6
6
どんなことがあっても朝は否応なしにやってくるわけで、今日はまだ金曜日だからもちろん学校がある。仮病で休めないものかと画策してみるも、母親に体温を測られバッチリ平熱であることがバレてしまい、仮病なんか使おうとするなと朝から怒られてしまった。気持ちはこんなにも沈んでいるのに、丈夫なこの身体が恨めしい。しかし休むことは出来なかったので、朝ご飯をしっかりと食べ、こんな時でも食欲は湧いてくるから不思議だが、重い足を引きずりながら家から出た。ドアを開けるとそこにいたのは八雲、ではなく昨日から恋人となった出雲だった。「あれ、出雲?どうしたの?」「拓矢、おはよう」「お、おはよう……?」「恋人だから迎えに来た」さらりと甘い言葉を普段は見せないような笑顔で言う出雲は、まるで八雲のようだった。出雲は意図的に八雲っぽく振る舞っているのだろうか。八雲にそっくりな顔で出雲にそう言われると、ときめきつつもズキリと胸が痛んで、胸中は複雑だった。「な、なんか改めて恋人とか言われると照れるね……」「そう?あ、そっか拓矢は俺が初めての恋人だもんね」「出雲と違って一途だからね、俺は」その言葉で出雲が遊び人であると再認識した。いくら見た目がそっくりであろうと、中身は八雲ではなく、正反対なのである。出雲は誰かの恨みでも買っているのではなかろうかと心配になるくらい、特定の相手は作らずにフラフラと様々な相手と関係を結んでいた。同じ顔で同じ境遇で育ってきたはずなのに、どうしてこうも性格が違ってしまったのだろうか。いや多分、出雲は八雲と比べられて生きてきて、八雲のことが大嫌いになってしまったから、反発したかったのだろう。どんな風になってしまっても出雲は俺の大切な幼なじみでもあるので、相手は俺だけどフラフラとしなくなるのならそれはそれでいいのかもしれない。「ていうか八雲は?一緒じゃないの?俺は大体いつも一緒に登校してたけど、今日は寝坊したとか?」「知らね」双子とは思えないほどの険悪っぷりである。別に八雲は出雲ことが嫌いじゃないと思うけど、出雲が八雲のことを嫌いすぎるのだ。俺はひとりっ子だからわからないけど、兄弟を持つ人間なりの苦労があるのだと思う。それにしたって嫌いすぎだろ、とは思わなくもない。でもきっとそれは俺が八雲のことが好きだから、どうしてそこまで嫌うのだろうか、と思ってしまうからかもしれないので、そういうことは出雲には言わないようにしてきた。「いやでも置いていったら可哀想じゃん。まだ家なの?それとも早めに出たのかな?」「あーもーわざわざ言わないであげたのにさぁ……」「何?まさか八雲に何かあったの?」事故とか怪我とかの類だろうか?昨日、俺が帰ってから何かに巻き込まれでもしたのだろうか。不安に駆られてじっと出雲を見つめる。すると出雲は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。何か不機嫌にさせる要素があっただろうか?「聞いてないわけ?あー、知らないから聞いてないよね。だから俺に伝えてって言ったんだ、本当最低だわ」もったいぶって中々言わない出雲に痺れを切らし、早く言って、と急かした。知っているなら早く教えてくれたっていいじゃないか、何が最低だって言うんだ。「今日から彼女と登下校するってさ」「え……?」頭を鈍器で殴られたような衝撃、というのはどうやら存在するらしい。まさか自分が経験するとは夢にも思わなかった。思わずよろけると出雲が支えてくれた。大丈夫か?と不安そうな表情で見つめてくる出雲に大丈夫、と返しながらも、何も大丈夫ではなかった。付き合うとはいっても、八雲は毎日毎日ベタベタイチャイチャするようなタイプではないだろうと心のどこかで思っていた。きっと八雲から言い出したのではなく、恋人の乃来ちゃんの方から言い出したのだろう。でも、あの八雲が、あの八雲が恋人に言われたからといって素直に応じたのかと思うと衝撃だった。それほどまでに、彼女を愛しているのか、と。気がつくと出雲もは俺を慰めるように少し悲しそうな顔で俺の頭を撫でていた。「気にすんなって、拓矢には俺という恋人がいんだろ?」「うん、ありがとう」そう返したものの、いつもとは違う頭を撫でる感触に、また少し悲しくなった。俺はどこまで八雲の影を追えば気が済むのだろうか。「じゃあ明日からは俺と登下校しよっか」「は?」「だから、俺と登下校しよって言ってんの」そう提案してきた出雲は、自分で提案したにも関わらず照れくさいのか、少し頬が赤く照れていた。今までに見たことない出雲の表情に少しだけときめいてしまった。傷付いたりときめいたり、俺の感情は忙しいな、と少しだけ思ってしまった。いやでもいい傾向なのかもしれない、こうしていればいつかは八雲への感情を忘れられるかもしれないのだから。「朝はいいけど、俺部活あるよ?出雲は帰宅部だろ?」「待ってる、恋人なんだしそれくらいしないと、でしょ?」「いいの?」「俺がいいって言ってんの、何回も同じこと言わせんなよ。俺がしたくてするんだから」そう言うと出雲は耳まで赤くして顔を逸らした。俺が顔を覗き込もうとするとこっち見んな、と言いながら手のひらで俺の顔を隠してきた。もう見ないから!と大きな声で言うとようやく手のひらを外してくれた。それでもまだ恥ずかしいみたいで、俺のことは見てくれなかった。恋愛慣れしてると思っていたけど、恋人らしいことには慣れていないみたいだ、出雲にこんな可愛い一面があったなんて知らなかった。「これから、俺といっぱい色んなことしよーぜ」「どんなこと?」「お前があいつ……八雲としたかったこと全部。俺が叶えてあげる」そう言うと出雲は俺に照れくさそうに微笑みながら、再び頭を撫でてきた。出雲の不器用な優しさに不覚にも泣きそうになり、俺は俯きながら泣くのをグッと堪えうん、とだけ返事をした。その声に出雲は俺の頭を力強く撫でた。八雲とは違うそれにまた、泣きそうになった、なんて。