欠陥品 3
欠陥品 3
「大人になって、就職をしたんですが、そこで僕は……」
そこまで言って、溜めてからまた言葉を出す。
「また、人間関係が上手くいきませんでした」
「それは、どうしてですか」
「えーっと、僕の病気のせいです」
何でもかんでも病気のせいにするなと、ちょっと松雪は思っていたが、言わないでおく。
「例えば、僕は聞き取れなかったことや、分からなかったことにも、どうしても、条件反射で『はい』って答えてしまうんです」
「えっ」
どういう事だ、分からないことにも『はい』とは。
「後は、物忘れも酷いし、人の気持ちが分からない。人の気持ちを考えろって小さい頃から先生にも言われてました。僕も必死に人の気持ちを考えました。でもそれは全然見当違いで余計に怒られるんです」
また小田は泣きそうになりながら言った。
「会社では『クズ』だとか『バカ』だとか『使えねー』って言われてました。それで辞めてしまいました」
松雪は、それは酷い話だと思うと同時に、努力が足りないんじゃないかと思ってしまう。
「その、病気って治らないんですか?」
「治りません。精神病って言われてますが、前頭葉の異常です。僕は脳の大事な部分が機能していないんです」
「脳が……、ですか」
脳の病気と言われても、思い浮かぶのは知的障害者だけだった。小田は会話は出来るし、そんな感じには思えなかった。
「それで、うつになってしまい。精神科に通っている内に統合失調感情障害という病気、ASDといった病気も見つかりました」
「病気が分かって、スッキリしただとか、モヤモヤが晴れたって言う人も居るらしいですが、僕は違いました」
小田の言葉に松雪は聞いてみる。
「違うと言うと」
「あぁ、僕は欠陥品として産まれたんだ、今までの大変な人生も、そしてこれからも、病気のせいで惨めで辛い思いをして生きるんだって」
小田は泣くのを堪えながら言葉を出した。そして、続ける。
「母親は慰めようとしてはくれましたが、アイツが僕を障害者に産んで、障害の特性で出てしまうものを叱り、障害だということを見抜けなかった。許せませんよ」
「そうですか……」
憎しみの表情を浮かべる小田に掛ける言葉が見つからなかった。
「そして……、僕は発狂してしまい。閉鎖病棟に入院をすることになりました」
「閉鎖病棟ですか」
玉に手をかざすと、両手で髪の毛を引っ張り、ベッドに座る小田の姿が見える。
「地上4階、自分の部屋と廊下だけが僕の行動範囲になりました」
閉鎖病棟と言われても自分の人生とは縁のなかった松雪には分かりかねた。
「絶望でした、うつ状態だったのもありますが、毎日頭がボーッとする点滴を刺され、自分は一生ここから出られないんだという妄想に囚われていました」
松雪にも玉を通して感情が伝わる。
恐ろしいものだった。絶望と怒り、憎しみが入り混じり、気が変になりそうだった。
「そして、僕はかつて障害者を見下していました。いや、今も精神障害者や知的障害者は異常なので生きるべきではないと考えています。自分を含めて……」
「どういう事ですか」
感情が高ぶる小田に松雪は聞く。
「だって、統合失調症とか、妄想や支離滅裂な人って気持ち悪いし不気味じゃないですか。発達障害者やアスペルガーって迷惑じゃないですか。社会のために存在しちゃいけないんですよ」
自分自身を含めて小田は障害者を憎み、目の敵にしていた。何が彼をここまでの思想にさせたのだろうか。
「国は安楽死制度を導入するべきなんですよ。障害者の為にも、健常者のためにも」
「あの、落ち着いて下さい小田さん。死にたい理由を聞きたいのですが」
そう言われると小田はハッとして椅子に座り直す。
「すみません、またやってしまいました。こうなるのが僕の病気です」
視線をそらして喉を鳴らし、小田は惨めそうに言った。
「僕は、閉鎖病棟を退院して、前向きに生きてみよう。そう、思ったことが一度ありました」
松雪はその言葉を真剣に聞く。
「僕は……、僕は、障害者手帳を持ち、障害者枠で働く事を決め、もう一度頑張ってみようと思いました」
そして小田は次に、松雪にとって衝撃の言葉を吐く。
「僕は、その障害者枠で入った会社で、障害の特性を馬鹿にされ、イジメを受けました」