0759 邂逅お茶会
0759 邂逅お茶会
三人がそんな会話を楽しんでいると、五人の冒険者っぽい者たちが入ってきた。
その中の一人、水色の髪の女性に涼はすぐに気付く。
「あれ? キンメさんがいる」
「ああ、『清涼なる五峰』か」
涼はともかく、アベルは人の顔と名前を覚えるのが得意だ。
特に国王となってからは、ほぼ百パーセント、紹介された人物の顔と名前は忘れないようになった。
国王としてのお仕事の一環なのである。
「あら、リョウさん」
「え? アベル陛下!」
キンメがすぐに見つけて笑顔で手を挙げ、他の四人がアベルを認識する。
『清涼なる五峰』の面々がマスターに断って、二つのテーブルがくっつけられ、八人が座る席となった。
「すぐに会えるって思ってたけど、やっぱりすぐに会えたわ」
「え?」
「そういえば、前回別れた後、キンメ言ってたね」
キンメが言い、涼が首を傾げ、ピンク髪 撲殺 ( ぼくさつ ) 士グティが何度も頷く。
「もしやキンメさんも未来視能力持ち……」
「ううん、 視 ( み ) えないよ」
涼が驚きながら言い、キンメが笑顔で否定する。
だが、別のことに気付いたようだ。
「私も?」
「未来視なんて、首長様くらいしかいないでしょ?」
「あ、いえ、えっと……」
キンメが首を傾げ、グティが指摘し、涼が追い込まれる。
それを見て、アベルは助け船を出すことにした。
「実は、このジェルダンに来る前、バーダエール首長国のホソイナにいた。そこでバットゥーゾン首長にお会いしてな」
「そういえば、首長様が戻ってきたって聞いたけど」
「まさかそれに、お二人が絡んでいたとは」
アベルが説明し、グティが頷き、緑髪のパトリスが驚く。
アベルは、あえてそこまでしか言わなかった。
目の前の『清涼なる五峰』が以前、バーダエール首長国所属だと言ったのを覚えていたからだ。
少し、ほんの少し、その首長と言い合いになったことなど、わざわざ言う必要はないかなと考えて。
しかし……。
「バットゥーゾン首長、ガーウィンを追い払うのに、リョウさんたちを利用したのね」
「!」
ずばり、キンメが言い当ててしまった。
驚く涼とアベル。
理解できない、他四人の『清涼なる五峰』。
キンメは特に非難しているわけではなく、笑顔のまま話している。
しかしパーティーメンバーたちは、その笑顔から何かを読み取ったようだ。
「キンメが……」
「少し、怒ってる?」
パトリスとグティが指摘し、トコとマウは無言のまま恐ろしげな表情で見つめ合う。
「別に怒ってないです。そもそも私は関わりたくないから、ホソイナから離れたお仕事をしましょうって、みんなに言ってたのだから」
「俺がホソイナに帰りたいって言っても拒否されたのは、それが理由か」
「首長様に関わりたくなかった?」
「そっちより、ガーウィンっていう面倒なのに関わりたくなかったの。古い知り合いなんだけど、本当に面倒なんだから」
キンメはそう言うと、肩をすくめた。
魔人同士でも、必ずしも仲が良いわけではないようだ。
「そう言えば、マーリンさんも似たようなことを言っていました」
涼は、ガーウィンについて話してくれた魔人マーリンを思い出した。
「ああ、そうね。赤服もガーウィンは好きじゃない部類でしょうね。分かる~」
キンメは力強く頷く。
「昔馴染みが厄介な人だと大変なのは、どこもいっしょってことね」
「おい、何でこっち見ながら言ってんだよ」
グティが言い、パトリスが顔をしかめて文句を言う。
二人は、 幼馴染 ( おさななじみ ) でもあるのだ。
「でもバットゥーゾン首長が戻ってきたってことは、リョウさんたちがガーウィンに勝ったってことよね? さすがね~」
「あ、えと、その辺はいろいろと複雑でして……」
微妙に涼は口ごもる。
悪魔であるレオノールの助勢を受けたことを言うべきかどうか……。
涼はそこにひっかかったのだ。
そもそも、『悪魔』という言葉自体、人間は知らない言葉である。
本来、知れば、悪魔に殺されるほどのものらしい。
例外的に、涼とアベルは知っているが、それをここで言うと、『清涼なる五峰』の人間四人も知ることになり……。
涼はチラリとアベルを見て言葉を続ける。
「いろいろと制約があるので、ここではちょっと」
「そうだな。詳しくは言えん。いつか機会があったらということで、勘弁してほしい」
