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0804 エト対スコッティー

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0804 エト対スコッティー

時間を少し 遡 ( さかのぼ ) る。

四号君にニルスが当たり、ザックにアモンが当たる。

必然的に、スコッティーにエトが当たることになる。

もちろんそれは、『十号室』からすれば想定していた組み合わせ。

だが、王国騎士団側からすれば想定していない組み合わせ。

「四号君とエト殿が戦う予定だったんだが」

そう呟くのはスコッティー。

本来スコッティーは、ニルスかアモンという剣士のどちらかと戦うことになるだろうと思っていた。

しかし、現状そうなっていない。

「つまり『十号室』は、四号君をできるだけ早く潰して、私の所で一対二の状況を作るという作戦」

正確にその 意図 ( いと ) を読み解く。

「それを防ぐには、四号君が倒される前に私がエト殿を倒さねばならない」

そこまで呟いた後、少し大きめな声で続けた。

「ですが、四号君はけっこう強いですよ」

その声は、自らに 杖 ( つえ ) を叩きつける目の前の神官にも聞こえる。

「そうだとしても、他に作戦がありませんので」

エトが半分笑いながら答えた。

スコッティーの剣と、エトの杖が近接戦でぶつかる。

杖を体に近付けて構えていることから、エトが防御主体であることはスコッティーにも分かる。

杖は、攻撃も防御も苦にしない。とてもバランスのとりやすい武器だ。

体に近付けておくことで短い間合いでも戦えるし、振り回しのように杖の端を持つことによって遠い間合いでも攻撃できる。

(その特性をよく理解している。この杖術は我流ではない)

スコッティーはそこまで考えて、心の中で苦笑した。

(王都所属の冒険者なんだから、中央神殿で鍛えることもできるか。あそこにはモンク隊がいるからな)

そう、スコッティーも覚えている。

魔人との戦いにおいて、モンク隊が聖なる祝福を受けた杖でもって、魔人の 眷属 ( けんぞく ) たちを打ち据えた光景を。

(彼ら並みの杖術と考えて戦うべきだな)

もちろん油断はしていなかった。

相手はB級冒険者なのだ。

神官でB級まで上がるのは簡単ではない。

そもそも神官は、冒険者という危険な職に就かなくとも、いくらでも働き口がある。

光属性魔法を使って治療できるというのは、 稀有 ( けう ) な人材なのだ。

確固 ( かっこ ) たる信念をもって冒険者を続けているということ。

(簡単には心は折れまい。ならば、技術で圧倒して降参させるしかない)

スコッティーはそう考える。

スコッティーの猛攻撃が始まった。

一方、それを受けるエト。

(さすが……王国騎士団中隊長。鋭い剣閃、なんという連撃)

素直にスコッティーの剣を称賛する。

だが、驚きはしない。

四年以上にわたって、ニルスとアモンの剣を最も近くで見てきたのだ。

F級からB級に上がるまで、何百回、何千回と。

二人の剣を、自分だったら受けきれるか?

そう考えたことは何度もある。

最初の頃は、「絶対不可能」と思っていた。

だがアベルが王として即位し、リーヒャが王妃となって、それらを追って『十号室』はルンから王都に所属を移した。

王都には中央神殿がある。

そこには、モンク隊がいる。

エトは時間が空けば中央神殿に行き、モンク隊の訓練に混ぜてもらった。

当時のモンク隊は、何やら筆頭公爵になった人物のアドバイスを受けたとかで、驚くほどハードな訓練をこなしていた。

エトもハードな訓練をこなしながら、杖術も基礎からみっちりと学ぶことができた。

とはいえ、杖術を実戦で使うことはほとんどなかった。

普通のパーティーの活動においてエトが前線に出ることはなかったし、まだまだ杖術に対しての自信も持てなかったからだ。

ようやく杖術への自信が持てるようになったのは、この一年。

西方諸国に来て、<エンチャント>を使えるようになってから……。

中央諸国には無い魔法であるため、エンチャント用の詠唱は無い。

詠唱のない魔法をどうやって発動するのか?

