LNCrawler

0796 模擬戦

水属性の魔法使い — ncode.syosetu.com · All chapters

0796 模擬戦

剣を持つオスカーに打ちかかるニルスとアモン。

二人の飛び込み、剣閃、いずれもB級剣士にふさわしい鋭いものだ。

有象無象 ( うぞうむぞう ) はもちろん、C級の剣士であっても、その一撃で終わっていただろう。

しかし、相手は爆炎の魔法使い。

中央諸国における、魔法使い最強の一角として知られている。

同時に、その剣の腕も恐ろしく強力だと帝国では知られていた。

なにしろ、帝国で開かれる武闘大会で優勝したこともあるのだ……ほとんど剣だけで。

帝国中どころか、中央諸国中から腕自慢の剣士や槍士が集まってくる大会。

そんな大会で優勝したという話は、帝国人なら誰でも知っている。

そんなオスカー、確かに剣を握っているが、剣だけではなく魔法も使っていた。

<障壁>

<魔法障壁>と<物理障壁>を合わせた魔法。

相手の魔法攻撃も物理攻撃も、この一枚で防ぐ。

ただ、ある程度以上の魔法使いでなければ使いものにならない。

正直、あまり固くないのだ。

そう、あまり固くないはずなのだが……。

「ニルスの攻撃もアモンの攻撃も防いでいます」

「二人とも聖剣なのにな」

悔しそうに言う涼、それよりは冷静に指摘するアベル。

ニルスもアモンも、教皇庁から正式に譲られた聖剣で模擬戦を戦っている。

「嫌味なくらい、完璧な防御です」

涼ですら認めざるを得ない、オスカーの剣と<障壁>による防御。

二人のB級剣士を相手に、余裕をもってしのいでいるのが分かる。

両手で剣を構えたまま、突然空間に〈障壁〉が生まれてニルスとアモンの剣を弾く。

「あれは、やりにくい」

生粋の剣士であるアベルは、ニルスとアモンの立場に立って模擬戦を見ているようだ。

自分が戦った場合の困難さが手に取るように分かる……。

「絶対に割れない<障壁>を、無詠唱で高速連続生成。魔法使いとしては反則ですな」

苦笑するように言ったのは教皇グラハム。

「ヴァンパイアハンターと呼ばれた教皇から見ても、あれは反則か?」

「ええ、間違いなく。勇者パーティーでも、あれほど使いこなせる者はいませんでしたし……おそらく西方諸国全土を探しても、見つけるのは難しいでしょう。さすがは爆炎の魔法使い」

アベルの問いに頷くグラハム。

「昔、聖剣は、強力な魔法使いの<障壁>であっても易々と切り裂くと習ったんだが」

「ええ、聖剣の力を全て引き出せれば、その通りです」

「あの二人は、聖剣に認められたんだろう? だから教皇庁は聖剣を与えたと聞いたが」

「その通りです。ですが聖剣が主として認めるのと、聖剣の力を全て引き出せるのとは、また違うのです。主として認められることの、もう一段上と言いますか……」

「マジで聖剣ってのは、わがままだな」

アベルは小さく首を振った。

「攻撃を完璧に封じられ、反撃はそれなりに食らっています」

「『十号室』側は、この辺りで変化をつけたいな」

グラハムとアベルが小声で言葉を交わしている。

すぐ隣にいる涼は顔をしかめて無言のまま、模擬戦を見ている。

「〈聖なる鎧〉〈エンチャンテッドウエポン〉」

エトが唱える。

それによって、ニルスとアモンの鎧と剣が光った。

「ほぉ……エト殿は〈エンチャント〉が使えるようになったのですね」

教皇グラハムが感心したように頷く。

「エンチャント?」

涼ももちろん知っている。

勇者ローマンのパーティーにいたアッシュカーンが使っていたはずだ。

肉体を強化したり、武器や防具を強化したりする魔法。

しかし中央諸国にはない。

そのため、詠唱も開発されていない。

実は涼も後になって知ったのだが、西方諸国でも習得するのはかなり難しい魔法の一つらしい。

それを、エトが?

