来ちゃんと付き合いだしたって報告された、出雲も?」「ああ、俺も昨日の夜に一応つって報告された」じゃあ俺に一番に報告してくれて、俺を一番優先してくれたのかなとぼんやり考え、いつもなら嬉しく思っただろうが今回に限っては何も嬉しくなどなかった。だって俺は八雲の一番にはなれなかったのだから。「全部、吐き出していいよ。俺が全部聞いて受け止めてやるから」出雲は俺の頭を撫で、優しい笑顔で言った。そんな表情で言われたら、俺が我慢なんてできるわけない。だって、声まであまりにも似てるんだから。「うぅっ……!受け入れられると思ってたんだ!そのうち彼女ができるだろうって覚悟してたから!でも、でもこんなにもあっさり奪われるなんて!そんなの、そんなの……っ!」溜めていた思いを嗚咽交じりに出雲にぶつけた。俺の醜い嫉妬でしかないのに、出雲は俺が落ち着くまでずっと俺の頭を撫で付けながら、微笑みかけ時折相槌を打ちながら聞いてくれた。どれほど時が経ったかわからなかったが、しばらく出雲に醜い嫉妬を吐き出し続けたところで俺の涙も落ち着いてきた。涙と共に色々なものも流れていったような感覚で、心なしかスッキリしたような気持ちだった。「……ごめん出雲、すごい迷惑かけた」「ふは、そんなの今さらじゃん。俺は気にしてないよ、同じ悩みを抱えてて、相談できる相手って少ないわけだから、仕方ないよ」「へへ、いつもありがとな。出雲のそういう優しいところもっと見せたらモテるのに」「女にモテたところでどうしようもないでしょ、俺も、拓矢も」「はは、そうだな!」出雲のおかげで、出雲の冗談にも笑えるくらいには回復した。やっぱり、出雲がいてくれてよかった。相談できる相手がいるのは本当に恵まれていると思う。本当、俺の周りには優しい人間ばっかだな、俺には勿体ないくらいだ。