涼が言い、アベルも加勢した。
アベルも『悪魔』という言葉の取り扱いについては、覚えている。
だから王城にいた時にも、涼以外の者の前でその言葉を出したことはなかった。
そんな理由で、話題を変えることにした。
アベルから切り出すのは、けっこう珍しいのだが。
「『清涼なる五峰』は暗黒大陸を中心に活動しているな」
「はい」
「しかも以前聞いた話だと、嵐で大陸南部にも流されたことがあるとか」
「あります」
「思い出したくないですが」
アベルの問いに、グティとパトリスが顔をしかめて頷く。
「ちょうど良かったのかもしれん。皆に聞きたいことがある」
「聞きたいこと?」
「私たちに答えられることなら、なんなりと」
「ミトリロ鉱石というものは知っているか?」
「ええ。武器の材料としては、最上級の鉱石の一つです」
「それを手に入れたいのだが、最近は、この沿岸部では取り扱われていないと聞いた」
アベルは、率直に問うた。
無言のまま聞いていた涼とスコッティーは少し驚いたが、何も言わない。
確かに聞く相手としては悪くないからだ。
先日、トップと険悪な会話を交わしたバーダエール首長国に所属するパーティーではあるが、個人個人はそれほど悪い者たちだとは思えない。
もし誰かに尋ねなければならないのであれば、彼らに尋ねるというのは選択肢として悪くないと思えるほどに。
実際、パトリス、グティ、トコ、そしてマウの人間四人組は、かなり真剣に考えてくれている。
東部諸国では全く見たことがないだの、西部諸国でも出回っているという話はきいていないだの、昔採れたものは全量、西方諸国に売られたらしいだの。
ナイトレイ王国一行が掴んだ情報は、だいたい事実だったらしい。
しばらく涼を笑顔で眺めていたキンメが口を開いた。
「南部に流された時、ミトリロ鉱石の採掘場の近くを通ったわ」
「え?」
「嘘?」
「どこ?」
「よく覚えてるね」
キンメが言い、パトリスもグティもトコもマウも驚く。
「クラーケンの集団から脱出して上陸した所の、すぐ近くね。打ち捨てられた港……確かニュートンの港があったから……多分、以前は、採りだした鉱石をその港から船で運んだんでしょう。でも近くにクラーケンの集団が住み着いちゃったから……」
「こっちまで来なくなったのか」
キンメが推理し、パトリスが同意する。
「最近、暗黒大陸の周辺海域ではクラーケンが多くなったらしいの。鉱石の輸送は当然船で行ってたでしょうから……」
「それで沿岸部まで届かなくなったのか」
アベルも頷いた。
大量輸送の基本は海路だ。
一般的に陸路より時間がかからず、船のサイズ次第で一度で大量に運べる。
「特に、この暗黒大陸は中央部には入れないから」
「暗黒大陸に住む者たちも、入れない?」
「ええ、入れません」
グティの言葉にアベルが尋ね、パトリスが頷く。
「巨大な 断崖絶壁 ( だんがいぜっぺき ) があり、それより先に進めないようです」
「魔法的な障壁とかじゃなかったです……」
なぜか残念そうな表情になる涼。
それを横目に見て、小さく首を振るアベル。
無言のままだが、その口は「やっぱりか」と言いたげである。
「空を飛んだりすれば、断崖絶壁を超えるのは可能なのでは……」
「はい?」
「空?」
涼の呟きに首を傾げて反応するパトリスとグティ。
「リョウ、普通は、空を飛べない」
「仕方がありません。王国が誇るゴールデン・ハインドを呼ぶのです」
「……おい」
「かの空中戦艦なら、断崖絶壁などひとっ飛びです」
涼が囁き声よりは少しだけ大きな声でアベルに答える。
当然、それは、同じテーブルにいる『清涼なる五峰』にも聞こえた。
「空中戦艦……」
「ナイトレイ王国はそんなものを……」
「あ、そう言えば聞いたことあるかも」
「吟遊詩人たちが歌ってたかも」
グティアが驚き、パトリスも驚くが、トコとマウが聞いたことがあるらしい。
「『ナイトレイ王国解放戦の歌』とかだったよな」
「それそれ」
「出てきたよ。大空の 覇者 ( はしゃ ) !」
「帝国の船をバッタバッタと叩き落としたんだよ」
パトリスとグティも思い出し、トコとマウがもっと詳しいようだ。
にっこにこの笑顔で話している。
「やっぱり、ここにも吟遊詩人の影が!」
「スゲーな、吟遊詩人」
涼とアベルは素直に驚いた。
東方諸国から西方諸国、そして暗黒大陸にまで、王国解放戦の話が広がっているのだ。
