LNCrawler

番外 <<幕間>> 5000万PV到達記念SS 涼の訓練(前編)

水属性の魔法使い — ncode.syosetu.com · All chapters

番外 <<幕間>> 5000万PV到達記念SS 涼の訓練(前編)

「水属性の魔法使い」が5000万PVを超えました!

これもひとえに、いつも読んでくださる読者の皆様のおかげです。

本当にありがとうございます!

その感謝の気持ちを表すために、SSを投稿します。

今回は、前後編で、本日(1月7日)12時に投稿したこれが、前編。

本日21時に投稿するのが、後編となります。

是非お読みください。

「アベルの親書、ちゃんと西の森のおババ様に届けてきましたよ」

涼は王城の国王執務室に入るや否や、そう報告した。

ほう・れん・そうは、社会人の基本なのだ。

「おう、ご苦労様」

アベルは顔を上げて、ちらりと涼を見るとそう言って、またすぐに書類を見始めた。

いつもの、書類まみれである……。

いつもなら、涼は、「本当に感謝しているならケーキの一つも奢るべきです」とか言うのだが、今日はそんなことは言わない。

いつもいつも、そんなことを言っているわけではない!

涼だって、言うべきタイミングというものはわきまえている。

今日のように、すでにケーキとコーヒーが準備されていれば、わざわざ要求したりはしないのだ!

はい、そこ、呆れない!

「アベル、決裁されてますかね? 僕が提案した、王都城壁訓練プラン」

「なんだ、それは?」

「え……。王都城壁の防衛機能を使って、魔法と剣の訓練をしたいという要望書が出してあったでしょう?」

「以前言っていたな、城壁に氷の槍ぶつけて、返ってきたところを氷の剣で斬り落とした……」

「そう、それです! それを訓練としてやりたいと言ったら、書類で提出しろと……」

「言った気がする……」

「僕が西の森に行く前に提出していったので、もうさすがに決裁されているでしょう?」

「記憶にないが?」

「もしやアベルは、書類の中身を理解しないままサインしているのですか? それはどうかと思いますよ……決裁印というのは、そんな適当に押していいものではないです」

「いや……もちろん全て目を通している。そして、だいたいにおいて、決裁したかどうかも覚えているぞ。リョウのその書類は、まだ手元まで来ていない」

「なんですと……」

提出して、もう二週間は経過しているはずなのだ。

それが、届いていない?

まさに、日本の生産性が低い理由の最たるものだと、涼が勝手に思っていた『これ』が、王国においても現れてきているとは……。

涼は、何度も首を振った。

『書類で提出』……諸悪の根源!

「失礼いたします」

そう言って、侍従長が入ってきた。

「陛下、新たな決裁書類にございます」

山のような書類……。

だが、それを見ても、もはやアベルは表情を変えることはなかった。

鍛えられたのだ。

あるいは、心を失ったのだ。

どちらにしろ、幸せではあるまい……。

「ああ、そこに」

アベルが指示すると、侍従長は決裁書類の山を置いて、退室した。

涼は、その書類の山に、つつつーと近寄る。

例の書類があるかどうか気になってだ。

そんな、書類の山の中から探せるはずもないのだが……。

だが!

奇跡は起きた!

書類の山の頂点に、涼の提出した書類が!

もう、あとは時間の問題。

アベルが、今見ている書類を決裁すれば、次が、涼の書類……。

アベルは、今の書類を決裁して、『決裁済』の箱の中に入れる。

そして、未決裁書類の、頂点の書類を手に取り、見始めた。

涼の書類だ。

涼の顔は、ワクワクと書いてあるかのように、笑顔。

だが、アベルの顔には、表情が全くない。

涼は、一抹の不安を抱えながら、アベルの視線を追い、右手に持ったペンの動きに注意を払う。

書類の最後まで視線は動き……、

「却下だな」

アベルの呟きが聞こえた。

「え……。アベル、今、なんと?」

「うん? 却下と言ったが?」

「なぜ……」

「王都の城壁は、公共の利益のために存在するものだ。それを訓練のために定期的に利用するというのは……。訓練なら、他の方法があるだろう。こんな提案は通らん」

涼は絶望した。

だが、閃いた。

そして、アベルが持つ書類を奪い取る。

「おい……」

アベルの抗議など無視して、書き直す。

そして、でき上がった書類を手渡した。

「城壁正常稼働確認負荷点検? 城壁が正常に稼働するかを、攻撃魔法を使って負荷をかけることによって確認する?」

「そうです! いざという時に、城壁が正常に稼働しなければ困りますからね! その点検を、僕が行います」

「……足りないな」

「え?」

「これを、リョウに任せる必然性がない。なぜ、リョウがやらなければならないんだ?」

「むぐ……。城壁の仕組み……そう、城壁の仕組みを、錬金術の観点から解明したいから! そのために、僕がやらなければならないのです!」

「ほっほぉ~。かつて、ケネスだけではなく、フランク・デ・ヴェルデも解明できなかった、城壁の錬金術の解明か……壮大だな」

アベルはニヤリと笑いながら言っている。

「むぐぐ……。そう、それは簡単ではないでしょう。だから、何十回、何百回もやることになります。さっさと結果を出せとか言われても困りますからね!」

涼は、ちょっとだけ反論した。

「だが……リョウ一人でやれるか?」

「足りない場合には、ロンド公爵領からドラゴンの方々にも来てもらいます。きっと、すごい魔法とか、ドラゴンフレイムみたいな口から炎を吐く感じの攻撃もあるはずです! そんなので、一斉に攻撃します」

「いや、それはやめろ……。攻撃力が足りるかじゃなくて、錬金術の理解という意味で、一人でやれるかと……」

「アベルよりは理解してますが!」

「いや、それはそうなんだが……。まあ、いいか。城壁について何か分かったら、俺にも知らせるという事であれば、許可しよう」

「もちろんです!」

涼の返事を受けて、アベルは書類にサインした。

「手始めに、アイシクルランスシャワー“扇”の、三連斉射からですね!」

「待て……。それって、あれだろ? ゴールド・ヒル会戦の時に、レイモンド軍の武器を破壊した……」

「ええ、それです」

「数万という氷の槍が……城壁で跳ね返されて、リョウを襲うと思うんだが?」

「そうでしょうね。それを全て斬り落とします。訓練とは、負荷をかけなければ意味がありません」

「訓練って言ってるじゃないか……稼働確認負荷点検じゃないのか」

アベルの呟きは、誰にも聞こえなかった。