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水属性の魔法使い — ncode.syosetu.com · All chapters

0231 1対7000

10月11日、更新に失敗しました……もうしわけありません……

ですので、こんな時間ですが、更新します……

なんてこと……

王国東部最大の街ウイングストン。

その西に広がる、第二街道にほど近い平原で、軍が対峙していた。

王国側は、ウイングストン守備隊五百、王国東部駐留軍千、その他徴兵された者たち五千五百……合計七千人。

対する帝国軍は、皇帝魔法師団九十人……のみ。

「一昨日のストーンレイクは、抵抗なく降伏してくれたのですが……さすがに東部最大の街ともなると、簡単にはいかないですかね」

副官ユルゲンは、傍らの主にそう問いかけた。

「仕方あるまい。ウイングストンと言えば、シュールズベリー公爵領の都。王家に連なる名門中の名門である以上、簡単には帝国の軍門には下れぬのであろうさ」

「ですが、シュールズベリー公と言えば、この東部動乱で、立て続けに公爵となった方が亡くなられたとか……」

副官ユルゲンが、少し上を見て何かを思い出しながら尋ねる。

「ああ。現在は、十歳にもならぬ子が跡継ぎらしいが……。後見人についている者がいろいろ判断しているのだろうな。公爵家というのも大変なもんだな」

全然大変だとは思っていない雰囲気ありありで、副長オスカーは言った。

「閣下、本当に、戦うのですか?」

そう問うたのは、東部駐留軍司令ナリゾンである。そして、問うた相手は……、

「事ここに至ってもまだ迷っておるのか! いい加減、腹をくくれナリゾン!」

そう怒鳴ったのは、アドファ伯爵ガスパー・ヘイズ。

現シュールズベリー公爵の祖父であり、後見人である。

打ち続く動乱に、東部の多くが混乱していた。

東部の大貴族であり、王家にも連なるシュールズベリー公爵。

王国でも五指に入る権勢を誇った貴族であったが、東部の動乱に巻き込まれ、公爵家を継いだ者たちが次々と命を落としていった。

齢九歳にして公位を継いだアーウィンは、直系に残った最後の人物である。

男も女も、もう他には誰もいないのだ。

ここで帝国の軍門に下り、命をとられればシュールズベリー公爵家は断絶する。

もちろん、傍系はある。

だが、傍系の者がシュールズベリー公爵に据えられたからと言って、どこの貴族が公爵家を支えてくれるだろうか。

貴族の世界は、そんなに優しくない。

「アーウィンのためにも、ここは退けぬ!」

ガスパーの表情は苦渋に満ちていた。

ガスパーとて、相手が誰なのかは知っている。

一昨日、ストーンレイクが戦わずして降伏したことも知っている。

ストーンレイクの判断を非難するつもりはない……ガスパーとて、アーウィンの命が、シュールズベリー公爵家の断絶がかかっていないのであれば、戦わずして降伏したであろう。

爆炎の魔法使い。

その名は、それほどまでに大きく、重い。

両軍が対峙して三十分後、帝国軍、すなわち皇帝魔法師団から『声』が流れてきた。

「降伏せよ。降伏すればシュールズベリー公爵ならびに、領民の命は保証する」

「う、受け入れられるか! 戦わずして降伏した公爵家など、誰からも支持されぬわ」

奥歯を噛みしめながら、ガスパーはそう吐き捨てた。

ナリゾン司令も、ガスパーの苦悩は理解できる。

理解できるのだが……、

(絶対勝てない相手に向かって、突撃命令を出すのは……)