しかも広めたのは、吟遊詩人。
「比較的、良いイメージで広がっている……と考えていいんですよね」
「自分の名前が出てくるのは、ものすごく恥ずかしいがな」
「同感ですが、国のためです。仕方ありません」
ここに、国のために犠牲になる国王と筆頭公爵がいた。
これもある種の、ノブレス・オブリージュと言えるのかもしれない。
「しかし、ゴールデン・ハインドまで、吟遊詩人の歌で、存在が知られているとは」
「まあ、でも、それが抑止力として機能しているでしょう?」
「だが、わざわざ暗黒大陸で広めるような情報かと言われれば……」
「これが伝わって、ナイトレイ王国と仲よくしようという国が出てくるかもしれないじゃないですか。アベルが出張ってきたのも、国同士の関係を良くして、将来は条約の締結まで持っていくためでしょう?」
「そういう考え方もできるか」
珍しく涼がまともな説明をし、アベルも納得する。
とはいえ……。
「ゴールデン・ハインドを呼んでどうこうというのは、当然無理だ」
「ですよね」
アベルはあえて言うが、もちろん涼も分かっている。
ゴールデン・ハインドは王国を、直接の外敵から守る強力な空中戦艦だ。
その主砲にヴェイドラを積む、王国の空の守護者。
国を離れて暗黒大陸への派遣などあり得ない。
「とはいえ、その断崖絶壁を含めて暗黒大陸中央部、どうなっているか興味はあるんだよな」
「同感です」
アベルの言葉に同意する涼。
だが……。
「行くのはやめたほうがいいよ」
笑顔ではあるが、少し真剣みが増した表情のキンメが止めた。
「何か知っているのですか?」
「う~ん、正確には知らないけど……多分、リョウさんみたいな人が行くと、『あいつ』は喜ぶ」
「あいつ?」
「喜ぶ?」
キンメが匂わせ、アベルと涼が首を傾げる。
そのまま待っても、キンメはそれ以上の説明はしなかった。
涼は考える。
暗黒大陸中央部には、どう考えても、厄介な存在がいる。
この世界には、どうも戦うことの好きな者たちが多いようなのだ。
しかも首を斬り落としても死なない者たちが。
涼は首を斬られたら死ぬと思うので、そんな不公平な戦いはしたくない……それなのに、なぜか戦闘狂などと呼ばれる。
とても不憫である。
「全てはアベルのせいに違いありません」
「うん、何のことを言っているのか全然分からんが、完全な間違いであることだけは、なぜだか分かる。不思議だよな」
「それは僕に対する偏見です」
「全くその通りだと思うが、今さらその偏見をなくす気はない」
「何でですか!」
「リョウに関する限り、偏見で判断した方が合ってることが多いからだ」
「なんて理不尽な」
涼は嘆くのだ。
それをニコニコ顔で眺めるキンメ。
苦笑しながらも、無言のまま二人の会話を聞く『清涼なる五峰』の他四人。
表情も変えずに、完全に聞き流す風なスコッティー。
その後も、平和で友好的な会話が交わされた。
『清涼なる五峰』は、まだしばらくはバーダエール首長国の都ホソイナには戻らずに、いくつか請け負っている仕事をこなすらしい。
そして一行は別れた。
「王国の冒険者とかとは違って、同時にいくつもの仕事を引き受けてるんですね」
「そうだな。確か、『護衛』パーティーって言ってたよな。その辺もいろいろ違うのかもしれんな」
「アベルも、彼らを護衛として雇ったらどうですか」
「王国騎士団やリョウがいるのにか?」
「バーダエール首長国が、 侮辱 ( ぶじょく ) された腹いせにアベルの首を取りに来た時に……」
「いちおう『清涼なる五峰』は、そのバーダエール首長国所属だろ」
「なるほど、裏切る可能性があると」
「いや、そこまでは言わんが……」
「みなまで言うなです」
涼はそう言うと、右手を上げて、アベルが何か言おうとするのを 遮 ( さえぎ ) る。
「アベルは 清廉潔白 ( せいれんけっぱく ) な国王でいてください。泥は僕ら周りのものがかぶりますので」
いかにも、主君を守る悲壮な決意の側近という役を演じる涼。
「なんでだろうな、 胡散臭 ( うさんくさ ) さを感じるのは」
「失敬な!」
アベルが正直すぎる感想を述べ、涼が反論する。
三人がスキーズブラズニル号に戻る道すがら、この場にいるもう一人、スコッティーは表情も変えず、無言のまま二人の後をついていくのだった。