0800 四号君との絆
0800 四号君との絆
最初の頃は、そんな働く四号君を遠くから見守る一人の白いローブの男性がいた。
開発者、涼だ。
無いとは思うが、暴走したり相手を攻撃したりしてはいけないので……。
子供の初めてのおつかいを見守る親のような気持ちで……。
だが一週間もすると、そんな見守りはなくなった。
「うちの子はやれるようです」
その確信を得たのだ。
四号君は、王国騎士団の中に溶け込んでいく。
「それが噂のゴーレムか」
スコッティー・コブック中隊長が、ザックの後ろをついて歩く四号君を見て頷く。
「話せないが、こっちが言っていることは理解している」
「ロンド公爵が造った氷のゴーレム……」
スコッティーは、そう呟いて四号君を見る。
その視線は、 若干 ( じゃっかん ) 、恐ろしいものを見る感情が含まれている。
「俺たち王国騎士団や、王国使節団を相手に剣を抜くことはないそうだ」
「そうなのか?」
「ああ。全員の顔を記憶していて、何があっても味方だと認識するらしい」
「全員の顔を……すごいな」
ザックの説明に、感心するスコッティー。
「その記憶力は、ザックより優秀だな」
「よし、スコッティー、 喧嘩 ( けんか ) だな? 俺に喧嘩を売っているな? 喧嘩なら買うぞ!」
ザックが言った瞬間、四号君が二人の間にすっと体を入れた。
何も言わないが、喧嘩を止めようとしているのは分かる。
「……すごいな」
やはり感心するスコッティー。
「冗談だ、喧嘩なんかしない」
ザックが軽く四号君の肩を叩くと、四号君はまた元の位置に戻った。
「ゴーレムって、こんなに賢いのか」
「人と協力して仕事をできるように、とロンド公爵は言っていたからな。確かにこれなら協力してやっていけるかもしれん」
ザックは四号君を見て頷くのだった。
噂は広まっていった。
「あれが、ナイトレイ王国のゴーレム……」
「アベル王を守護するゴーレム?」
「我ら西方諸国のゴーレムに比べて小さいが……」
「……だが、強そうだ」
西方諸国におけるゴーレムは、戦場での戦闘が前提であるため全長三メートル。
しかし剣術 指南役 ( しなんやく ) 四号君は、他の 御庭番 ( おにわばん ) 同様に一・五メートル。
人の間で働くにはちょうどいい大きさだと言える。
王国騎士団員が四号君と共にアベル王の護衛をしている姿は、ゴーレムが戦場で働くだけでなく、生活の中でも人と協力できることを示した。
噂は広まり、聖都を離れていた人物も戻ってきて、わざわざアベル王を訪問した。
「ロベルト・ピルロ陛下、お初にお目にかかります」
「いやアベル陛下、中央諸国の人間同士が、西方諸国で初対面というのもあまりない機会ですな」
アベルの元を訪れたのは、連合使節団団長ロベルト・ピルロ。
強力な魔法使いとしても知られ、十四年前に起きたナイトレイ王国とハンダルー諸国連合の間の全面戦争、『大戦』において、連合の魔法戦力の中心となった人物でもある。
最終的に『大戦』は王国の勝利となり、連合は領土 割譲 ( かつじょう ) なども行う羽目になった。
そんな 因縁 ( いんねん ) のある二国の王族同士。
だが、それがありながらもロベルト・ピルロは訪れた。
理由は……。
「なるほど。そちらが噂のゴーレムですな。人と同じ大きさと聞いてはいましたが、確かにすごい……」
「いや、中央諸国におけるゴーレム先進国たる連合の方に褒められるのは、こそばゆいですな」
ロベルト・ピルロが称賛し、アベルが笑顔で答える。
連合は、フランク・デ・ヴェルデ開発による人工ゴーレムを戦場に投入してきている。
これは公式には、中央諸国唯一のゴーレムと言ってよいものだ。
