0779 巻き込まれる涼
0779 巻き込まれる涼
涼とアベルが到着した時、遺跡の入口前には全員が座っていた。
礼装老人は椅子に腰かけて、他の者たちは地面に……。
ちなみに三号君だけは立ったままだが、礼装老人の前に立たされお説教をされている生徒、といった感じだ。
もっとも表情が変わらず 俯 ( うつむ ) いてもいないため、反抗的な生徒にも見える。
実際は、礼装老人が眺めているだけなのだが。
「来たようだな」
「お待たせしました」
礼装老人の言葉が聞こえたので、馬から降りながら涼が答える。
礼装老人と三号君の方に近付いていきながら問いかける。
「その子……突撃探検家三号君を仕舞ってもいいでしょうか」
「しまう? 突撃探検家三号君? 変わった名じゃな」
礼装老人が呟く。
涼は三号君を錬金術的に消した。
それでようやく一息つく。
礼装老人に壊される恐れはなくなった。
そんなことをされたら悲しいので……。
「さて白ローブの……お主を何と呼べばよい?」
「僕の名前は涼です」
「そうか、リョウ。人は、他の者の住処に勝手に入って行っても罰せられないのか?」
「……罰せられます」
大上段から正論を叩きつけ、いきなり会話の主導権を礼装老人が持っていく。
強い立場の者だからこそできる、初手からの強手。
そこには探り合いも駆け引きもない。
「我々は、こちらが、あなたのお住まいだとは知らなかったのです」
「先に入ってきた者たちから、一人帰したであろう? その者が、伝言を伝えたはずじゃ」
「その一人は、記憶を消されていて……伝言? ありましたか?」
「来るな、と伝えさせたはずじゃ」
「ああ……」
涼とアベルが 異口同音 ( いくどうおん ) に頷く。
代官は何か恐ろしいものにあったからだと言っていたが、確かに戻ってきた一人は、治療中に何度も「来るな!」と叫んでいたらしい……。
伝言ゲームの難しさである。
「確かにその一人は、治療中にうわごとのように言っていたそうです。来るな、来るなと」
「そうであろう?」
「あまりにも必死に繰り返し、叫んでいたので、何か恐ろしい体験をして、その記憶が何度も蘇っているのだろうと判断されました」
「なんじゃと?」
「行き違いがあったのです」
涼は正直に答える。
この場面、嘘をつくのだけは絶対にダメ。
それほどの相手だ。
「お主……リョウと言ったか。我が何者か分かっておるように見えるが」
「西の竜王あるいは白の竜王? 風の竜王?」
「ふむ、まあ、その辺の認識で間違いないわい」
礼装老人……竜王は頷く。
アベルは驚いているが、もちろん口を挟んだりはしていない。
そこにいる他の者たちの耳にも二人の会話は届いたはずなのだが、反応がない。
理解を超えているようだ。
この状況でそんなはずはないのに、冗談の類だと頭が判断しているのかもしれない。
涼も法則性には気付いている。
南であるロンドの森にいる紅い竜王。
東である東方諸国にいる青い竜王……なぜか男女ペア人間外観。
中央とも言うべき場所にいた金の竜王……現在転生中。
そして、今回。
五行 ( ごぎょう ) において、東の青、南の紅、中央の金とくれば、西は白。
同じく、東の青は水、南の紅は火、西の白は風。
だから白の竜王、あるいは風の竜王かなと思ったのだ。
できれば名前もと思ったのだが、先に口を開いたのは白の竜王であった。
「紅、青、それに金まで……。三体の竜王に印をつけられておるとは……奴ら、お主を『それ』と認めたのかのぉ」
「……はい?」
涼は首を傾げる。全く意味が分からないから。
同時に、名前を聞き損ねた。
「それらの竜王に会ったのであろう?」
「はい。ルウィン様は、私の家のご近所さんです。ヌールス様には、黄金の街でお会いしました。ラウとファンは、彼らの幽霊船で戦いました」
「……今、何と申した?」
「ルウィン様は……」
「そこではない」
「ヌールス様は……」
「その次じゃ」
「ラウとファンは、彼らの幽霊船で戦いました」
「戦った? なるほど」
竜王は一つ頷いた後、言葉を続けた。
「幽霊船ということは、奴の……奴らのスケルトンは見たのじゃな」
「はい。ですので、この遺跡の中で四本腕のスケルトンを見た時に、その時のことを少し思い出しました」
「そこから、我の正体に結びついたか」
「その時は、確信はありませんでした。あくまで、その可能性が頭にあったというだけです」
「ほぉ」
「確信したのは、あなたの動きと、三号君たち全員を一瞬で入口に運んだその力でした」
あんなこと、ヴァンパイアや魔人でもできない……多分。
悪魔ならできるかもしれないが……わざわざ運んだりせず、殺してしまう気もする。
もちろん偏見である。
少し考えた後、礼装老人は、よく分からない問いを発した。
「お主……自らの肩に人の命が懸かった時、どうする」
「人の命? どうする? すいません、意味が分かりません」
「お主が我と戦えば、ここにいる他の者たちの命を保証しよう」
「戦わずに僕が逃げれば?」
「もちろん、全員殺す」
表情も変えずに老人は断言する。
「けっこう強い人たちもいますけど、あなたにとっては……」
「うむ、関係ないな。抵抗できずに終わるじゃろう」
「なら、僕の答えは決まっています。僕は、戦います」
涼は一歩前に出て答える。
迷わない。
逡巡 ( しゅんじゅん ) しない。
「他の者のために、自らの命を懸けるか」
「自分の行動でどうにかなるのなら、考えるまでもありません」
「そうか。じゃが、我も手は抜かぬぞ? お主も全力でかかってくることじゃ」
「分かりました」
涼は大きく頷いた。
「リョウ?」
「大丈夫です、アベル、僕は行きます」
「しかし、あまりにも理不尽だろう。ここにいる者たちの命を人質にとって、リョウに戦いを強いるなど……」
「あの方はドラゴン、その中でも頂点たる竜王の一人です。僕たち人とは、異なる 理 ( ことわり ) に生きています。それが人から見れば理不尽に見えたとしても、仕方ありません。指摘したところで無意味です。強い方の理が通るのが世の常。アベルだって知ってるでしょう」
涼はむしろ微笑む。
人は人の理を中心に考える。
当然だ。
なら、ドラゴンはドラゴンの理を中心に考えるだろう。
それもまた、当然だ。
「僕の何かを試したいようです。わざわざ全力で、と言いましたからね」
涼はそう言うと村雨を手に持ち、氷の刃を生成して礼装老人の方を向いた。
「水の妖精王の剣か。それは、我も初めて見るな」
「あなたのことは……竜王様と呼べばいいですか?」
「名前か? あやつらも竜王じゃからのぉ、さて……ああ、ブランでよい。確か、以前は人にそう呼ばれておった」
ブランはそう言うと、空中から取り出した両刃の直剣を手に持った。
「かかってくるがよい」
「行きます!」
涼が飛び込み、戦いが始まった。
本質的に、ドラゴンは戦うのが好きです……。