とはいえ、心の奥底に少しだけ、噂の皇帝魔法師団と爆炎の魔法使いが、どんな戦い方をするのかを見てみたい、という気持ちがあるのは事実である。

だが、できれば、それは観客として観るのであって、自分たちの命を賭けてまで見たいとはまったく思わない。

ナリゾンがそんなことを考えている時、自軍の一部がざわりと声をあげた。

「どうした?」

ナリゾンが誰とはなしに問いかける。

「司令、敵に動きが!」

そう言われてナリゾンが帝国軍を見ると、ただ一人、男が歩いてくるのが見えた。

「なんだ、いったい……」

両軍の中間地点に達しても止まらずに近付いてくる。

「それ以上近付けば攻撃する!」

ウイングストン守備隊の人間が、そう大声で叫んだ。だが、その男は止まらない。

さすがに、男の外見が認識できるまで近づいている。

短い白髪に褐色の肌、指揮官であろうか、マントを翻しながら歩いてくる。

「まさか……」

ナリゾンも噂は聞いたことがある。

そして、外見で最も特徴的な部分も……、

「皇帝魔法師団の、白髪の指揮官って……」

ナリゾンが戸惑っている間に、ガスパーの声が響き渡った。

「攻撃せよ!」

その号令のもとに、数十を超える矢が、ただ一人の男に向かって飛ぶ。

だが……、

その全ては、男の前の透明な壁に弾き返された。

「馬鹿な……」

そう言ったのは誰であったか……。

「ま、魔法で攻撃せよ」

その号令に応じて、数多の魔法が男に向かって飛ぶ。

だが……、

やはりその全てが、男の前の透明な壁に弾き返された。

「物理障壁と魔法障壁……」

そう呟いたのは、東部駐留軍の魔法部隊長。

「あんなに硬い障壁なんて、ありえない……」

その呟きは、魔法部隊副長。

そして、ついに男は王国軍の目の前にまで迫った。

そこまで来ても、誰も動けない……いや、ただ一人動いた。

アドファ伯爵ガスパー・ヘイズである。

「シャー!」

気合と共に、手に持った槍を突き出す。

槍士として、かつては東部一と言われたその突きは、ほとんどの者に見えないほど見事な突きであった。

だが……、

カキンッ。

やはり見えない壁に弾かれる。

「なんなのだ、それは……」

ガスパーの顔を、絶望が覆った。

文字通り、あらゆる攻撃が通じない。

矢、魔法、そして近接も……。

そんな相手、倒せるはずがない。

「その紋章、シュールズベリー公爵の後見人、アドファ伯爵とお見受けする」

白髪男はそう言うと、手を胸に添え、軽く頭を下げて自己紹介した。

「皇帝陛下より、皇帝魔法師団副長の任を賜っております、オスカー・ルスカ男爵です。謹んで、降伏を受け入れてくださいますよう、勧告に参りました」

その日、双方にただの一人の犠牲者も無く、東部最大の街ウイングストンが帝国の軍門に下った。

ウイングストンの陥落の報が届き、今まで以上に騒がしくなるルンの領主館。

その敷地内に、広大な面積を誇る開発工房があることは、一般の人にはあまり知られていない。

ルンの街にも錬金工房があるのだが、ここ数年閉まったままである。

その理由は、錬金工房で働く者たち全員が、この領主館の開発工房に入り浸っているからなのだ……。

その建物の周りを、コソコソと歩くローブを纏った一人の魔法使い風の男がいた。

男は、窓から覗いたり、扉を開けようとしたり、見るからに怪しい行動をとっている。

数日前に王都から逃れてきて、ようやくこの地に慣れてきた、王室錬金工房のラデンが、そんな怪しい男を 誰何 ( すいか ) したのは当然であったろう。

「そこの男! 何をしている」

誰何された男は、ビクリとして、そっとラデンの方を振り向いた。

「あ、あれ? リョウさん?」

「やあ、ラデン……」

それは、いたずらが見つかってしまって、どうごまかそうか考えている水属性の魔法使いであった。

「リョウさん、何をやっているんですか?」

「中で何を作っているのか気になって……」

涼は、正直に答えることにした。元々、ごまかすのは苦手である。

「ああ……リョウさん、入館許可証、持ってないんですね? いくらリョウさんでも、入れないですよ。王都の頃とは、また違うので」

「……」

王太子の命令によって、王都が陥落する前に脱出したケネス・ヘイワード男爵率いる王立錬金工房の一行は、一路南下し、ルンの街に辿り着いていた。

元々、ケネスがルンの街出身ということもあったが、それ以外にも理由があったのである。

その理由が、この厳しい入館規制であり、数十年にわたってこの開発工房で開発され続けている、ある『錬金道具』であった。

その『道具』と、ケネスの『ヴェイドラ』の合体を……。

ケネスはそう考え、南部最大のアクレではなく、ルンの街を避難先に選んだのである。

もちろん、涼はそんな事情は知らないし、ラデンすら完全には理解していなかった。

「お前ら何をしてるんだ?」

涼が、悲しみに打ち震えていると、遠くから近寄って来た背の低い人物がそう声をかけた。

背の低さと声の低さから、明らかにドワーフである。

「ああ、ドラン親方、ご無沙汰しています」

涼は、その見覚えのあるドワーフに挨拶した。

街中に店を構える鍛冶師、ドラン親方である。

以前、セーラに連れて行ってもらったことがあるのを覚えていたのだ。

