番外 ロンドの最期
番外 ロンドの最期
悲しいお話です。
夜、涼は叫んだ。
「エウレーカ! エウレーカ!」
そう叫びながら走り回る。
呆気に取られて、ただ見守るアベル。
ここは二人以外は誰もいない海岸だ。
だから、まあ騒ぎまわっても近所迷惑にはならないが……。
だが、アベルは常識人でもある。
「リョウ、どうした?」
いちおう、問いかけた。
我に返る涼。
そして答えた。
「アベル、素晴らしい発見をした場合、エウレーカと叫びながら走り回る風習があるのです」
「うん、初めて聞いた」
当然であろう。
アベルは、古代ギリシアのアルキメデスは知らないであろうし。
アルキメデスが、エウレーカと叫びながら、裸で道を駆けていった話も知らないだろうし。
「明日、成功したらアベルにも教えてあげます」
「お、おう……」
そして翌朝。
涼は海岸近くまで走る。
それを横目に見ながら、アベルは森の中に狩りに入っていった。
涼は唱える。
「<アイスクリエイト 潜水艦>」
すると、全長十メートルの、氷製の潜水艦が現れた。
それは、完璧なイメージ通り!
「フフフ、これで勝てます!」
満足いく出来なのだろう。
涼はぺしぺしと潜水艦を叩く。
「うん、君の名前はロンドです。ロンド級一番艦ロンド。海中の覇者となるのです!」
そう言うと、涼はロンド号に乗り込んだ。
中は、とてもシンプルだ。
単座式……つまり、座席は一つだけ。
そして、椅子の前に、床から突き出した操縦桿があるだけ。
基本的に、涼の水属性魔法で動き、攻撃する際にも<アイシクルランス>などを飛ばせばいいかなと思っているのだ。
とりあえず、造ってみた。
そういう感じだ。
まずは試験航海。
「よし、いざ海の中へ出発です!」
ロンド号は、後方から水を噴き出して、ゆっくりと海中へと進んでいった。
透明度が高いからであろうか。
海中の景色はとても綺麗だ。
氷製の潜水艦であるため、360度全て、全方位を見る事ができる。
涼も、想定外の景色に浮かれていたのかもしれない。
迫ってくる何かに、直前で気づいた。
「回避!」
操縦桿を左に倒す。
同時に、ロンド号の側面からも<ウォータージェットスラスタ>によって、水が噴き出る。
側面からのスラスタと、後方からの噴射によって、斜め前方に高速移動でかわすロンド号。
かわした後で、涼は気付いた。
長い腕である事に。
クラーケンのテリトリーに入ってしまったのだ。
どこからがテリトリーか分からない以上、いつでもどこでも起こり得る想定外の 接触 ( エンゲージ ) ……。
だが、同時に興奮している。
「ロンドなら、クラーケンとも戦えます!」
そう、その確信を得た。
だが、それは一瞬であった。
ずっと前の方で、何かが赤く光ったような気がした。
「クラーケンの……目?」
その瞬間……。
「あれ? ロンド? 動かない……」
操縦桿が動かないのだ。
さらに、後方からの水の噴射も止まっている。
「魔法制御を奪われた……」
涼の顔を絶望が覆う。
クラーケンに、ロンド号の魔法制御を奪われた。
能動的に動けなくなったロンド号は、クラーケンに引き寄せられていく。
涼を乗せたまま。
「ロンド! 動いて!」
涼が、ありったけの魔力を注ぎ込む。
だが、動かない。
魔法制御を再度奪還しようとするが、もちろん上手くいかない。
「まずい……」
ロンド号の中に入ったまま、涼は引き寄せられる。
「ロンド! 目覚めて! お願い!」
無理である事は分かっている。
クラーケンのものになっているのだ。
だが、それでも叫ぶ。
だが、答えはない。
「ロンド……」
涼が消えそうな声で呼びかけた瞬間……。
ボゴッ。
「え……」
気付くと、涼の体は海中にあった。
ロンド号が、涼の体を、最後部から噴き出したのだ。
(ロンド!!!!!!)
噴き出され、後方に飛ばされる涼。
涼を外に排出し、クラーケンに引き寄せられていくロンド号。
魔法制御を奪われ、そんなこと、できるはずなどないのに……まるで意思を持ち、最後の力を振り絞ったかのように……ロンド号は、涼を排出したのだ。
(ロンド……)
涼の涙は、すぐに海に混じる。
だが、涙の向こうに見えた、消えゆくロンドは……笑ったように見えた。
最後に、主を救い出せたその事に、満足したかのように……笑ったように見えた。
気付いた時には、涼は海岸に打ち上げられていた。
海の方を見る。
夢であればと思う。
だが、夢ではない事を理解している。
また、涙が流れた。
自分を助けるために、最後の力を振り絞ってくれたロンド……。
自分の魔力制御の未熟さのために、助けられなかったロンド……。
自分の見通しの甘さのせいで、犠牲になってしまったロンド……。
何時間も呆然としていた涼に、アベルは無言のまま夕食を手渡してくれた。
涼が辛い目にあったことを理解したのだろう。
何も言わない。
だがそれは、無視しているわけではない。
本当に辛いとき、口を開きたくない事を知っているのだ。
だから何も問わず、何も言わせず……。
涼は眠った。
夢の中でロンド号が出てきた。
(ロンド……)
泣きながら呼びかける涼。
《カ・タ・キ・ヲ・・・》
そう聞こえた気がした。
ロンドが、そう言った気がした。
涼には、そうとしか聞こえなかった!
翌朝。
起きた涼が叫ぶ。
「ロンドの仇はとってやりますから!」
後に、宣言通り、涼はロンド級二番艦ニール・アンダーセンによって、一番艦ロンドの仇をとるのであった……。
筆者:不法侵入は悲劇を生みます。
涼 :海はみんなのものです! 入られたくなければ、クラーケンの敷地、って標識を立てといてください!
筆者:え……。
涼 :筆者として、ちゃんとクラーケンに言っておいてください!
筆者:あ、はい……。
そんな会話があったとかなかったとか。
ロンド号の動き、言葉は涼の妄想の可能性があります。
あるいは、他の人と違う涼の特異体質が原因……。
次話「0440」は、いつも通り21時に投稿します。