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0810 謝罪

水属性の魔法使い — ncode.syosetu.com · All chapters

0810 謝罪

ここは『ドージェ・ピエトロ』の涼が借りている部屋。

そこには一人の老人が招き入れられていた。

「バーリー卿、どうぞそちらにおかけください」

「失礼する」

八十歳になったバーリー卿だが、未だ眼光は鋭い。

長い白髪は後ろで 束 ( たば ) ねられ、知性を感じさせる 顔貌 ( がんぼう ) 、常に傍らにあるのは大きめの杖……。

「バーリー卿は、魔法使いなんですね」

涼は笑顔で、バーリー卿の杖を見ながら言う。

会話の取っ掛かりだ。

涼自身は杖を使わないが、中央諸国でも西方諸国でも、多くの魔法使いが自分の身長ほどの杖を持っているのは知っている。

「はい、土属性魔法を使います」

「おぉ!」

微笑みながら答えるバーリー卿、魔法使い仲間だと認識できて嬉しそうな涼。

属性は違っても、同じ魔法使いであるだけで勝手に親近感がわくのだ。

「公爵閣下も魔法使いだと聞いているのですが……」

「はい、水属性の魔法使いです」

「ですが、体から全く魔力が漏れておりません」

「そうなんですよ。昔、森で生活していた頃に鍛えました」

「鍛えた?」

「魔力が漏れていると、魔物に気付かれて狩りがしにくかったのです。ですので、漏れないように訓練を」

涼は笑顔で答える。

漏れないようになるまで、結構苦労して訓練したので、そこを指摘されるとちょっと嬉しいのだ。

(そんなことは不可能だと思うのだが……実際に見せられると、私が知っている魔法の常識は正しくないのかもしれないと思える)

バーリー卿は心の中で苦笑する。

バーリー卿は、一度深呼吸をした。

すっくと立ちあがり、深々と頭を下げた。

「どうされました?」

驚く涼。

「ロンド公爵閣下と、ナイトレイ王国に謝罪いたします。これはマファルダ共和国元首コルンバーノ・デッラ・ルッソの全権代理として、共和国最高顧問バーリー・アチェールビの正式な謝罪です」

「いったい、何があったのですか?」

「実は昨晩、元首第三倉庫が襲撃され、保管していたミトリロ塊が全て奪われました」

「なっ……」

さすがの涼も言葉を失う。

涼の後ろに立つ『十号室』の三人も驚き、チラチラと視線を交わす。

バーリー卿は三人の動きを感じ取る。

「公爵閣下の後ろに立つ方々は、西方教会に繋がりのある方々だと認識しております。そちらから情報が流れるのを理解した上で、お尋ねしたいことがございます」

謝罪した後、バーリー卿は正面から切り込む。

だが、涼は首を傾げる。

「教会と繋がり?」

もちろんバーリー卿が指摘した「後ろに立つ方々」というのは『十号室』の三人だ。

彼らは涼の元ルームメイトであって、特に教会との繋がりはないはずだが。

「誤解されているようですが、この三人は、私の元ルームメイトであり、時々パーティーを組むこともある者たちです。友であり戦友とも言える者たちですので、西方教会とはあまり関係ありません」

「ですが、教会から正式に 下賜 ( かし ) された聖剣をお持ちとか」

「ああ、それですか」

バーリー卿が誤解した理由に涼も気付く。

「一年前の教皇就任式……あの時、この二人は聖剣を振るって混乱を鎮める活躍をしたのです。それを評価して、グラハム教皇が下賜されただけです」

「そうだったのですか」

バーリー卿は頷いた。

「それで……尋ねたいこととは?」

「実は、倉庫を襲撃した者たちが、以前にも我が国の総合研究所を襲撃した者たちであることが判明しました」

「ほぉ」

「その際、奴らは 隠蔽 ( いんぺい ) 効果のあるブレスレットと融合魔法を可能にするブローチを奪っていきました」

「あれ? それって……」

「はい、公爵閣下から、かつてお譲りいただいたものです」

正直に話すバーリー卿。

真実を話すのが最も効果的。

「特務庁のバンガンらに、錬金道具のためにミトリロ塊を買い付けたいとおっしゃったそうですが、それはもしかして……」

「……ええ、隠蔽のブレスレットと融合魔法のブローチのためです」

バーリー卿の問いに、涼は素直に答えることにした。

それは、この後の展開を考えてでもある。

現状、奪われてしまい、行方知れずになったミトリロ塊を手に入れることはできないから。

涼はチラリと、後ろに立つニルスらを見る。

三人とも、すぐにその意味に気付き頷いた。

「バーリー卿、お願いしたいことがあります」

「はい?」

「すでに共和国政府も動いているでしょうが、ミトリロ塊の行方、我々にも探らせていただけないでしょうか」

「え……」

「我々四人、実は探索は得意なのです。このままでは取引が不成立となります。何もせず聖都に戻っては、我が王に顔向けできません」

涼が苦笑しながら言う。

「そういえばアベル王が聖都に滞在しているという報告を受けております」

「ええ、ええ。このまま手ぶらで帰りたくはないのですよ」

「承知いたしました。元はと言えば、こちらの 不手際 ( ふてぎわ ) 。政府発行の特別滞在証と、捜査協力証をお渡しします。それを掲示いただければ、政府施設のほとんどに入ることができるようになりますので」

