161 絶望の果てに
161 絶望の果てに
「――――凛」
絶望に打ちひしがれ、心が折れそうになっていた時。
その声は聞こえた。
氷の結界が 隔 ( へだ ) たっているからだろう。
声はくぐもっていた。
それでも俺の名前が呼ばれたことだけは分かった。
ドクンと、心臓が跳ねる。
怖かったけど、振り返らずにはいられなかった。
たった一人でカインと戦い、なすすべもなくやられた俺。
そんな俺を見て、きっと彼女たちは絶望している。
だからせめて、最後に謝らなければと思ったんだ。
そう思っていた。
だから。
「――――えっ?」
振り返り、氷越しに零たちの顔を見た時。
俺は戸惑いの声をこぼした。
彼女たちの目は、死んでいなかった。
自分の無力さを、不甲斐なさを噛み締めるようにして。
苦痛の表情を浮かべて。
――――それでも、俺を信じていた。
「……な、んで」
イフリート戦でも、カイン戦でも、俺は無様な姿をさらし続けた。
それでもなお、俺を信じる彼女たちの姿に驚きを禁じ得なかった。
皆の目を見て、俺はふと思い出した。
消える直前、クレアが俺に向けたまっすぐな目。
その背中を、その声を。
『――託します』
あの状況で。
なぜ、彼女はこんな俺に後を託したのか。
イフリートから俺たちを救い、理不尽にこの場から排除されてなお、皆を守り続ける最強の少女。
俺はきっと、彼女の足元にも届いてなんかなくて。
全てを守る力なんて持ち合わせてはいない。
俺は弱い。
きっと、どこかで 驕 ( おご ) りがあったんだ。
ダンジョン内転移が覚醒して、誰よりも早くレベルアップして。
偶然であったとしても、自分の力で大切な人たちを救うことができて。
特別な存在になれたんじゃないかと、そう思い込んでいた。
だけど、実際の自分は弱くちっぽけで。
一人では何もできなくて。
どうしようもなく無力で。
そ ( ・ ) ん ( ・ ) な ( ・ ) こ ( ・ ) と ( ・ ) は ( ・ ) も ( ・ ) う ( ・ ) 、 痛 ( ・ ) い ( ・ ) ほ ( ・ ) ど ( ・ ) よ ( ・ ) く ( ・ ) 分 ( ・ ) か ( ・ ) っ ( ・ ) た ( ・ ) 。
それでも――それでも、譲れないものがあったから。
後ろにいる彼女たちの想いと、新たに得たその 憧憬 ( しょうけい ) が、ちっぽけな俺の体を突き動かす。
諦めるなと、俺の心を強く打ち付ける。
だから俺は地を掴み、血塗れの体を持ち上げた。
誰もが自らの弱さを悔いることしかできない中で。
俺が。俺だけが、絶望に抗うことを許されている!
そんな俺が、真っ先に諦めるわけにはいかない!
俺が弱いのはもう分かった。
それでも構いはしない。
それでも――そんな自分でも、ここにいる大切な人たちを守りたいと思ったから。
こんなちっぽけな俺を、それでも信じる皆に、誇れる自分自身でありたい!
だから、俺は。
俺は――――
「――――俺は、力が欲しいんだ」
そう、願った。
たとえここで、俺の全てを使い果たすことになったとしても。
今、カインに勝てるだけの力が――彼女のような強さが欲しい!
だから俺は。
絶望の果てに 瞬 ( またた ) く、その一筋の光に。
白銀の背中に。
――――手を、伸ばした。
第一章
『49 名ばかりの格下』
第二章
『100 ゼロ』
第三章
『162 支配者と王』
2021/1/10 12:00投稿予定。