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0425 明けの明星の作戦

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0425 明けの明星の作戦

「……ねえ、ホントに、これやるの?」

斥候オリアナが不安そうに問う。

「……誰もいなくなったのを確認してやるから」

リーダー剣士ヘクターが安心させるように答える。

「……な、何か、他に良い方法があるんじゃないか?」

槍士アイゼイヤが再考を促す。

「……話し合ったけど、他に出なかったろ?」

リーダー剣士ヘクターが呆れたように答える。

「……実行って、私らがやるんですよね?」

神官ターロウが顔を強張らせながら確認する。

「……俺らは、確認しないといけないからな」

リーダー剣士ヘクターが頷きながら答える。

「……やだ」

土属性魔法使いケンジーは、一言だ。

「……諦めろ」

リーダー剣士ヘクターも、一言だ。

「仕掛けは終わっている。もし、今夜タイミングが合えば、今夜実行する」

ヘクターの言葉に、他の四人は顔をしかめている。

よほど嫌な事をするらしい。

「いや、俺だってやりたくないけど……他に良い方法、思いつかないだろ?」

「いっそ、ヘクターが一人で『別館』に突入して、公爵さんと魔人の眷属が会ってるかどうかを、直接見てくる方がいいんじゃないかな?」

「俺、死ぬだろ!」

斥候オリアナの酷い提案に、激しくつっこむヘクター。

他の三人が、「仕方ないよね」という顔をしたのもヘクターにとっては悲しい事であった。

これが仲間である。

ヘクターどんまい。

「こういう時のために、陛下やハインライン侯は、これを、俺たちに持たせたんだ」

「違うと思う」

ヘクターの断言に、他の四人が異口同音に否定する。

何かを持たされており、それを使うらしい。

「とにかく、できるだけ早く探りださなきゃいけないんだ」

「それは否定しないけど……。だって政庁だよ? ホントに黒い粉で……?」

「想定通り進めば、誰も怪我しない」

「そりゃあ、計画通り進めば、どんなものでも上手くいくよ。でも……ねぇ」

ヘクターの力説、否定するオリアナ。

そして、オリアナの言葉に頷く他の三人。

こうして、『明けの明星』史上、パーティーメンバーから、最も反対された作戦が決行されるのであった……。

「見回りは、いつも通り二人だけだったな」

「そりゃあ、貴重品が置いてあるわけでもないしね。政庁を襲撃して、巨大な公爵家を敵に回す愚かな人間なんて、普通はいないからね……どこかの五人以外」

「……まだ言うのか」

斥候オリアナの苦言に、小さく首を振って流そうとする剣士ヘクター。

「気絶させた二人は縛って、離れたところに置いてきた」

「他は、建物内には誰もいない」

神官ターロウと魔法使いケンジーが報告する。

「よし。じゃあ、予定通り、こっちは二人で頼む。俺らは向こうで確認する」

「そっちがいい……」

ヘクターが言うと、魔法使いケンジーが顔をしかめて希望を述べる。

「ケンジーはそっちにいないと困る。いや、ターロウもそっちだ」

なら私が、と言いかけた神官ターロウの機先を制するヘクター。

「遠眼鏡は、そもそも三つしかないからな。頼んだぞ」

ヘクターが言うと、ケンジーとターロウはうなだれた。

政庁から移動してきたヘクターとオリアナが、先にいた槍士アイゼイヤと合流する。

「数分前に、シュールズベリー公爵が別館に入っていった。離れたあの屋敷から、昨日の眷属が入っていって一時間。見逃してなければ、今、あの別館に公爵と眷属が揃っている」

