0291 <<幕間>>アーン王
0291 <<幕間>>アーン王
本日は二話投稿です。
この<幕間>は、一話目です。
『シュルツ』をはじめとした回廊諸国の北には、広大な草原が広がっている。
『アイテケ・ボ』の周辺にある漆黒の森の、さらに北側になる。
正確に言うなら、草原というより、荒涼たる大地と言うべきなのかもしれない。
およそ、農地として使える土地ではない。
そのため、国が興ったことはないし、村すら存在しない。
だが、その地で生きる者たちがいる。
それが、騎馬の民であった。
馬を駆り、羊を追い、草のある場所を転々と移動しながら生きる者たち。
その多くは、『漆黒の森』の東、中央諸国の北の大地を通って、さらに東の東方諸国の北方から移動してきたと言われている。
東方諸国の北方には、伝統的に、強力な騎馬を駆る多くの民族がいる。
強大な王が生まれると、東方諸国をすら席巻する集団となることがある。
そんな者たちの一部。
もっとも、二百年以上も昔の話であり、現在、東方との交流は全くない。
中央諸国から、西方諸国への使節団が出発する、少し前。
回廊の騎馬民族たちの代表が、一堂に会していた。
この二百年で初めてのことだ。
「決まりだな」
片目の潰れた男が、腹の底に響く声で告げた。
その声に、出席者は、一斉に頷く。
ただ一人、出席者たちの前に座り、じっと腕を組み、目をつぶる赤橙色の髪の青年だけが、身じろぎもせずにいる。
この会議で、『王』に選出された男。
「我らは今日より、アーン王の元に集う。そして、『シュルツ』を打ち滅ぼす!」
「おぉー!」
片目の潰れた男が宣言し、出席者たちが、熱狂に身を委ねながら叫び立った。
その叫びは、天幕の外まですぐに広がり、集った数千を超える騎馬の民たちの口から口へと、伝っていった。
それぞれの騎馬の民たちは、それぞれの部族の元へと帰っていく。
今回の会議の結果を伝えるために。
もちろん、会議の結果は、当初の予定通りであるため、どの部族でも混乱は起きないであろう。
そして、次に全ての部族の者たちが集まる時は、戦える者たち全てで……。
「扉が開くのは?」
「今日から、正確に百日後。事前に伝えてある通りだ」
片目の潰れた男ジュッダの確認に、赤橙色の髪の青年アーン王は答えた。
「我ら回廊の騎馬の民が初めてまとまるのが、こんな理由とはな……」
アーン王は顔をしかめながら呟く。
「仕方あるまいよ。この十年、どの部族も、『シュルツ』の子供狩りの犠牲になってきた。俺からしたら、ようやくだ」
ジュッダは、遠い目をして答えた。
騎馬の民の中でも最大部族を率いるジュッダであるが、彼の部族だけでは『シュルツ』に討ち入ることが不可能であることは理解していた。
だが、このまま子供たちの数が減っていけば、騎馬の民は自然消滅してしまう。
多くの困難を乗り越え、ようやく、騎馬の民をまとめることができたジュッダ。
だが、ここがスタートラインであることは理解していた。
「扉があるのは、王城中央地下か……。その時、国王と側近たちがどこにいるか」
「謁見の間にいれば最高。執務室にいれば困難」
ジュッダの呟きに、王城内部を頭に描きながら、アーン王は答える。
そして言葉を続ける。
「とはいえ、困難だからといってやめるわけにはいかない。扉が開くのは、二年に一度。百日後を逃せば、次開くのは二年後だからな」
「まあな。さて、では俺も戻るか。アーン陛下はどうする?」
片目のジュッダは、そう問うた。
その問いに、アーン王は皮肉な笑みを浮かべて答える。
「追放された一族の孫が王か……。まあいい。俺もすぐそっちに合流する」
「わかった」
アーン王は、少し離れた場所で待つ供周りの者たちの元へ向かった。
そこには、六人の腹心の部下と……。
「お兄様」
「ソイ、突入の際は、お前の魔法が切り札になる。頼りにしている」
「お任せください」
兄アーン王に声をかけられたのは、年の頃十五か、そこらのかわいらしい女性。
アーンの妹ソイ。
ソイは、心の底から信頼する兄の役に立てるのが嬉しいのであろう。
顔いっぱいの笑顔を浮かべて頷いた。
本編「0292」は、いつも通り21時に投稿します。