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0594 取り調べ再び

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0594 取り調べ再び

二人の氷売り……もとい、涼とアベルは屋敷『輪舞邸』に戻った。

時刻は夕方五時近い。

「さすがに、今から御史台に来てもらうのはあんまりですね」

「まあな」

六体の氷の棺は、庭に降ろされた。

涼が意味ありげに手を振ると、氷の屈折率が変わったのか、中が見えるようになる。

「なあ、リョウ」

「なんですか、アベル」

「この前もそれやってたよな」

「それ?」

「手を振ると、氷の中が見えるようになるやつ」

「ええ、やりましたね」

「それ、実はやらなくても中が見えるようになるだろ?」

「なぜ……分かった……」

「うん、どうせそんなことだろうと思った」

愕然 ( がくぜん ) とする涼、小さく首を振るアベル。

アベルにはお見通しなのだ。

「どうせ、カッコいいからとかそういう理由だろ?」

「こう、手を振った方がなんか意味ありげに見えるかなって……」

「うん、そうだな……」

中が見えるようになった六人は、全員目を閉じている。

「これは……カシ……なんとかか? 気絶している……」

「ええ、ええ、かなりの低温による仮死状態です。よく覚えていましたね」

「意識がないんだよな」

「そう、ありません。ですから、僕らの話していることは聞こえませんし、トリガーワード無しの魔法の行使をできる人だったとしても、これなら大丈夫です」

アベルの問いに、涼ははっきりと頷く。

アベルは、涼が黙ったまま何かを動かしていることに気付いた。

氷の棺を見ると、中で何かが動いているように見える。

スライムが棺の中で 蠢 ( うごめ ) いているような……。

しばらくすると、四つの氷の棺から、何かが外に差し出された。

「それは、冒険者カードか?」

アベルが、自分も持っている冒険者互助会のカードを思い出しながら問う。

「ええ、そうですね。つまりこの四人は冒険者です」

涼はそう言うと、四枚の冒険者カードを次々見ていった。

アベルも、後ろから覗き込む。

「四人とも……」

「三級冒険者ですね」

「依頼で出払っていなくなった上級館の冒険者たちは……」

「こういうお仕事に回されたと」

アベルも涼も首をかしげている。

冒険者は、決して 隠密 ( おんみつ ) のような仕事には向いていない。

もちろん、斥候職であればある程度は気付かれないで監視できるが……それでも、いわゆる諜報機関などで専門の訓練を受けたわけではないから、監視任務にすごく向いているとは思えないのだ。

実際この四人も、涼だけでなく、終わりの方ではアベルにも気配を察知されていたわけで。

あれほどの人ごみの中でだ。

「人材の適正な配置は、組織において最も大切な箇所です。合っていない箇所に配置された人材は、ストレスを抱え力を発揮することなく 摩耗 ( まもう ) していっちゃいますからね」

「そうだな。上に立つ人間が、常に気をつけておかねばならないことの一つだな」

涼もアベルも、人材こそ組織の宝だと認識している。

同時に、誰にでもどんな仕事でもさせていい、とも思っていない。

誰にだって、向いている仕事、向いていない仕事があるのだ。

どうせ頑張ってもらうなら、向いている仕事を楽しくやってもらった方が、組織全体としても良い結果につながる……当たり前のことだ。

当たり前のことなのだが……実は、とても難しいことでもある……。

「さっきの四人は冒険者で人間ですけど……」

涼がそう言いながら、カードを持っていなかった二人の方を向く。

「人間ですけど? その言い方は……」

「ええ、多分この二人、幻人っぽい気がします」

「おい、マジか……」

「この前捕まえた、七星将軍ユン・チェン将軍でしたっけ? あの人に近い気がするんです。ただ……」

「ただ?」

「幻人って、悪魔とか魔人とかと違って、見た目というか構造というか、そういうのはすごく人間に近いので……多分、精神部分なんでしょうね、『混じっている』のが。いや、まあ、精神が肉体を支配することによって、普通の人間ではできないような動きをしたりはできるようになるのかもしれませんが……」