「ん? 確かリョウだったよな。セーラ嬢ちゃんと来た」

ドラン親方もリョウの事を覚えていた。

「そう、あのナイフを持っていた……」

ドラン親方のその言葉はとても小さかったため、悲しみに沈んだ涼には聞こえなかったらしい。

ドラン親方は、それとなく涼のベルトの辺りをみるが、ローブが涼全体をすっぽり覆っているために、外からはうかがい知れない。

「そういえばセーラが言っていました。親方は開発工房の一員でもある、腕のいい鍛冶師だと」

「よせやい」

涼がそう言うと、ドラン親方は顔を真っ赤にして照れた。

「リョウと……そっちは、男爵様のとこの錬金術師か。なんだ、二人は知り合いか」

ドラン親方は、ラデンを見るとそう言った。

「はい。王都では、リョウさんにいろいろと助けていただきました」

ラデンはそう説明した。

「で、その二人がこんなところで、何をしてるんだ?」

「いえ、ちょっと中で作っている物が気になって……」

ドラン親方の問いに、涼は正直に答えた。

「ああ……」

ドラン親方は何とも言えない表情になる。

「見せてやりたいが、こればかりは何ともならんよな……」

「はい、何ともなりません……」

ドラン親方とラデンは、申し訳なさそうな表情になって拒絶する。

「ですよね……」

涼はうなだれた。

「どうすれば、中を見られるのでしょうか」

ダメもとで聞く。

「そりゃあ……許可をもらうしかないんだろうが……こいつは、領主様の直轄事業だから、領主様から直接許可してもらうしかないんだよな。だが、それはさすがに難しいよな……」

ドラン親方はそんな風に言った。

領主館で働いている者であっても、まず領主である辺境伯に面会することは簡単ではない。

なぜなら、辺境伯は忙しいから。

その上、入館許可をもらうのは……。

だが……、

「わかりました。辺境伯にお会いしてきます!」

方法が分かれば、あとはやってみるだけだ。

涼は沈んだ表情をかなぐり捨て、顔を上げて、二人を見てそう言った。

そして、辺境伯がいる離れの方へと走って行った。

「行っちゃいました……」

「行ったな……」

ラデンもドラン親方も、何とも言えない表情になって、そう呟いた。

その後、二人がそのまま立ち話をしている間に、涼は戻って来た。

そして、何やら一枚の紙を二人の前に突き出す。

「入館許可、もらってきました!」

涼が突き出した紙には、

『リョウの開発工房への入館を許可する』と書いてある。

そして最後に、サインも。

だが、ラデンは、さすがに申し訳ないと思いながらも、偽造であろうと思った。

そんなに簡単に辺境伯には会えないと聞いているし、そのうえこの入館許可は……。

「リョウさん、入館許可証は、こういうのですよ」

そういうと、ラデンは自分のいわばカードサイズの小さな入館許可証を見せる。

そこには、名前と何やら錬金術で押された印などがあり、偽造できないようにしてあるようだ。

「そ、それの発行は時間がかかるって言われたので、紙に書いてもらったのです!」

涼はそう言うと、口をへの字に曲げながら手書きの入館許可『書』を再度見せる。

ラデンと親方はそれを受け取ると、じっくりと見た。

しばらく見た後で、唸った。

「う~ん……」

「親方さん?」

ラデンが、親方に問いかける。

「確かに、これは領主様の字なんだよなぁ」

「えっ」

ドラン親方はそう呟き、それを聞いたラデンは驚きの声をあげる。

そして、涼は胸を反らして「えへん」という感じである。

三人がそんなことをしていると、領主館の方から一人の男性が歩いてきた。

「リョウ? それに親方とラデンじゃないか。扉の前で何をやっているんだ?」

そんなことを言ったのは、次期国王、いや即位したばかりのアベル王であった。

「こ、国王陛下!」

まずラデンが慌てて片膝をつく。

「おう、アベル王」

ドラン親方は、昔からの知り合いの冒険者ということもあって、ラデンほど慌ててはいないが、それでも国王になった人物に対して、片膝をつく。

「なんでアベルがこんなところに?」

涼は、礼も何もなかった。

「この中で作られている物は、今回の戦いはもちろん、その後の王国の発展にも寄与するものだからな。俺も気にかけている。だから、時々見に来るんだが……」

「そんなことしてないで、真面目に働いてください」

「お前に言われたくないわ!」

アベルが理由を言い、涼が小言を言い、そしてアベルが怒って反論する。

「リョウは俺の護衛のはずなのに、いつもフラフラと……」

「護衛だから、領主館の中を隅々まで知っておかないといけないのです!」

「明らかに、ただの好奇心だろうが……」

「うっ……」

アベルの的確な指摘に、言葉に詰まる涼。

「と、とにかく……あ、そうだ、アベル、これを見てください」

涼はそう言うと、アベルに入館許可書を見せた。

「うん? 辺境伯直筆の書面? これがどうした」

「これを示せば、この建物に入ってもいいですよね?」

「いいんじゃないか? 辺境伯がわざわざ書いてくれたんだろう? どうせリョウが無理を言って……」

「そ、そんなことはいいのです。これで、僕が入ってもいいということが証明されました」

アベルが状況を適切に指摘したので、涼は焦りつつもごまかすことにしたのだ。

同時に、建物に入る許可も出た!

