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0808 二人の訪問

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0808 二人の訪問

涼がロビーに降りていくと、バンガンとアマーリアはソファーから立ち上がって、 直立不動 ( ちょくりつふどう ) となった。

「お待たせしました」

「いえ……公爵閣下には、お忙しいところ……」

「 堅苦 ( かたくる ) しいのは抜きにしましょう。お互い知らない仲ではありませんし」

バンガンの挨拶を 鷹揚 ( おうよう ) に遮る涼。

さっさと、二人の対面に座る。

「暗黒コーヒーと……そう、ショコラ系のケーキはありますか?」

「『今月のショコラ』で、『まるごとショコラ』というのがございます」

「なんと分かりやすい! それがチョコレートでできていれば、なんだって美味しい……そんな名言がありましたね。うん、では、それを」

涼は当然のようにコーヒーとケーキを注文する。

「お二人もどうですか?」

さらに二人にも 勧 ( すす ) める。

「あ……はい……ですが……」

「私も、まるごとショコラと暗黒コーヒーを」

「……。私はミルフィーユと暗黒コーヒーを」

光の速さで注文するアマーリア、何か言いたげな表情だが結局何も言わないまま、ミルフィーユを注文したバンガン。

その光景を満足そうに見て頷く涼。

世界平和の決め手の一つ、『美味しい食べ物』は準備できた。

これで和やかな雰囲気になるはずだ。

少なくとも、どんな話題であっても敵対的な空気にはならないだろう。

幸せな表情でケーキを食し、コーヒーを飲んでから、三人は会話に入った。

食べながらではなく、完全に幸せな気持ちになった後でというのがポイントだ。

「実は、本日訪問させていただきましたのは、ミトリロ塊の件です」

「ほぉ」

バンガンが切り出し、涼は一つ頷く。

涼も、二人が所属している共和国諜報特務庁が、名前通りに諜報関連の機関であることは知っている。

具体的に組織の構造や、どこまでの情報を掴んでいるのかは知らないが、共和国政府の他の機関よりは、涼たちの訪問の目的も知っているだろうとは思うのだ。

とはいえ、相手が持っている情報の範囲が分からないため、答え方はあいまいにする必要がある。

「それで?」

「あくまで噂レベルなのですが、公爵閣下がいらっしゃったのは、ミトリロ塊の買い付けのためだと聞いております」

「なるほど」

探りを入れるバンガン、肯定も否定もしない涼。

バンガンも分かっている。

涼が一方的に何か情報を与えてくれるとは思っていない。

交渉するには、手持ちの情報を使わねばならない。

「ここ数週間、共和国内で起きた事件が、ミトリロ塊を中心に考えると説明がつくことが判明いたしました」

「ふむ」

「先日、元首第三倉庫という場所が襲撃されたのですが、そこで保管していたのはただ一つ、ミトリロ塊だけでした。つまり、襲撃者はミトリロ塊を手に入れるのが目的だったわけです」

「なんと……」

さすがに涼の表情が揺れる。

当然だろう。

自分たち以外に、共和国が保有するミトリロ塊を狙っている者たちがいると聞かされたのだから。

しかもその人物たちは、強硬手段も 辞 ( じ ) さないと。

しかし、誰がそんなことを?

「ミトリロ鉱石にしろミトリロ塊にしろ、欲しがるのは政府のような組織だと聞きました。共和国に敵対する教会ですが、今回はそんなことはしないはずです。我が王アベル陛下が、グラハム教皇に話をつけていますので……。そうなると、誰が襲撃したのか……」

「そうなのです。教会ではない。実は別の事件の捜査から、この一連の騒動は教会によって引き起こされたものではないと結論付けられています」

涼の説明に、バンガンも同意する。

そして、少し時間を置いた後、バンガンは問うことにした。

「それで公爵閣下を訪問した理由は……ミトリロ塊の使用先をご教示いただけないかと思いまして……」

「使用先?」

「はい。何に使用するために買い付けされようとしているのかです。それが分かれば……今回の襲撃者たちが誰なのかの 目処 ( めど ) も立つのではないかと」

「ああ……言わんとするところは分かります。分かりますが……」

さすがの涼も悩む。

王国がミトリロ塊を欲するのは、錬金道具のためだ。

『 隠蔽 ( いんぺい ) のブレスレット』や『融合魔法のブローチ』……名前は涼が適当に付けたものだが、その量産化のために必要なのがミトリロ鉱石。

鉱石を精錬し純度を高めたミトリロ塊なら、さらによし。

それを手に入れるために涼は買い付けにきた。

だが、その情報を全て伝えるのは、さすがにまずいだろう。

もしかしたら、共和国政府関連の錬金術研究所辺りは、ブレスレットやブローチの量産化に必要であることを掴んでいるかもしれない。

だが、掴んでいないかもしれない。

諜報機関からこういう問いが出てくるということ自体、まだそこまで研究が進んおらず掴んでいない可能性は高いのだ。

涼の口からペラペラと言うのは……。

「申し訳ありません、国の 機密 ( きみつ ) に類するものなので詳しくは話せません」

「……そうですか」

「ただ、錬金術に関するもの……もしかしたら、諜報などに関するものに使われる、くらいでしょうか。私が言えるのは」

涼にとっては、そこが限界かなと思うのだ。

全く情報を渡さずに、次の襲撃を防げず、襲撃者たちにミトリロ塊を奪われたら困る。

かといって、全部の情報を渡すのも良くはない。

何事も大切なのはバランスである。

「いえ、助かりました。武器以外の使用用途があり、各国政府以外でも手に入れたがる組織があるのは確かであることが分かりましたし」

バンガンはそう言うと立ち上がって頭を下げた。

アマーリアも、急いでそれに倣った。

「先ほどの人たちは、この共和国の諜報特務庁の方々です」

二人が帰った後、涼は『十号室』の三人に情報を伝えた。

三人に護衛をしてもらう以上、知っておいてもらった方がいいと思うので。

「僕らが買い付けにきたミトリロ塊を保管していた倉庫が、襲撃されたそうです」

「なに! それで、ミトリロ塊は?」

「無事です。ただ、狙っている者たちがいるのが明らかになりました」

ニルスが驚き、涼が落ち着かせる。

「確かに、すごい錬金道具が出来上がるけど……国や政府はともかく、普通の人たちには必要ないものだよね」

「ホントですよね。隠蔽とか融合魔法ですよね? 誰が必要なのでしょう……冒険者とかでも、必要ないでしょう?」

「売っていても、とても冒険者に買える金額じゃないだろうしな。大金はたいてまで必要かと言われれば……そこまではないしな」

エトが推論を述べ、アモンが仮説を述べ、ニルスが否定する。

四人全員の頭に浮かぶ疑問。

いったい誰が、何のために?

「まあ、いいです。今回の僕らのお仕事は買い付けです、襲撃者の撃退でも壊滅でもありません。 粛々 ( しゅくしゅく ) とお仕事を進めていきましょう」

「そうだな」

涼がまとめ、ニルスが頷く。

「とりあえず、明日、元首公邸に挨拶に行きます。三人ともついてきてくださいね」