それは中央諸国の魔法使いや神官にとっては永遠の謎だ。

だからエトも苦労した。

詠唱無しで、どうやって魔法が発動するのか?

しかしエトには、すぐ近くにそんなことを日常的に行っていた水属性の魔法使いがいた。

その魔法使いには弟子がおり、王都やルンで彼ら弟子から話を聞くこともあった。

さらに、別の例もあった。

それはニルスの出身の村にいた、ばば様だ。

ばば様は光の女神でなく、大地母神を信仰していた。

そして言ったのだ……「元々、詠唱などなかった」と。

詠唱などなくとも、人を 治癒 ( ちゆ ) することはできる。

つまり、神官も詠唱しなくとも回復や治療をできる……。

とはいえ未だにエトも、詠唱無しで<ヒール>を発動したりはできない。

しかし、そんな知見が頭の隅にあったからだろうか。

詠唱のない<エンチャント>の魔法を使えるようになった……。

「<聖なる鎧><エンチャンテッドウエポン>」

「まさか、エンチャント?」

エトが唱え、体と武器を淡い光が包む。それを見て驚くスコッティー。

スコッティーがエンチャントを見るのは初めてだ。

だが、知識としては持っている。

西方諸国には、そんな中央諸国にない魔法が存在し、近接戦における能力を上げることができるというのを学んできた。

アベルを守るという使命を持つ王国騎士団の中隊長として、必要な知識を身に付けておいたのだ。

その一つにあったエンチャント。

今、エトが唱えたものがどんな効果なのか、正確には分からない。

分からないものへの対処方法は、万国共通だ。

「油断しない。慎重に」

「この前の、爆炎の何とかと戦った時にもエトはエンチャントを使っていました」

「爆炎の魔法使いオスカーな。あの時は、前衛のニルスとアモンにかけていたが、今回は自分に掛けたか」

「多分、自分の防御が上がるのと、攻撃力が上がるのでしょうけど……具体的に何がどうなるんでしょう?」

「うん?」

「着ている服が破れにくくなるとか?」

「およそ戦闘中に使うもんじゃねーな」

涼の推測を、言下に斬って捨てるアベル。

「破れにくくというのが嫌なら、剣を弾く?」

「それならあるかもしれんな……<聖なる鎧>と言ったよな」

「ええ、ええ。ああ……この前、グラハムさんに効果まで聞いておけば良かったです。名前的にも神官とか聖職者の人が使うっぽいエンチャントですよね。失態です」

「聞いたら、後で俺にも教えてくれ」

「分かりました」

涼は頷く。

しかし、エトが唱えたエンチャントは一つだけじゃなかった。

「もう一つは<エンチャンテッドウエポン>……武器の強化ですが……」

「実戦なら分かるが、模擬戦で武器を強化?」

「変ですよね。エトが使っているのは、いつもの杖です」

「聖なる祝福を受けた杖だな。リーヒャやモンクたちが使うやつだ」

「そうそう、モンク隊。あの人たちから杖術を学んだんですよね、きっと」

「そうらしい。報告書を読んだ覚えがある」

「さすがアベル……」

アベルの記憶力に舌を巻く涼。

「模擬戦で武器を強化する意味って、まさか……」

「武器破壊か!」

アベルが答えた瞬間。

スコッティーの剣がエトの腹を貫いた。

「え……」

驚いたのはスコッティーだ。

杖で防がれると思ったのに……。

貫いたままの剣を、エトが左手で掴む。

<聖なる鎧>で強化された左手で。

逃がさないように。

完全に動きを止めた剣。

そこに杖が押し当てられる。

速さはない。

だが、触れているだけで剣にはダメージが与えられ……。

バキッ。

スコッティーの剣が折れた。

折れた瞬間、剣を手放し、腰に差していた短剣を抜き、スコッティーはエトを押し倒す。

馬乗りになって、エトの喉に短剣を突きつけた。

「……参りました」

剣を折ったが、エトは短剣を突きつけられ敗北を認めた。

それは、ニルスが四号君を倒したのとほとんど同時。

短剣を持つスコッティーに、ニルスが襲い掛かった。