「まあ、その入館許可書が本物というのなら、問題ないだろう」

「ですね」

ドラン親方もラデンも頷いた。

こうして、晴れて、涼も開発工房に入ることが許されたのだった。

入口に、ルン辺境伯の『雌鹿』の大きな紋章のある建物内には、広大な空間が広がっていた。

以前、ルンの南図書館を初めて見た時も驚いたのだが、それ以上の広さ……。

つまり、地球におけるドーム球場以上の広さの空間がそこにはあったのだ。

外をコソコソ歩き回っている時から、相当に広いと涼も感じていたのだが、中に入っての感想は想像以上……。

「広いだろう。しかも、この広さの空間が、地下にもあるんだからな」

「なんと……」

アベルの説明に、言葉を続けられない涼。

柱無しでの広大な空間の創出は、建築の中でも結構難しいのだ。

もちろん、地震などのリスクを考えなければそれほどでもないのだが、おそらくここはそうではない。

考えられる限りのリスクが考慮されているであろう……。

そんな広大な空間の中央に、一つの巨大な物体が鎮座していた。

二人の人物が、その物体に取りつくようにして作業しているのが見える。

一人は、遠目にもケネス・ヘイワード男爵であることがわかった。

もう一人は、遠目にもかなりの美人であることが見て取れた。

「ああ、あの美女が、例のグランドマスターの娘さんだ。王都から逃れてきた」

「え……ヒューさんの、元婚約者……?」

エルシー・フォーサイス。

宮廷魔法団に所属しながら、優秀ゆえに魔法大学にも所属していた俊英である。

父であるグランドマスター、フィンレー・フォーサイスの力によって、王都陥落時に逃がされ、ヒューを頼ってルンの街に来た女性だ。

一通り、そんなことを考えた後で、涼の視線は、ようやく二人がとりついている巨大な物体全体に目がいった。

「船? いや、まさか……飛行機……」

涼は思わず呟いた。

形状は水に浮かぶ船に似ていた……かなり縦長の三胴船……トリマランに見えたのだが、よく見ると船ではない。

まさに『空を飛びそうな』という形容詞がぴったりな船が、世の中にはいくつも存在する……この『ファイ』においても、かつてウィットナッシュでみたあのトリマランは、優美だった……あれ? あれもトリマラン?

優美なトリマランは、人の心を虜にするのかもしれない。

「あれは……空を飛ぶのですね」

涼は、ある種の確信をもって、そう口にした。

その言葉を聞いて驚いたのは、ドラン親方とラデン。

アベルは全く驚かなかった。

なんとなく、涼なら見た瞬間に理解するだろうと思っていたからである。

「なるほど。あれに『ヴェイドラ』を積むのは理想的ですね。ヴェイドラは無反動……反動がなければ空中での姿勢制御も難しくないですからね」

この言葉に、さらに驚くドラン親方とラデン。

そして、これにはアベルも驚いた。

「あれにヴェイドラを積むことまでお見通しか……さすがだな、リョウ」

アベルは、素直に称賛した。

「風の魔石で飛ばし、風の魔石でヴェイドラを撃つ……相性も良さそうです」

涼は腕を組んで、そう言いながら、何度も頷いている。

そして言葉を続けた。

「ぜひ、戦争が終わったら欲し……」

「ダメだぞ」

「なぜ! 『欲しがりません 勝つまでは』の精神で、勝つまでは我慢すると言っているのに……」

アベルが間髪いれずに拒否し、絶望に満ちた表情で涼が何事か説明している。

「そんな精神は知らんが、そもそも、あの船はルン辺境伯の船だ。ヴェイドラは王国の資産だから、王国に帰属するが……あの船は、今回の戦争では、辺境伯から王国が借りるという形に過ぎんからな」

「くっ……縦割り行政の弊害……」

涼はそう呟くと、一人悔しがるのであった。

その光景を見ていたドラン親方とラデンが、我関せずという顔で、無表情だったのは内緒である。

ようやく、<0057>でルンの街の錬金工房が閉まっている伏線を回収できました……。

まあ、閉まっていたおかげで、『十号室』の三人は、涼からの魔銅鉱石の依頼を受けることができたし、ウィットナッシュでいっぱい食べることができたんですけどね。

「水属性の魔法使い」には、そんな伏線がいっぱいあります。

皆さんも、ぜひ見つけてくださいね!