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0781 戦後処理

水属性の魔法使い — ncode.syosetu.com · All chapters

0781 戦後処理

「まさか最後に、空から氷が降ってくるとはな」

「僕は魔法使いですし、錬金術を趣味でやっていますので」

「剣をあれだけ使うのに、魔法使いと。そして錬金術が、趣味?」

「はい、趣味です」

血を流し過ぎたために、決して元気ではないが笑顔を浮かべて答える涼。

もちろん剣を突き刺された腹や、体中の傷は戦士軍団付きの治癒師によって治療済みだ。

「純粋な強さはまだまだじゃが、その 心根 ( こころね ) は悪くないと、我は思った」

「はい、もっと 精進 ( しょうじん ) します」

「お主に免じて、ここにいる者たちを殺すのはやめておこう」

「それは、本当にありがとうございます」

「街の責任者は……あやつか?」

ブランが 顎 ( あご ) をしゃくる。

涼とブランの戦闘中にようやく到着したらしいメディ・アラジ代官だ。

「はい、メディ・アラジ代官です」

「代官とやら、ちと話がある」

代官を呼びつける竜王ブラン。

色々と話が始まったようだが、涼はとりあえず水を飲む。

そして周りを見回す。

アベルは何やらスコッティーに指示を出している。

戦士軍団のモン隊長は、ママドゥの肩を何度もたたいて無事を喜んでいるようだ。

『大いなる雷』と『流水』の両パーティーは、みな座ったまま……疲労がどっと出たのだろう、パーティー内で会話するのも大変なようだ。

「だいたい何とかなったようです」

涼は頷く。

そんな涼の耳に、ブランとメディ・アラジの会話が聞こえてくる。

「我が言うのもあれじゃが、この大陸は人が住むのには向いておらんぞ。人にとってはあまりにも厄介な者たちが、数多く眠っておる」

「ご助言、感謝いたしますが……」

「すでに住んでおる者たちを移住させるのは無理か……仕方ないな」

メディ・アラジ代官が言いにくそうに言い、竜王ブランも小さく頷く。

「我の 住処 ( すみか ) は、誤って人が入ってこぬように封をしておく。それで良かろう」

「ありがとうございます」

「先に入ってきた者たちはスケルトンにして 使役 ( しえき ) しておるが、返してやる」

「……はい?」

メディ・アラジは首を傾げる。

そんなことに構わず、竜王ブランは地面に魔法陣を生成する。

次の瞬間、二十体ほどのスケルトンが現れた。

「す、スケルトン……」

認識はしたが、誰も逃げるための体が動かない。

だが、すぐに……。

スケルトンは人間の体に戻った。

「これは……」

驚くメディ・アラジ。

「先日入ってきた者たちだ。引き取れ」

「は、はい、ありがとうございます」

スコッティーに指示を出し終わったアベルは、涼の元に来てスケルトンから人に戻る様子を見ていた。

「あれは、最初に遺跡に入ってきた冒険者の連中か」

「そうみたいですね。ラウとファンの時も思ったのですけど、スケルトンって何なんでしょうね」

「ああ。あの状態からでも人に戻すことができる、ってことだよな。ん? だが、そうなると例の……」

「四本腕のスケルトンは何なのか、ですね」

アベルと涼が話しているそこに、竜王ブランがやってきた。

「リョウ、我は中に戻る。お主に課せられた期待は大変じゃろうが、潰れるなよ?」

「え?」

涼が驚く。

そのせいで、四本腕のスケルトンについて質問するタイミングを失う。

今回は、最初から最後まで理解できないことばかりだ。

「詳しいことはルウィン辺りに聞きにいけ。我はもうしばらく眠る。今回のは、封が壊れて途中で起きる羽目になったのじゃ。人間だって、眠っているところをたたき起こされれば、機嫌は悪くなるであろう?」

「はい、すごく分かります」

涼が頷く。

だが今の言葉の中に疑問がある。

「封というのは、この遺跡に掛けられていたものですよね。それがあったから、人は中に入って行かなかった」

「うむ」

「なぜ壊れたのですか?」

「詳しくは知らん。じゃが、大陸の……北の沿岸のどこかで、大きな戦いでもあったのじゃろう。スペルノか悪魔どもか、その辺りが全力で戦ったのかもしれん。はた迷惑なことじゃ」

「そ、そうですか……迷惑ですね……ははははは」

乾いた笑いが漏れる涼。

確かスペルノ……つまり魔人と悪魔が、戦っているのを見た覚えがある。

ガーウィンとかいう魔人と、レオノールとかいう悪魔が。

まさかの、今回の原因の一端を担っていた涼。

「悪魔で思い出したわい。リョウは、我らドラゴンと悪魔が戦った話は、誰かから聞いたか?」

「はい。ヌールス様が話してくださいました」

「そうか。そういうことで、我らの間には決して消せぬ因縁がある。だから交わることはあるまいが……リョウはその間に立つことになるやもしれん。当然これまでに、悪魔からも接触があったであろう?」