アイゼイヤの報告に、ヘクターとオリアナは頷いた。

そして、時計を見る。

「もうすぐだな」

ヘクターが呟くと、オリアナも遠眼鏡を構えた。

一分後であった。

ドッガン。ドッゴン……。

驚くほどの爆発音が響き渡る。

そう、『爆発』音。

連続する爆発音が、政庁から発せられる。

すぐに明かりがついていく公爵邸。

さらに、窓を開けて外を見る人々。

あるいは、扉から外に出て、政庁の方を確認する人々。

音は、まだ続いているが、政庁そのものは何も変わっていない。

崩れ落ちたりとか、壊れたりとか、そういうことはない。

だが、もし注意深く見る者がいたら、気付いたかもしれない。

音が発せられた辺りに、いくつかの黒い石壁があることに。

もちろん、それは、土属性魔法使いケンジーが、音の反射を計算して構築したもの。

『黒い粉』を加工した物を渡される時に、『研修』なるものを受けた。

その際、ある水属性の魔法使いが言ったのだ。

「これの 真髄 ( しんずい ) は、爆発の破壊力ではなく、その音にあります」

とか言って、壁の構築によって、驚くほど、音が増幅されるのを体験させたりしていた。

ケンジーも、土属性魔法使いであり、土や石での壁の構築ができるために、けっこう真面目に聞いたのだ。

それが、ここで生きていた。

……思った以上に大きく響き、びっくりしたくらいだ。

「よし、こっちは撤収しよう」

神官ターロウが言い、ケンジーは頷いた。

人が来る前に逃げなければ。

壁を消して、二人は走り出した。

その頃、『別館』を監視している三人。

「あ、誰か出てきた」

斥候オリアナが呟く。

「シュールズベリー公爵だ」

槍士アイゼイヤが、扉から出てきて、政庁の方を見ている少年を見て答える。

「後ろからもう一人……」

剣士ヘクターが言う通り、扉から、もう一人出てくる。

「あれって……」

「昨日の眷属」

オリアナとアイゼイヤが確認する。

「なんか……公爵が、眷属に命令を出しているように見えるんだが……」

ヘクターが呟くように言う。

それを聞いて、オリアナもアイゼイヤも頷く

一呼吸ついて、オリアナは口を開いた。

「シュールズベリー公爵って、眷属の上位者……?」

喘ぎながら、アイゼイヤは言葉を続けた。

「あの眷属って魔人の四将だろ。それって、公爵が……」

一つ頷いて、ヘクターが言い切った。

「公爵が、魔人そのものである可能性がある」

二日後。国王執務室。

「陛下、ウイングストンの『明けの明星』から情報が届きました。すでに精査済みです」

宰相ハインライン侯爵が、アベル王に報告する。

その表情は曇っているが、 逡巡 ( しゅんじゅん ) はしていない。

何かを決意したかのような様子だ。

「ザックとスコッティーの分の報告から二日か。アーウィン自身と、魔人の眷属が関係しているかどうかの確認だったよな。精査も済んでいるというのは、けっこう早いな」

「はい。結論から申し上げますと、関係しているという事です」

「そうか……」

ハインライン侯の報告に、小さくため息をつくアベル。

その可能性は頭にあったため、正直、今さらあまり驚かない。

だが……。

「むしろ、アーウィン・オルティス自身が、魔人の可能性があるとの事です」

「なんだと!」

さすがに、それは想定外であったため、大きな声を上げるアベル。

アベルの視線を、しっかりと受け止めるハインライン侯。

アベルが落ち着くのを待って、ハインライン侯は言葉を続けた。

「アーウィン殿が 憑依 ( ひょうい ) されたのか、今のアーウィン殿は別人なのか、あるいは別の何かか……。それは分かりませんが、アーウィン殿が、例の眷属オレンジュに命令している姿を『明けの明星』三人が、直接視認いたしました」

「そうか……」

両手で顔を 覆 ( おお ) うアベル。

それは、必死に息を整えているかのようだ。

あるいは、過去の何かを思い出しているのか。

「国内の視察……北部の後、無理してでも東部まで回るべきだったかな」

北部の視察中、帝国に襲撃され、その後もいろいろあって、東部まで視察できなかったのだ。

それをアベルは悔いていた。

「いえ、むしろ 僥倖 ( ぎょうこう ) だったかと。何も知らない状態で飛び込んでいれば、陛下の身に危険が及んだやもしれません」

ハインライン侯は小さく首を振ってそう言った。

アベルの判断は間違ってはいなかったと。

どちらにしろ、大変な状況ではあるが……。

「シュールズベリー公爵家を、討たねばならん……か」

「はい……」

絞り出すように言ったアベル。苦渋に満ちた表情で頷くハインライン侯。

王国は、再び、割れようとしていた。

ハンダルー諸国連合首都ジェイクレア、執政執務室。

「閣下……アベル陛下は 豪胆 ( ごうたん ) ですな」

「まあ……三年前、国の半分を率いて、王弟と帝国を打ち負かしたんだからな。間違いなく 傑物 ( けつぶつ ) だな」

補佐官ランバーの言葉に、一つ頷いて答える執政オーブリー卿。

今まで、ナイトレイ王国のアベル王と、直通回線で話をしていたのだ。

王国のケネス・ヘイワード、連合のフランク・デ・ヴェルデによって引かれた、王都クリスタルパレスと首都ジェイクレア間の錬金道具による直通回線。

起動、使用は、登録された各政府の高位者三人ずつが行える仕様。

本質的に、王国と連合はお互いに仮想敵国である。

十三年前の『大戦』、三年前のインベリー公国紛争と、実際に武力衝突が起きている。

だからと言って、いやだからこそ、没交渉でいいわけがない。

二国とも、中央諸国を代表する大国。

その衝突は、周辺国家にも多大な影響を与える。

であるならば、想定外の衝突は起きないようにしておくべきだ。

そのために引かれた直通回線であった。

その中で……。

「王国は、連合軍に対して、国境を開放する用意があると。そのような言葉……なかなか言えません」

「言えぬな。入り込んだ連合が、王国の寝首を掻く可能性など……いろいろ考えたはずだ。その上での決断。ハインライン侯の助言もあったろうが、決断したのはアベル王だろう。おかげで我々は、古来からの難問に遭遇したな」

「古来からの難問?」

「隣国の指導者は、有能で決断力のある者がいいか。それとも、愚かで狂った者がいいか」

半分笑いながら言うオーブリー卿。

少しだけ首を傾げた後、補佐官ランバーは口を開いて問うた。

「それは、いったいどういうことですか?」

「有能で決断力のある者は、簡単には戦争を起こさない。ただし、こちらが隙を見せれば食いつかれる。愚かで狂った者は、つけこむ隙があるが、無軌道で何をしでかすか分からない怖さがある……常に戦争が起きる可能性を考えておかねばならない。まあ、そんなところか」

「なるほど。民のためを考えれば前者ですよね」

オーブリー卿の説明に、一も二もなく答えるランバー。

それを見て、オーブリー卿は大きく笑って言った。

「ランバーは善人だな」

「え?」

ランバーは、意味が分からず再び首を傾げる。

「気にするな。ランバーは、ランバーのまま補佐官の仕事に 邁進 ( まいしん ) してくれ」

「はい? もちろんそうしますが……」

首を傾げるランバーと笑うオーブリー卿。

この二人も、いいコンビなのかもしれない。