あれ?

アッシュカーンは風属性だったけど、エトは光属性……。

「エンチャントは、光属性魔法?」

「いえ、あれは無属性です。アッシュカーンが使うのは知っていると思いますが、私も〈聖なる鎧〉〈エンチャンテッドウエポン〉を使えます」

「なんですと!」

今明かされる衝撃の事実。

「かつてレオノールと名乗る人外と戦うことがありました。その際、ローマンにエンチャントして戦ってもらったのですが……全くかないませんでした」

グラハムは悔しそうに唇をかむ。

めったにないことだ。

特に、勇者パーティーから教皇庁に戻ってからは。

「アッシュカーンのように、エンチャントが使える魔法使いがいると、私たちの魔法も乗りがよくなるのです」

「乗り……」

まだまだ涼の知らない魔法の世界があるようだ。

「エンチャントで防御が上がったからか、さっきまでよりも深く切り込むようになったな」

「肩や腕で弾いての侵入です」

アベルも涼も、もちろん『十号室』側からの視点だ。

「爆炎が誘っているように見えます」

「ニルスも、それを分かっていて踏み込んでいるな」

「確かに、剣士は剣が届かなければ勝てません。ですが……」

涼が懸念を表明した次の瞬間。

踏み込んだニルスの、さらに下に潜り込むオスカー。

そこから剣の 柄 ( つか ) でニルスの 顎 ( あご ) をかち上げる。

さらに腹を蹴り飛ばす。

吹き飛ぶニルス。

「あれは痛い……」

「おのれ爆炎」

アベルが顔をしかめ、涼も顔をしかめる。

オスカーとアモンの一騎打ち。

オスカーは<障壁>を全て消して、剣戟が始まる。

「爆炎は剣だけでアモンと戦うつもりです」

「アモンの剣はかなりのものだろう?」

「ええ。もしかしたら、アベルよりも上かもしれません」

「……それはあんまり聞きたくなかったな」

涼の答えに、小さく首を振るアベル。

ここでアモンが負けたら、自分もオスカーに勝てないと言われたようなものだからだ。

「頑張れアモン、剣士が魔法使いに、剣で負けるなよ」

アベルの呟くような応援は、誰の耳にも届かなかった。

一進一退の戦いが続くアモンとオスカーの剣戟。

「リョウならどう倒す」

「決まっています。百億発の氷の槍で 飽和 ( ほうわ ) 攻撃&串刺しです」

「お、おう」

「奴を倒したあかつきには、串刺し公涼という恐怖の二つ名も、甘んじて受け入れましょう」

「うん、模擬戦だから殺すなよ」

アベルは一応、剣でどうやってオスカーを倒すかを聞いたつもりだったのだが……。

「剣で圧倒するのは簡単ではありません」

涼ですら認めるのだ、オスカーの剣の腕は。

「一撃必殺で、絶対に倒せる技なんて剣には無いでしょう?」

「ああ、無い」

涼の問いにアベルは頷く。

そう、そんな絶対に勝てる必殺技などないのだ。

力、速さ、技で上回れば勝つ。

力、速さ、技で下回れば負ける。

圧倒的な差がなければ、流れの中で勝敗が分かれる。

それが剣の戦い。

「アモンと爆炎は……」

「圧倒的な差はないな」

涼から見てもアベルから見ても、そう見える。

しかし同時に、どちらが優勢であるかも……。

「まるでアモンの剣は読まれているかのように……」

「ああ、剣の 出所 ( でどころ ) を封じられるな」

圧倒的な差はないが、オスカーの方が優位に立っているのが分かる。

それは読みの差。

読みの差とは、経験の差。

アモンが最も好み、得意とする剣、突き。

それに 絡 ( ・ ) み ( ・ ) つ ( ・ ) く ( ・ ) <障壁>。

剣の動きを封じられたアモンの首に、オスカーが剣を当てた。

「参りました」

アモンは降参した。