「つまり、通常の状態だと、人間に極めて近いと」

「そういうことです」

アベルの結論に、涼も頷いた。

そして言葉を続ける。

「御史台の方には、この前ユン将軍に使ったヘルメット型情報収集器を使ってもらいましょう」

「ああ……頭に被せて、情報を抜き取るやつか。だが、そのユン将軍から抜き出した情報も、まだ分析し終わっていないんだろう? 結構時間がかかるだろう」

「仕方ありません。どうせ拷問とかしても口を割らないんじゃないですか、この手の人たちは」

涼が首をすくめる。

どうせ吐かないのなら、時間がかかってでも錬金道具で情報を抜き出した方がいいだろう。

翌日。

御史台がやってきた。

前回の三倍以上の人数で。

率いるのは、やはり……。

「すいません、シャウさんにわざわざおいでいただくなんて」

「いや、ロンド公、お気になさらずに。陛下から、全面的に協力するようにと言われております。しかも昨日受けた報告ですと、また幻人を捕まえたとか?」

「はい。監視していた六人を捕らえたのですが、そのうちの二人が幻人でした」

「前回の、ユン将軍から抜き出した情報の分析も、今日には終了する予定です。今回の者たちも含めて、有用な情報が手に入るかもしれません」

外交交渉が進む裏で、実力行使を交えて情報の収集が行われる……。

いつの時代、どんな世界においてもよくある事だ。

むしろ、実力行使の時間稼ぎ、あるいはカモフラージュのために外交交渉が行われる……そういう事の方が、地球の歴史上では多いくらいであった。

前回同様、庭で尋問が行われている。

冒険者四人と、幻人二人は、少し離れて尋問されている。

変わらないのは、六人とも首から下は氷漬けのままという点であろう。

特に四人の冒険者は、最初、自分が置かれている状況を理解できなかったらしく、何度も自分の首から下と、周りの冒険者たちを見回していた。

そしてようやく、氷漬けになっていることを理解すると、次は、自分たちを取り囲む御史台の人間たちを認識した。

そこでようやく、御史台の人間たちは取り調べを行うことを告げたのだ。

「皇帝陛下の命により、お前たちを取り調べる」

その第一声を理解した瞬間、四人の冒険者たちは大きく目を見開いた。

理解したのだ。

自分たちは、やってはならないことをやってしまったのだと。

百人近い御史台の人間たちに取り囲まれ、『皇帝陛下の命により』とわざわざ告げられての尋問など、普通ではない。

この場所が御史台ではなく、どこかの屋敷の庭である事は分かる……分かるが、それ以上に尋常ではない御史台の人数。

我先に口を開いた。

「お、俺たちは依頼を受けただけだ」

「雇用主に言われた通りに監視しただけで……」

「監視していた相手が誰なのかも知らされていない」

次から次へと聞かれる前に答える。

だが、さすがに次の問いに答えるのは 躊躇 ( ちゅうちょ ) した。

「誰に雇われた?」

この問いには、一斉に口をつぐんだ。

見事なまでに、四人が四人とも。

彼らは、三級冒険者。

ダーウェイでは、上級冒険者と言われている。

帝都なればこそ数百人もいるが、地方の街にある互助会であれば、三級冒険者はトップ冒険者だ。

そのプライドがある。

だから、最も慎重に取り扱われるべき情報、つまり依頼人に関して喋るのは躊躇する。

では、どうするか?