「はい……何度か戦いました」

いちおう、命を救われたこともある……ことになるのだろうか。

救った本人は、自分の手で涼を殺したがっているだけとも言えるのだが。

「リョウ、お主が置かれている立場というのは非常に複雑じゃ」

「複雑?」

「いずれ時が来れば分かる」

少しだけ微笑んで、竜王ブランは消えた。

そして、遺跡への入口も消えた。

なんだかんだと事後処理も終わり、帰路につく涼とアベルと護衛の王国騎士団。

「最後に空から氷の槍みたいなのが降ってきたのは、あれだろ。ニール・アンダーセンのやつ。錬金こーてぃんぐとかされている……」

「ええ。ニール・アンダーセンから発射された、錬金コーティング済みアイシクルランスシャワー“扇”です。魔法は一瞬で消されるので、錬金術で生成したものならどうかなと思って」

「いつ、準備したんだ?」

「戦闘開始時、鞘の錬金術を発動してニール・アンダーセンを空中に生成しておきました」

「分身を放った時か? リョウの鞘が光ったのは見えたが……分身は 囮 ( おとり ) か」

「そう、ミスディレクションです」

布石。

最初に伏せておいた切札。

「もしかして、ここに着いてすぐに三号君を消したのも、それか?」

「それ?」

「あの竜王の頭の中から、錬金術に対する意識を無くして、最後のニール・アンダーセンによるとどめに繋げようとしたのか?」

「いえ、それは買いかぶりです。三号君が壊されたら嫌なので、すぐに戻しただけです」

「そうか」

アベルは苦笑した。

だが、すぐに涼は顔を上げる。

「いや、そっちの方がカッコいいですね」

そんな呟きの後……。

「もちろん、三号君を消したのはブラン様の頭の中から錬金術への意識を消すためだったのですよ」

「うん、嘘はよくないな」

「ぐぬぬ……僕としたことが……」

涼が少しだけ悔しそうに言うのを見て、アベルは安心した。いつもの涼だと。

「錬金術で生み出したものですから、制御を奪われることもなかったので、魔法生成物として消されることもありませんでした。まあ、直撃してもほとんどダメージは与えられなかったみたいですけど」

「リョウと竜王、お互いに剣を刺しあって動けなかっただろう? リョウには当たらなかったのか?」

「僕の魚雷ですからね。当然、当たらないようにコントロールしましたよ」

笑顔で答える涼。

自分で引き金を引いた魚雷が自分に当たったら、それは悲しすぎる……。

「さすが竜王だったな」

「ええ、強かったですね」

アベルの言葉に、素直に頷く涼。

「もちろん竜王本体ではないんでしょうけど……」

「ラウとファンもだったよな」

「ええ、ええ。 依代 ( よりしろ ) というか、 容 ( い ) れ物というか、それによって入れ込める強さが違うんでしょうね。今回の礼装老人は、ラウ、ファンに比べて力を入れ込みやすい……あるいは引き出しやすいというべきでしょうか」

「そんな容れ物関係なく、本体が出てきたら……」

「僕ら人間なんて、小指の先でチョイですよ」

涼が右手の小指で、親指の腹を弾く。

小指でチョイを表したらしい。

「ですからアベル、竜王たちにはケンカを売らないでくださいね」

「売るわけねーだろ」

「もしそんなことになったら、僕はそっこーでアベルを切り捨てますから」

「その光景が目に浮かぶわ」

アベルは、涼が視線を逸らして去っていく姿を思い浮かべて、小さく首を振る。

「仕方ないでしょう。アベルが悪いことをしたのがいけないのです」

「うん、あくまでリョウの妄想の中での話な。まだ何も起きていないからな」

涼が首を振りながら言い、アベルは顔をしかめながら否定する。

「でも、以前聞いたヌールス様のお話だと、そんな竜王たちと互角に戦ったんですよね、悪魔たちって」

「そうだな」

「寝起きのレオノールとかとは、なんとか戦えますけど……全力の竜王たちほどの強さではないと思うんです」

「寝起きだからじゃないか?」

「でもでも、ジャン・ジャックとかも……」

「悪魔たちが全力を出せる条件があるんだろう」

「ああ、悪魔大陸がどうとか言ってましたっけ」

涼も頷く。

誰でも、自分のホームでは力を発揮しやすいし、アウェイでは全力を出しにくい。

「まあいいです。さすがに今日は疲れました。早くスキーズブラズニルに戻って、料理長さんの唐揚げが食べたいです」

「そうだよな。そう思って、スコッティーに伝言を託しておいた」

「さすがはアベルです! 美味しい食事は何よりも大切なもの、それを分かっているアベルは、いずれ偉大な王様になるに違いありません」

「お、おう」

食事の手配一つで、偉大な王様になれるらしい……。

あくまで涼の基準だが。

「今日はいっぱい食べますよ!」

「そうだな、好きなだけ食え」

こうして、涼とアベルはスキーズブラズニルに戻っていったのだった。