実際王国でも戦場で戦えるゴーレムの開発が王立錬金工房を中心に行われているが、まだ完成には至っていない。
「このゴーレムはロンド公爵……リョウ殿が開発されたとか。魔法使いとしてもずば抜けていますが、錬金術師としても、ものすごい才能ですな」
「ありがとうございます。陛下が褒めていたと伝えておきましょう」
ロベルト・ピルロの賞賛にアベルは頷く。
もちろんアベルは理解している。
ロベルト・ピルロの賞賛の裏に潜む警戒心を。
それは当然だろう。
隣国が、それも仮想敵国の一つであり、長年の因縁もある国が新たな技術を手にしたのだ。
警戒しない方がどうかしている。
「ロンド公爵が言うには、戦争を無くすためのゴーレムだそうです」
「ほぉ」
「彼の者は戦争が嫌いですから」
「正常な感覚ですな。国王もそうですが、筆頭公爵も戦争が好きだという者がなってもらっては困ります」
「民のことを考えれば、できるだけ戦争にならないように国家を運営する。それが正しい道だと王国は考えています」
「連合も全く同感です」
アベルもロベルト・ピルロも、 為政者 ( いせいしゃ ) として戦争は避けたいのだ。
彼らだけではない。
世界中の、およそまともな為政者は戦争などしたくない。
国を大きくしたいと考えている為政者ですら、戦争以外の方法で拡大できればと思っている。
それでも戦争は起きる。
アベルは、心の中で小さく首を振るのだった。
人は疲れるが、ゴーレムは疲れない。
王国騎士団の休憩中も、剣術指南役四号君は観察している。
騎士団員は、合同での訓練以外に、個人訓練を行う。
もちろん強制ではないが、上司たる二人の中隊長が訓練をするのを見ていれば、自分だけ置いていかれるのは嫌だと思うのだ。
そんな剣を振るっている騎士団員を四号君は観察する。
時々、自分も剣を抜いて振るっている。
その姿は、一般人がイメージするゴーレムより、剣士や騎士に近い。
ある程度の時間を一緒に過ごすことによって、王国騎士団の多くは、四号君をもはや仲間だとみなしていた。
「四号君、そういう時は、こうやって左手を抜いて、あえて片手で振る方がバランスが取れるぞ」
「四号君、剣に角度をつけて流された時は、無理に体を支えずに前転してもいい。移動すれば、次の相手の攻撃を避けることに繋がるからな」
「四号君、二剣使いに興味はないか?」
騎士団員が、自分から四号君に教えてくれるのだ。
中には、四号君と模擬戦を行う者たちもいる。
それは一対一だけでなく、四号君と組んでの複数対複数の場合だってある。
それらは、仲間だとみなしている 証 ( あかし ) 。
ザックを含め、ほとんどの騎士団員がそうだ。
多分、最も距離を感じているのはスコッティーだったろう。
もちろんスコッティーも、四号君が気に入らないとか敵だとか感じているわけではない。
ただ、「ゴーレム……なんだよな」と、傍から見れば当然の感情を持っているだけ。
むしろ抵抗なく受け入れているザックや部下たちを見て、その適応性に感心しているくらいなのだ。
今も目の前で、ザックが四号君について熱く語っている。
「正直、ロンド公爵……リョウ殿に対しては、今でも複雑な感情を持っている、その自覚がある。だが、この四号君は善い奴だと思う。少なくとも、俺の背中を預けるに足る奴だとは思っている」
ザックははっきりとそう言い、四号君の頭を撫でる。
「な? 四号君も嬉しそうだろ?」
「そ、そうか……」
ザックは笑顔で言うが、正直スコッティーには四号君の表情の変化は全く分からない。
それでもいいかとは思う。
騎士が、自らの背中を預けることができると言っているのだ。
それ以上の信頼の言葉はない。
「ひとっ風呂浴びたら、また素振りをするぞ四号君」
ザックがそう言うと、四号君はいつも通り無言のまま頷くのだった。