「ロンド公、もうちっと広い庭を借りてよろしいかな?」

「もちろんです」

シャウ司空の問いに、頷く涼。

シャウ司空は、取り調べの基本に戻るようだ。

すなわち、被疑者同士は離しておけ。

四人の冒険者は、別々の庭に移動させられた。

輪舞邸は広いため、いくつも庭がある……。

それぞれ分けられた冒険者たちには、当然こう告げられる。

「最初に依頼人の名前を明かしたやつは、無罪放免とする」

続けて、こう告げられる。

「それ以外の者たちは、重監獄行きだ。今回の監視の件、皇帝陛下は激怒されておられるゆえに」

聞かされた瞬間、四人とも顔が真っ青になる。

決して、氷漬けにされていて冷たいからではないはずだ。

「 陥 ( おちい ) る、囚人のジレンマ」

涼は、四人の様子を見ながら呟く。

かの有名な『ゲーム理論』の中に出てくる『囚人のジレンマ』。

それは、人は必ずしも合理的な判断だけで動いているわけではない。

感情をうまく使うことによって、相手を動かすのはとても効果的である……その証左。

「まあ、誰も何も言わなかったら……その場合は、四人全員、重監獄行きじゃがな」

シャウ司空によって告げられる。

「囚人のジレンマですらありませんでした……」

囚人のジレンマは、囚人全員が黙秘を貫けばそこまで酷い結果にはならない……だから、誰も何もしゃべらないのが一番合理的である。

でも抜け駆けして自分だけは助かろうとする人はよくいるよね、というお話なのだ。

だが、誰も話さなくとも最悪の状況に置かれるのであれば……黙秘する意味はない。

「第四皇子ビン親王だ……」

そこからは早かった。

昨日、帝都冒険者互助会に所属する三級、二級冒険者のほとんどが、ビン親王に雇われた。

現在、他の依頼を遂行中の者たちも、その依頼が終了次第、ビン親王が雇うことになっている。

自分たち三級冒険者のほとんどは、今回のような監視任務に就かせられている。

二級の仕事は知らない。

「なぜ、ロンド公爵を監視していた?」

監視対象がロンド公爵であることは知らなかった。

元々、バシュー伯の動向を監視していたが、バシュー伯が自分の領地の三級冒険者を雇ったという情報が入った。

その三級冒険者を監視していたら、今回の二人が一緒に昼食を食べたため、午後から二人も監視対象となった。

それら全て、直接の指示を出したのは、ビン親王の側近リンスイ殿である。

「リンスイか……」

報告を受けたシャウ司空が思わず呟く。

「そのリンスイさんという方は、どのような?」

涼が尋ねる。

いちおう、今回の問題の発端となったのは涼たちへの監視であるため、多少は尋ねても問題ないはずだ。

「リンスイは、ビン親王の側近中の側近で、ビン王府の全てを取り仕切っていると言っても過言ではありません」

「ほっほぉ、優秀なのですね」

「そう、優秀であるのは確かなのですが……」

「ですが?」

「ビン親王陣営において、かなり急激に力をつけた人物です。その成り上り方は不自然なほどに……」

「なるほど。他が送り込んだスパイ…… 獅子 ( しし ) 身中 ( しんちゅう ) の虫だったらすごいですね」

「……それは考えておりませんでした」

涼の適当推理に、驚くシャウ司空。

横で聞いていたアベルは、涼の適当推理には慣れているため小さく首を振っている。

四人の冒険者たちが、全ての情報を吐き出すのにそれほど時間はかからなかった。

「三時前ですか。取り調べとしてはまあまあですな」

シャウ司空が、お茶を飲みながら言う。

もちろんその間も、二人の幻人への取り調べは続いている。

ただし、完全黙秘。

それは想定していたため、御史台特製のヘルメット型情報収集器が頭に被せられ、そちらから情報を引き抜いている。

尋問を行っているのは、そのカモフラージュであろう。

だが、そのまま終わりとはならなかった。

涼が、何かに気付いたように頭を上げる。

隣にいたアベルはそれに気づいて問いかけた。

「どうした?」

「表に……馬車が停まりました。騎馬の人たちも二十人くらい?」

「うちにか?」

「ええ。それに、これはもしかして……」

涼は少しだけ微笑んで言葉を続けた。

「さらなる幻人ですよ」