欠陥品 1
欠陥品 1
産まれてきたことが失敗だった、というか失敗作として産まれてきた。
人と比べておかしい事に薄々気付いてはいたものの、正体不明の何かから、逃げて、逃げていた、どこにも逃げ道なんてないのに。
二十歳を過ぎて何となく感じていたおかしさは医学的には病気だということを知った。
お医者様の言うことに僕は『ASD(自閉スペクトラム症)』『統合失調感情障害』という病気だった。
ここから先は自分を客観的に見た憶測だけど、他にも色んな精神疾患を併発しているんだと思う。
精神障害の診断を受けて「自分が人と同じ様に出来ない原因を知ってスッキリした」という人も居るらしいが、僕の場合は別だった。
「あぁ、僕は生まれながらにして惨めで悲惨な人生が決まっていたんだな」と思った。そう思うと今までの人生にも納得がいく。
そして、その人生が、今日、終わる。
素晴らしいことだと思いませんか?
金結という男を絞め殺してからは、変な夢も見ずに松雪は暮らしていた。
相変わらず自分が死ぬことも無ければ、周りの環境が変わることもない。
そんな日々を送って一週間が経った。
デザインナイフが刺さった太ももの傷はかさぶたになり、傷が治ると共にあの日の記憶も薄れていく。
深夜の仕事を終えると、容赦のない陽射しを浴びた。
自転車を漕いでまたアパートまで戻る。
カーテンを締め切っているので薄暗いそこは居心地が良かった。
明日は休みだ。特に何をするでもなく、シャワーを浴びて食事を摂る。
スマートフォンで動画を見ながら横になっているといつの間にか寝てしまっていた。
目が覚めた瞬間。松雪はハッとし回りを見回した。
白と黒だけの空間。見覚えがある。
「お待ちしておりました。松雪様」
目の前に居るのは、白い肌と黒いドレスの女。名前は確か……。
「さ、サハツキ……さ……ん?」
「はい、サハツキでございます」
病的な白い肌と抑揚のない話し方。あの時の事が次々と頭の中に流れてくる。
「突然のお呼び出し申し訳ありません。待ち人の方が現れましたので、執行人として松雪様においでいただきました」
これは所詮変な夢だ。夢なんだと変に頭が冴え渡っている自分に言い聞かせる。
「早速ではありますが、ご案内致します」
目の前の景色がねじれる感覚。ぐるぐると天と地が廻り、光が尾を引いて閃光している。
体がフワフワする状態が終わると、松雪の前には1人の男が居た。
「こちら、待ち人の|小田《おだ》|蒔人《まきと》様でございます」
小田と呼ばれた男はソワソワとしているが、こんな異質である空間なんだから無理もないかと松雪は思う。
「あの、えっと、お、小田です」
「あっはい、松雪と言います」
お互いギクシャクした自己紹介が終わるとサハツキが言った。
「それでは小田様、先程ご説明した通り、今から小田様には死を望む理由を松雪様におっしゃって頂きます」
一礼してサハツキは続けた。
「では、最後に……。もしも、お気持ちが変わった場合は、あちらのドアを開けて外へ御出になって下さい。その場合、二度とこの部屋で死へ導かれる事はありません」
「わかりました」
小田は返事をする。真面目そうな人だなといった印象を松雪は持つ。
「それでは、私は失礼します、どうか良い結果になるよう祈っております」
サハツキはドアを開けて出ていってしまった。小田は相変わらずソワソワとして目をパチパチとしている。
「あ、の……」
「はい」
小田が何かを言いかけて、口ごもる。
「あの、し、死にたい理由を言えば良いんですよね」
「えっとまぁ、そうみたいですが……」
松雪が返すと、小田は意を決して言った。
「ぼ、僕はっ。どうしようもない生き物なので死にたいんです」
元から静かな部屋は、また静かになる。当然だが、小田の首に手形は浮かばない。
「ダメみたいですね…… えっとですね、もっと死にたい理由を詳しく話して頂きたいんですが」
松雪に言われ、小田は下を向いた後に話し始めた。
「統合失調感情障害や、アスペルガー症候群……、発達障害といった病気をご存知ですか?」
不意に言われて松雪は一瞬頭が追いつかなかった。
その後、一生懸命考える。
統合失調症は何となく聞いたことがあった。アスペルガーってのは、ネットで支離滅裂な事を言う奴を馬鹿にして使われる『アスペ』って言葉だ。
発達障害も似たような感じで使われているのを見たことがある。
「僕は、大人になって『統合失調感情障害』『ASD』という病気だと診断されました」
「かんじょう……、統合失調症ですか?」
「統合失調感情障害ですね」
聞いたことがない病名に松雪はうーんと、いまいちピンと来ていなかった。
「どういった病気なんですか」
尋ねられて小田は答える。
「その、妄想や幻聴が聞こえたり、言ってることが支離滅裂になったり、フラッシュバックで過去の嫌なことを思い出したりする病気ですね」
松雪は支離滅裂になると言う割にはちゃんと説明が出来る小田に疑問を持った。