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負け組 2

サハツキ -死への案内人- — www.pagemeku.com · All chapters

負け組 2

何が労働者と雇い主は平等だと思った。

四民平等なんて所詮は綺麗事。

現代だって、この8時間の内は客に怒鳴られ、きつい仕事をし、結局自分は奴隷みたいなものだ。

そうだ、世の中は平等じゃない。俺がまともに生まれ、恵まれた環境で育てばこんな古狸に頭を下げる人生じゃ無かったのに。

松雪は唇を噛み締めて制服を脱ぐ。

最近考えるのは、いつも過去の後悔ばかりだ。

店を出て自転車に乗り、憎たらしいほどの青空を眺める。

昔は夢もあった、ゲームが好きで将来は『ゲームを作る人』になりたかった。

そして、そこからゲームよりも話を考える人間になりたいと気付く。

高校を卒業して、名もない短大に入って何となく小説家や漫画家や作家なんかに憧れて生きる日々。

自転車を漕いで現実と家に戻る。どうしてこんな人生になってしまったのだろうか。

自分が悪い事は承知している、きっと今の人生は自分が嫌なことから逃げ続けた結果なのだろうと思っていた。

無理をしてでも望んだ業界に近い仕事へと就職する努力。

思い出せない所まで行くとすれば、小学生の頃夏休みの宿題をやらなかった事とか、テストで良い点を取ろうとしなかった事とかそういった小さな努力。

いろんな嫌なことから逃げた結果がこれだ。

だが、本当にこれは自分だけが悪いのだろうか。

誰かが努力の大切さや、人生の生き方を真剣に必死に教えてくれればもう少しマシだったのではないのだろうか。

あぁ、夏は朝から暑い、どうしてこんなに暑いのだろうか。

太陽の光には気持ちを明るくする効果があると言うが、カンカンに照り続ける太陽の光を浴びた松雪が思い浮かべている事は死ぬことだけだ。

何もかもが遅すぎた、気付くことも努力をすることも。

自分はもう取り返しの付かない所まで来ていると。

あぁ、何もかも面倒くさい、早く全てを放り出して消え去りたいと。

松雪は家に帰り、洗濯機を回してからシャワーを浴びる。

鏡を見るとここ数年で贅肉が増えた気がした、そこには夢に部活にと、そこそこ努力していた影はもう無い。

シャワーを軽く浴び終わると体を拭いて椅子にどかっと座る。

そして、今日のバイトの休憩中に買った一冊の漫画雑誌を取り出す。新人賞を取った作品が多数乗っている特別号だ。

「あー、何だよこの話。また異世界かよ」

「作画酷すぎ、こんなの俺が時間あって練習してたらもっと上手く描けるわ」

他人の作品を非難している間だけは、まるで自分が偉くなったような。それこそ神にでもなれたような気がした。

しかし、そんな神様も雑誌の後ろの方を見てしまえば地獄に叩き落とされる。

作品一覧と作者の年齢が乗っている、21・22歳、19歳も。

冷水を浴びせられたように心臓がキュッとなる、自分は31歳だが何ひとつなし得ていない。

とめどない焦燥感と劣等感が天国から地獄へと急降下する片道切符になる。

何かをしなくてはと思いながらも何も出来ない日々、自分の人生はこんなはずじゃなかったという後悔。

それならば何かひとつでも将来のためになる勉強をするべきなのだろうが、何もする気が起きない。

何かを始めるに遅すぎることは無いだの、夢はいつか叶うだの、耳心地の良い言葉を偉人もミュージシャンも言っているが、それら全てが松雪には綺麗事に聞こえた。

何かをするのに、気付くのに遅すぎることはあると思っている。

例えば、年齢制限がある仕事には、もうその歳を過ぎれば就くことは出来ないし、そうでなくとも仕事には暗黙の年齢制限というものがある事の方が多いだろう。

可能性の扉は1日また1日と閉じていくのだ。

何かを始めて遅くなかった人間も居ることは事実だが、そんな物は一握り。

その影で無駄な努力をした上に|惨《みじ》めに夢と現実の境目で死んだ人間の方が多いだろうと。

だが、この考えも松雪が本当に目を逸らしたいことから逃げる言い訳にしか過ぎなかった。

松雪は怖かった、努力をしたらこの歳でも自分は本当はちっぽけで無力でどうしようもない人間だと思い知ってしまうから。

それならば自分の産まれと環境に恵まれなかったことのせいにして『仕方がなかった』と思い込み続ければ、自分は悲劇の天才をいつまでも気取っていられる。それこそ死ぬ間際まで。