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0598 状況は

水属性の魔法使い — ncode.syosetu.com · All chapters

0598 状況は

「いよいよ、親王に進むそうですよ」

「いままでも大変だったろうが、これからさらに大変になるんだろうな」

涼とアベルは、お隣さんから輪舞邸に帰る道すがら、そんなことを話している。

「兄弟同士での争いというのは、なんか辛いな」

「アベルは……お兄さん、カイン王太子とは仲が良かったんですよね」

「ああ、とても良かった」

「アベルのお父さんって、弟さん……ほら、反乱を起こした王弟レイモンドさんでしたっけ? あの人とは仲が良くなかったんでしょう?」

「まあ、そうだな。とはいえ……王子時代に、相手の命を狙うほどの争いはしていないと思うんだが」

アベルは、首を傾げながら答える。

もちろん、その時代のことをアベルは正確には知らないために、なんとなくだが。

「分かりませんよ? 歴史の表に出てこないところで、血で血を洗う争いがあったかもしれません。そういう陰謀に関しては、権力者たちはあらゆる方法を使って封印しますからね。彼らの徹底した手法たるや、恐ろしいものです」

「まるで見てきたように言うな……」

「ええ、見てきましたからね!」

もちろん、映画やドラマや小説のお話だ。

「とはいえリュン皇子が親王に進んだら、皇宮内での勢力争いも展開することになりますよね」

「ああ……その方面が一番大変だろうな。もうほとんどのシタイフ層は、三親王の誰かの派閥に入っているだろう? その辺りはどうするつもりなんだろうな」

「数は力ですからね。こちらも数を増やさないといけないけど……増やすべき数がもうない」

涼も考え込む。

家の門の前に着いた瞬間、涼が手を打った。

右手の拳で、左掌をポンっと。

思いつきました、を行動に表したのだ。

だが、こういう場合……。

「どうせ、ろくでもないことなのだろう」

アベルが呟く。

「こちらが増やせないなら、相手を減らせばいいのです」

「相手を減らす?」

「アベルが、三親王についているシタイフ層たちを、夜な夜な一人ずつ 粛清 ( しゅくせい ) してまわれば、敵は減ります」

「うん、そんなことだろうと思ったよ!」

「いつものパターンというやつです。パターン化は多くの問題を解決してくれるのです」

「ぱたーんか? って何だ?」

「アベルがとても嬉しそうな、いつもの方法です」

「どこをどう見たら嬉しそうに見えるんだよ!」

予想が当たったからといって、必ずしも嬉しいとは限らないのだ。

ちなみに二人とも、手にお土産を持っている。

シオ・フェン公主が持たせてくれたものだ。

「僕が持っているのは、ポアジュウとかいうお菓子だそうです。けっこうお腹にたまるそうなので、お昼兼用で食べることを勧められました」

現在、午前十一時半。

「俺のは晩飯にしてくれと言っていたな」

アベルは、重箱のようなものを持っている。

晩御飯用お弁当のようなものだ。

「お隣さん、住んでる人というか働いている人というかが多いですからね。あの人たちの三食御飯も、毎日準備するわけでしょう? その余りですから気にしないでと言われましたけど……」

「人が多いと、金がかかるよな」

涼が懸念を示し、アベルが肩をすくめる。

アベルは国王陛下として、国家の運営を行ってきた。

多くの人間が働く王国政府、あるいは王城を知っているため、食費だけでもかなりのお金がかかる事を知っている。

「そう考えると、先触れ担当一号君を筆頭に、食費のかからないゴーレム軍団たちの素晴らしさは際立ちますよね」

「確かに食費はかからんが……ゴーレム軍団……か?」

「今はお掃除部隊であっても、いずれは仲間を守る戦場の軍団になるに違いないのです!」

涼は力強く断言する。

その頭の中には、ゴーレムたちが乱舞する戦場の光景が描かれていたのかもしれない。

「とりあえずは、僕らが食べ終わったら、この箱をあちらに届けるお役目を果たしてくれるに違いありません」

「まあ、それができるだけでも役には立っているな」

先触れ担当一号君らは、先触れだけでなく、器の返却もできるのだ!

