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0542 刺史

水属性の魔法使い — ncode.syosetu.com · All chapters

0542 刺史

一行は、夕方、ノモンの街に到着した。

すぐに、大きな宿に入る。

当然、事前に予約されていたのだ。

三十人ほどの人数であり、しかもバシュー伯という領主一行となれば当然だろう。

「リョウさん、アベルさん、お二人はこの後、お付き合いください。リー・ウー 刺史 ( しし ) もこの宿に泊まっておられ、六時から面会のお約束をしていますので」

「承知した」

ロシュ・テンの言葉に、アベルが頷いた。

約束の六時。

ロシュ・テンを先頭に、涼とアベルがリー・ウー刺史の部屋に入った。

「おお、ロシュ殿、久しぶりだな」

「刺史も、お元気そうでなによりです」

挨拶を交わす二人。

リー・ウー刺史は、二メートル近い大柄な体格に完全に剃り上げた頭と、異彩を放つ風貌だ。

雰囲気を四字熟語で表すなら、 豪放磊落 ( ごうほうらいらく ) だろうか。

「そちらが、例の?」

「はい。リョウさんとアベルさんです」

涼とアベルも挨拶し、さっそく春村での出来事を話し始めた。

語ったのは、ロシュ・テンに話したのと全く同じ内容。

「ふむ……」

話し終わると、リー・ウー刺史は一言そう呟き、考え込んだ。

一分ほど経っただろうか、ようやくリー・ウー刺史が口を開いた。

「いや、大変参考になった。感謝する」

そう言って、頭を下げる。

「いえいえ……」

どう答えればいいか分からないために、涼は思わずそう言った。

「幻人は……いくつかの歴史書、と言っても 演義 ( えんぎ ) の類なのだが、そういうのには出てくる」

「そうですか? 私は知りませんでしたが」

リー・ウー刺史が言い、ロシュ・テンが知らないと答える。

演義というのは、いわば小説のようなものだ。

正史たるいわゆる歴史書とは、また違うものではあるが、決して馬鹿にはできない。

「ああ、何王朝も前の話だからな。伝説の中と言ってもいいくらい昔の。それは、帝都に戻って史家たちに聞いてみる。あと、彼らが各地の魔物の襲撃を引き起こしているという部分か。各地で起きてはいるんだが、実は『中黄』では一切起きていない」

「そうなのですか?」

「ああ。春村を入れて、俺が知っている限りで十五カ所。だが『中黄』で起きていないために、帝都の動きは非常に鈍い」

リー・ウー刺史の表情は、苦々しげだ。

「現在は、第六皇子正妃の 輿 ( こし ) 入 ( い ) れのために、兵の配置がかなり歪んでいるからな。第六皇子リュン様は帝位争いには加わっておられないが、皇子正妃となる方の輿入れは五年ぶりだ。皇宮がいろいろ慎重になるのは仕方あるまいが」

「そう……皇太子殿下が亡くなられて以降、初めてですからね。実際、正妃になるシオ・フェン公主は、何度か命を狙われたとか。先日も、我がボアゴーの街で事件があったようですし」

「ああ、聞いたぞ。公主の船団は出航した後だったらしいが、代官が巻き込まれたのだろう? いろいろときな臭い……」

ロシュ・テンもリー・ウー刺史も、顔をしかめながら話している。

涼とアベルは顔を見合わせるが、言葉は何も交わさない。

二人とも、公主が襲撃された現場に遭遇してはいるが……あれはボスンター国内だけの問題ではなかったということなのだろう。

ダーウェイまで含めた、東方諸国全体での大きな動きの中で……いろいろと起きているのかもしれない。

「おっと、悪かったな、リョウ殿とアベル殿であったな。話はしっかりと理解した。帝都に持ち帰らせてもらう」

「私は、まだ少し刺史と話をしていきますので、お二人は部屋に入られてください。食事もお好きなものをどうぞ。供回りの者がご案内します」

リー・ウー刺史とロシュ・テンにそう言われて、涼とアベルは解放された。

「やっぱり今回のシオ・フェン公主の輿入れ、もの凄く大変そうです」

「そうだな。ミーファが護衛しているとはいえ、襲撃を防ぐのは難しい場合があるからな」

涼とアベルは、一階の食堂で晩御飯を食べながら話している。

「でもこれで、僕らも六級冒険者になります。帝都にも問題なく入れますね」

「最初は七級以上なら大丈夫という話だったのにな……」

「ええ。昨日、突然六級以上になったとか……けっこうごちゃごちゃしている印象ですよね」

涼とアベルが、ロシュ・テンと一緒にリー・ウー刺史と会っている間に、ロシュ・テンの供回りの者たちが確認をしてきたのだ。

それによると、帝都周辺の規制が上がり、冒険者も六級以上じゃなければ入られないと。

「なんとしても帝都には行かねばならんからな!」

「いつになくアベルがやる気に満ちているのは、空飛ぶ腕輪のせいですね」

「否定はせん」

涼が少し笑いながら言い、アベルは今回ばかりは素直に受け入れる。

それほどに、空を飛んでみたいらしい。

やはり空を飛ぶということは、古来、人が普遍的に抱き続ける夢の一つなのかもしれない。

「いちおう僕ら、監察でいろんな地方を回っている刺史の人への報告のために、ロシュ・テンさんに連れてこられたわけです。ですから、お仕事はこれでおしまいですよね?」

「そうだろうな。このノモンの街から帝都までどう行くか、考えないといかんな」

「この前、互助会横の装備屋でみつけた地図はありますよ」

「よし、食い終わったら見てみよう」

食後のお茶を飲みながら、広げた地図を見る二人。

「今いるノモンの街は、けっこう海岸から離れてますね」

「ああ。ダーウェイ自体が広いから、全体からすればそれほどでもないが、海岸からはけっこう内陸に入っているな」

「帝都ハンリンは、ダーウェイを東西に流れる二本の大河、北河と南河のうちの、南河の南岸に広がっているそうです」

「このまま北上して、どこかから……南河を船で下るのが早いか?」

「いいですね、それ。アベル、冴えているじゃないですか!」

アベルのアイデアを褒める涼。

良いアイデアは、ちゃんと褒めてあげる。

良好な人間関係の維持には大切なことだ。

「そうなると……この北上する道か。名前が書いてないってことは、細い道なのか?」

アベルがそう言いながら、ノモンの街付近から、北に向かって延びている道を指でなぞる。

「フェンムーという街に続いている道のようだな」

「なんか、フェンムーの街って、他の街に比べて表記が違いません?」

涼が、地図に書かれたフェンムーの街表記に疑問を呈する。

帝都は別として……他の街や村は、○の中に家が描かれている。

だが、フェンムーは家というより、五重塔のようなものが描かれているように見える。

ちょっと他の街より立派だ。

「大きな街なのかもしれんな?」

「中心的な街の可能性はありますね。それなら帝都までの船とか、定期船みたいなのすらあるかもしれませんよ」

涼はそう言うと、大きな川を航行する遊覧船的なものを思い浮かべる。

「決まりだな。このノモンの互助会で六級冒険者に上がる手続きをしたら、北上してフェンムーに向かう」

「そこから南河を下って帝都に行く」

アベルも涼も、見通しが立ったために嬉しそうだ。

何事においても、見通しが立つかどうか、見通しを持てるかどうかは大切だ。

見通しが立たないと、人は不安になる。

それではプロジェクトはうまくいかないのだ!

もちろん、立てた見通しが根本的に間違っていれば……それは悲しい結果を生むことになる……。