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出雲と別れ、5限目終了のチャイムが鳴ったのを聞いてから何事もなかったかのように教室に入った。教室に入りまっすぐ自分の席を目指す、窓際の後ろから二番目。きっと誰も俺がいないことに気付かないだろうと思いながら自分の席に着いたところで「おい」と後ろから声をかけられた。席替えのときに八雲と前後の席になれて死ぬほど嬉しかったのに、そのことを恨む日がくるなんて夢にも思わなかった。実質、不運である。俺に声をかけた主は、振り返らなくてもわかるほど何度も何度も聞いた相手の声で、うっかり泣きそうになるのをグッと堪え返事をした。「何、どうしたの八雲?」「どうしたのはこっちのセリフだ、5限いなかっただろ」何事もなかったかのように、平静を装いつつ返事をする。俺の返事に対して不満だったのか八雲は少しだけムッとしたような顔した。まるで心配しただろうが、と表情が雄弁に語りかけてきた。申し訳ない、察して欲しい、でも八雲が察せれるわけがないのだ。俺は何も話していないのだから。「あ、あーー!!5限、5限ね!!えっといやー、徹夜でゲームしたせいか日の光浴びてたら眠くなっちまってさ!」「それで、どこかでグースカ寝こけてたってわけか?」「そうそう、いやー気持ちのいい眠りについてしまったみたいで、危うく6限目すら出られないところだったぜ!」「拓矢は無防備すぎる、もっと危機感持てよ。どこでもかんでも寝るな。まぁでも、寝てただけなら良かったよ。どっかでなんかあったんじゃないかって心配したわ」俺を軽く小突く八雲に、いつもと同じようなやり取りのはずなのに胸がギュッと苦しくなった。八雲が俺の身を案じていることを嬉しく思いつつ、先程まで泣いていたことがバレないか内心ヒヤヒヤとしていた。寝ていたのになんで目が赤いんだ、なんて聞かれたら俺はもう言い訳できない気がする。どうかバレませんように、バレていても気が付かないフリをしてくれますように。「もうあんま心配かけるんじゃねーぞ」そう言いながら八雲は安心したような表情を俺の頭を撫でる。今までなら心地いいと、嬉しいと感じたその行為も、今の俺にはただただ苦しいだけだった。「ごめんな、心配かけて!まぁ、八雲が心配してる間、俺はグースカ気持ちよく寝てたわけだけどよ!」「馬鹿、いらん心配をかけるな」「ごめんって」俺は“いつも通り“出来ているだろうか。昨日までと同じ俺でいられているだろうか。八雲が何も言ってこないから、きっと多分“いつも通り“出来ているはずだ、そうだと信じたい。「明日は一緒に昼飯食おうな、またどっかで寝こけたりしないか心配出しよ」「おう!でももうやらねーって、流石に今日は早く寝るし!」「どうだかな」「八雲!」少し怒ったような表情で今度は俺が八雲を小突く。本当は思い切り殴ってやりたい、理不尽な怒りでしかないけど。でも当たり前だ、八雲は俺の気持ちを何も知らないんだから、今までこうだったんだから、八雲はいつも通り接しているだけなのだ。勝手に傷付いている俺が悪いのである。明日は一緒に昼飯を食おうなんて言ったけど、本当は明日も明後日もこれから先もずっと俺は一緒にお昼を食べたいなんて思えない。八雲と二人きりであるならば万々歳だが、二人が一緒にいるところを見ながら昼飯を食べるなんてとんでもない。そのうち何かに押し潰されてしまいそうなくらい苦しい。でも部活のミーティングなんて言い訳いつまでも通用しないし、一緒に食べたくない理由を聞かれたらボロが出てしまいそうだった。いつか八雲のことが好きだってバレてしまうんじゃないかって思うと、怖かった。それに俺一人が我慢すればいいだけの話なのだから、気持ちに蓋をして少しずつ少しずつ八雲への気持ちをなかったことにしよう。そして出雲とちゃんと恋人になれるように努力すればいいのだ。人を好きになるように努力するなんて、そんなの不誠実でしかないけど、今の俺にとっての逃げ道はそれしかなかったのだ。そう心に決め、次の授業の準備をし、授業開始のチャイムが鳴るのを待った。