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0786 野営とほうれんそう

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0786 野営とほうれんそう

「今夜は、この辺りで野営しましょう」

「了解」

モーラ隊長が言い、他の四人が同意する。

特に誰も指示を出すことなく、それぞれが自分の役割を理解して動く。

涼ももちろん何も言わず、五人の動きを見ている。

((五人とも、手慣れています))

((そういう訓練も積んでいるんじゃないか? さっき、冒険者にいろいろと教えてもらったと言っていたろう? 野営は、冒険者なら誰もが身に付ける技術だからな))

((そうなのかもしれませんが……でも、たとえば、王都の守備隊とかは、こんな技術身に付けていないでしょう?))

((いや、王都の守備隊なら身に付けているだろ))

((え! そうなのです?))

アベルが事も無げに言い、涼が驚く。

((以前、リョウが剣術指南役だったルン騎士団、彼らもやってたろう?))

((ええ。演習でありました))

((同じだ。ルンの守備隊もだが、王都の守備隊もそんな演習が訓練の中にあったぞ))

((なんで、そんなことをやるんですか?))

((いざという時、それが助けになるからさ。以前に経験したことがあるというのは、かなり心に余裕を持たせてくれる。指揮官クラスはもちろん、訓練メニューを作る連中もそのことを知っているからな))

((知りませんでした))

小さく頷く涼。

確かに、ルン騎士団では城外演習に駆り出されたことがある、何度も。

一度など、雨の中の演習から戻ってきたら、国王に即位したばかりのアベルたちが襲撃されていたこともあった……。

((雨の中の城外演習は地獄でした))

((炎天下の城外演習も大変だぞ))

((ということは、極寒の城外演習も……))

((ああ。指先まで凍りそうになるな))

涼もアベルも、どんな状況でも城外演習が大変であることを知っている。

((彼女たちは、そういうのも一生懸命やってきたようです))

((正直、街の守備隊だと、実際に必要になる場面がないまま除隊することもあるのにな))

((訓練でも一生懸命やれるというのは、ある種の才能だと思うのです))

((才能?))

((ええ。けっこうな数の人たちが、訓練だと手を抜いてしまうでしょう? こんなの実際の現場では必要になることなんてない、って勝手に解釈したり結論付けたりして))

((そうだな、そういうやつらもいるな))

アベル自身は手を抜くことはないが、訓練で手を抜く者たちがいることは知っている。

冒険者時代に見たことがある。

国王になってからは、兵たちが手を抜く姿はほとんど見ていないが……。

((国王という立場にあるアベルの目に入るとこで手を抜いていたら、それこそとんでもない人材ですよ。悪い意味でね))

((違いない))

筆頭公爵と国王が、見えない会話をしている間も、第三守備隊は着々と野営の準備を進めていった。

具体的には、寝床と晩御飯の準備である。

寝床とは言っても、道具があるわけではないので……。

「リョウさん、こんな寝床で申し訳ないのですが」

モーラが言う。

敷 ( し ) き 藁 ( わら ) などもないため、刈った草が敷かれてある。

「いやあ、立派です。冒険の途中にこんな寝床を提供されたら、文句を言う人なんていませんよ。ありがとうございます」

涼は笑顔で答える。

実際、冒険中の寝床なんて、マントやローブにくるまって地面に寝るのが関の山だ。

慣れていても、一晩そんな状態で寝ると、朝起きた時にはいろいろ体中が凝っていたりする。

それに比べれば……。

「火の準備ができましたー!」

「あ、お湯とかお水とかいりますか?」

オミンの言葉に、涼が答える。

料理は、移動途中で手に入れたウサギ肉であるため、お湯はいらないようだ。

六人ともお腹いっぱいになるまで食べた。

「夜の守りは僕に任せてください。水属性魔法にちょうどいい魔法があるんです」

と涼が言って、一行を氷の壁で囲ってみせたからだ。

全員がゆっくり眠れることを示して。

「リョウさんの氷の壁って、すごいですね」

「そうでしょう? 水属性魔法ならではなのです。これ、冒険の旅でも 重宝 ( ちょうほう ) したんですよ」

モーラの賞賛に、嬉しそうに答える涼。

彼女たちは、水属性の魔法使いをあまり知らないようだ。

守備隊にはもちろんいないし、いろいろ教えてもらった冒険者たちのパーティーにもいなかったらしい。

「水属性の魔法使いは、わざわざ危険な冒険者なんかにならなくても、商会とかで重用されるからって聞きました」

「そう、中央諸国でもそうですね。僕が所属していた冒険者ギルドでも……そういえば、結局一人も見かけたことないかも」

オミンの言葉に、涼も冒険者として活躍していた頃を思い出す。

ここで言う『活躍』は、人によって定義の違う言葉である……。

「夜、氷の壁で仲間を守り、普段は飲み水も出せてってなったら、それは重宝されますよね」

「水属性魔法って凄いですね」

モーラとアンジュリが賞賛する。

彼女たちは水属性魔法に、あまり詳しくないのだ。

詳しければ、涼がどれほど異常か理解したであろう。

翌朝。

((こうして僕は、暗黒大陸における水属性魔法の地位向上に貢献したのです))

((それは分かったが……なぜ、今、俺に言う?))

((ホウレンソウは大切だと習いましたので))

((知っているか、俺、起きたばかりなんだ))

((知っていますよ。第三守備隊の五人も、起きたばかりですもん))

((俺たち、昨日の夜眠ったのが遅くてだな))

涼の『魂の響』による報告によって、アベルは叩き起こされたらしい。

((かつてのアベル王は、寝る間を惜しんで国政に 邁進 ( まいしん ) していました。その時代に比べて、今のアベルはさぼりすぎです。民がわずかな収入から納めている税金で生活しているのですから、もっと民のために寝る間を惜しんでお仕事をすべきです!))

涼が納税者の苦悩を告げる。

((それとリョウの報告は別物だ。だいたい、そんな朝早くからは仕事もしていなかったと思うぞ))

((過去と同じレベルでどうするんですか! 仮にも国王なのですから、常に上を目指して、よりよくなっていってもらわないと国民としては困るのです))

((リョウに言われるのだけは違うと思うんだよな))

いつもソファーにぬべ~っと寝転んで本を読んでいる涼を想像して、アベルは小さく首を振るのだった。