「しかし……リョウは飯を貰ってばかりじゃないか?」

「え?」

「こちらからのお返しとか、してないだろう?」

「い、言われてみれば確かに……」

アベルの指摘に、 愕然 ( がくぜん ) とする涼。

お菓子やお弁当をおすそ分けしてもらっているが、確かに輪舞邸から贈ったことはないかもしれない。

「いただいてばかりでは悪いですよね。どうしましょう……」

涼は輪舞邸の中に入っていきながら考えて……再びポンと手を打った。

それを 胡乱 ( うろん ) げな目で見るアベル。

先ほどの経験が、そんな目にさせたのだ。

「僕が作る氷の像を贈りましょう」

「氷の像?」

「ええ。アベルの等身大の像です」

「やはり、ろくでもないことを……」

アベルは、予想通りのろくでもないことであったため、もはや怒鳴らない。

呟くだけだ。

「ナイトレイ王国との友好の証です」

「うん、却下だ」

「なぜ!」

「いや、なんか変だろう、それ」

「じゃあ、王国とアベル王の 威光 ( いこう ) を示すために、50メートルのアベル王像にしますか? アベルは 見栄 ( みえ ) っ 張 ( ぱ ) りですね」

「なんでそうなるんだよ! 絶対にするなよ!」

国同士の友好の証……いろいろと難しいようだ。

二人は屋敷に入り、お茶を飲みながらポアジュウをつまむ。

小さなお 饅頭 ( まんじゅう ) のような見た目ながら、中にはひき肉のようなものや、ネギっぽいものなども入っている。

冷ましたシュウマイというイメージを涼はもった。

それが正しい認識なのかどうかは不明である。

だが美味しいのは確かだ。

「なるほどこれは、おやつとお昼ご飯の兼任ができますね」

「いくらでも食べられそうだが、調子に乗って食べていると大変なことになりそうだな」

二人とも知っている。

食べ過ぎは良くないと。

食べ過ぎると大変なことになると。

経験が、二人を賢くした。

「アベル、僕らが置かれた状況はなかなか複雑になっています。ちょっと整理してみましょう」

涼はそう切り出すと、お茶を一口啜ってから続けた。

「まず僕らは、大目標として中央諸国に戻ることが一番です」

「そうだな」

涼の切り出しに、アベルも同意する。

「ですが皇帝陛下がおっしゃるには、なにやら『壁』があるらしく、それが開かないと中央諸国に続く『回廊』を進めないと。それは、一年後……いえ、もう十カ月後くらいですか、には開いているだろうと。そこから、最低でも五年間は開いているそうですから、その間に『回廊』を抜けて王国に戻ります」

涼はそこでお茶を一口啜る。

「で、それまで暇なので、リュン皇子でも 担 ( かつ ) いで皇帝に就けてやるかって、アベルが言い出しました」

「おい」

涼の説明に、アベルは不満があるらしい。

だが、無視して続けられる。

「次期皇帝位を狙うには、その前に皇太子に立てられなければなりません。皇太子に立てられるには、親王でなければなりません。皇子のままではダメです。現在親王は三人。第二皇子コウリ親王、第三皇子チューレイ親王、そして第四皇子ビン親王」

「うむ」

「そして僕らが協力する第六皇子リュン皇子が、一カ月後に親王に進みます」

「なあ、リョウ」

「はい?」

「間が一人飛ばされたよな」

「はい??」

「第四皇子と第六皇子の間……」

「ああ! 第五皇子……って、どなたです?」

「知らん」

涼もアベルも、第五皇子については全く知らないことに気付いた。

「リュン皇子に、親王になるのを先越されるのだが……どう思っているんだろうな」

「いや、そもそも亡くなられている可能性も……」

「まったく話に出てこないもんな、それもあり得るか」

「謎の皇子……。彼が、皇宮の奥で 暗躍 ( あんやく ) している可能性もありますね!」

「なんだよ暗躍って」

涼は、物語のよくある展開にワクワクしたのだが、アベルは同意してくれない。

「 愚鈍 ( ぐどん ) なふりをしていた皇子が、実はちょ~有能で、最終的に帝位をその手に奪うというのは物語の王道なのです」

「そうか。第五皇子が、そんな奴だったらいいな」

なぜか涼が勝手にワクワクし、アベルが肩をすくめる。

明日にでも、誰かに聞きに行きましょうとか呟く涼を尻目に、アベルは呟いた。

「どちらにしろ、今、最も皇太子の座に近いのは、第二皇子コウリ親王だな」

「まあ、そうですね。なかなか優秀であるらしく、シタイフ層のけっこうな割合がコウリ親王の派閥に属しているとか。ですが……」

「そう、それだけ優秀でシタイフ層の支持も厚いのに、いまだに皇太子として立てられていない。しかも、先の皇太子が亡くなった時には、すでに親王に進んでいたわけで……彼がそのまま次の皇太子に立てられていれば、今のような混乱もなかったのだろう?」

「つまり、一般の人には見えてこない部分で、皇帝陛下は踏み切れない何かがあるのでしょう。司空のシャウさんも、コウリ親王のことは好きではないみたいでしたし」

そこで、涼とアベルはポアジュウを一つずつつまんだ。

「これくらいのペースで食べればいいのです」

「経験は大切だな」

涼もアベルも、大人になった!

「第三皇子チューレイ親王は、武の人です。でも、まっすぐだけど 融通 ( ゆうづう ) が利かないので……なんとなく皇帝には向いていない気がします」

「……そうなのか?」

「僕らが知っている皇帝陛下は、 清濁 ( せいだく ) 併 ( あわ ) せ 吞 ( の ) む感じです」

「それって……デブヒ帝国の先帝ルパート陛下のことだろう?」

「よく分かりましたね! あの方はかなり怖いですし、本当に目的のためには手段を選びませんし、平気で人の命を犠牲にしちゃいますけど、為そうとしたことは絶対になし遂げてしまいますよね。なんというか、凄みがあります」

「あの方は、歴代皇帝の中でも上位の方だろ」

涼が褒め、アベルが同意しつつも『皇帝』の中でも特別できる人だと指摘する。

「まあ、柔軟さというものは、国家を率いる者には必要になるよな。良きにつけ悪しきにつけ」

「やっぱり、アベルも国王として悪いことをいっぱいしているのですね。そして、国のためだから! とか、国家の安全のためだ! とか言って、罪のない一般市民を投獄しているのですね!」

「いや、なんでそうなるんだよ」

「僕は見てきました!」

もちろん、映画やドラマや小説のお話だ。

「最後に第四皇子ビン親王ですが……まだまだ力不足です」

「なぜ、そこだけ上から目線なんだ」

「とはいえ、だからこそ非常識な行動をとる可能性があります。気をつけなければなりません」

「おう……」

「帝都冒険者互助会所属の、三級、二級冒険者全て……数百人を雇ったそうですが、そのお金はいったいどこから出ているのか?」

「親王なら、それくらい持っているんじゃないか?」

「商人からの 賄賂 ( わいろ ) など、不正な 蓄財 ( ちくざい ) の結果に違いありません!」

「決めつけるのはどうかと思うんだが」

涼の根拠なき断言に、アベルは疑問を呈する。

もちろん、涼はアベルの疑問を 一顧 ( いっこ ) だにしない。

「お金の流れを追えは、犯罪捜査の鉄則なのです」

「うん、まず犯罪じゃないからな、これ」

涼が思い出したように言う。

「冒険者で思い出しましたけど、一級、特級冒険者は第二皇子コウリ親王に雇われているのですよね」

「そうだな」

「強力な戦力です」

「それは否定しない」

そして、二人の会話は、皇宮外に飛ぶ。

「ダーウェイの外からも 脅威 ( きょうい ) があります」

「北の方にあるというチョオウチ帝国だな。ベルケ特使らは、帝都から消えたようだが」

「彼らは幻人でしたけど……チョオウチ帝国は、全員が幻人?」

「……」

涼の問いに、絶句するアベル。

「もしそうなら……人口次第だが、とても人が勝てる相手ではないだろう?」

「超大国と言われるダーウェイであっても、簡単ではないでしょうね」

アベルも涼も、顔をしかめながらお茶を啜る。

「外の脅威といえば、他にもありました」

「……あったか?」

「幽霊船ルリです」

「ああ……。まあ、外の脅威ではあるが、ダーウェイに関係するものではないだろう」

「ええ、むしろ、僕らに関係するものですね」

二人とも小さくため息をつく。

「リョウも大変だな。リュン皇子に協力し、幽霊船ルリに 睨 ( にら ) まれ、さらにいつもいつも悪魔たちが遊んでくれとやって来る」

「アベルに半分あげます」

「いらん」

世界は、いろいろとままならぬものらしい……。