「ありがとうございます」

こうして、最高顧問バーリー卿は戻っていった。

四人は椅子に掛け、とりあえずケーキとコーヒーを取り寄せてから、会議に入った。

「襲撃したのが誰にせよ、錬金術に秀でた組織なのは確かです」

「隠蔽のブレスレットとかに、ミトリロ鉱石が必要って分かったわけだからね」

涼の言葉に、エトが同意する。

奪われてしまったとはいえ、共和国はそこまで分析できなかったのだから。

西方諸国の中でも、錬金術に秀でていると言われる共和国がだ。

「 対峙 ( たいじ ) すると、 厄介 ( やっかい ) ってことですよね」

「でも彼らが奪ったミトリロ塊を持っているというのなら、奪い返さないといけないよね。奪い返す時には戦う必要も出てくるでしょう?」

「世界平和のなんと難しいことか」

「うん、リョウ、絶対このタイミングで言うセリフじゃないぞ」

アモンが頷き、エトが覚悟し、涼が世界の無情を嘆き、ニルスが指摘する。

「その隠密のブレスレットとかって、どれくらい気付かないものなの? バーリー卿の話だと、守備隊の人はすぐ後ろにつかれても気付かなかったみたいだけど」

エトが問う。

「そうですね~、確かに目では見えませんね。音は……どうだったか覚えていませんけど」

「リョウは気付けたの?」

「ええ、僕にはソナーの魔法がありましたから」

「探知系の魔法なら気付くのか」

エトが頷く。

しかし、涼は補足する必要を感じた。

「正確には、魔法の反応も消し去ります」

「え、そうなの?」

「はい、反応を拡散して、空気中に 希釈 ( きしゃく ) するというか……。結果的に反応が返ってこないので、誰もいないと思っちゃうんです」

「でも、リョウは気付けたんだよね?」

「僕のソナーの魔法だと、『そこだけぽっかり穴が空いている』感じになるんです。『何もない部分が、そこにある』って感じなので、ものすごく不自然です。なので結果的に、そこには魔法の反応を消し去る何かがあると分かる……」

「なるほど」

涼のふわっとした説明だが、エトは理解できたようだ。

ちなみにニルスとアモンは分かっていない。

魔法の使えない二人なので、まあいいかと涼は思う。

そして、気付いたことがあった。

偉い人に報告をしていなかったのだ。

「今回の件、仕方ないのでアベルに報告します」

「陛下を失望させてしまうかもしれんな」

顔をしかめながら言う涼に、同じ様に顔をしかめて頷くニルス。

さすがにこれほどの事態、報告しないわけにはいかない。

「上司への失敗の報告はいつの世でも 憂鬱 ( ゆううつ ) なものです」

「確かに……」

涼の 愚痴 ( ぐち ) にエトが苦笑する。

中央神殿にいた頃に、エトもそんな経験があるのかもしれない。

((アベル、僕のせいではありません))

((リョウか? 突然どうした?))

責任逃れの言葉から入る涼、少し驚くアベル。

今日も『魂の響』の感度は良好だ。

涼は起きたことと置かれた状況を正直に報告した。

((なるほど))

アベルはそう言ったきり、黙る。

しばらく待っても何も言わないので、涼が口火を切る。

((アベル、ニルスたちのせいではありません))

((うん? 当たり前だろう?))

((いちおう、アベルが王として誤った判断をしないように、僕が釘を刺しました))

((意味が分からん))

アベルはため息をついた後、言葉を続ける。

((それで、襲撃者の目星はついているのか?))

((いいえ、まったく))

(( 清々 ( すがすが ) しいほどはっきり言うな))

((仕方ありません、それが事実です))

とりあえず涼は、共和国政府とは別に探ってみるとアベルに告げて、『魂の響』を切った。

「仮説を立ててみましょう」

「うん?」

「襲撃者の本拠地が共和国内になかったとしたら、どうするでしょうか?」

「そりゃ当然、国外にミトリロ塊を運び出すだろう?」

涼の問いに、ニルスが答える。

「ですよね。では、どうやって運び出すでしょうか」

「普通なら馬車に積んでとかだけど……大量だよね?」

エトが考え込む。

「どれくらいの大きさなんだろうな?」

「ニルスの体重が百キロと仮定した場合、ニルス十人分です」

「けっこうでかいな」

涼の答えにニルスも考え込む。

実際のところは、ニルスよりも密度が大きいだろうから、ニルス十人分ほどは大きくないだろうが……それでも簡単に運べる量ではないだろう。

千キロとは一トンだ。

人が背負える重さでも、二、三人で運べる重さでもない……。

普通の馬車では、壊れる可能性があるのではないかと思う。

「共和国の国境って、けっこう厳しかったよね」

「ええ。奪われたのが発覚したので、当然今まで以上に国外に出る馬車とか厳重に調べるでしょう」

「となると、国外に運び出すのは馬車以外」

「やっぱり、船ですかね」

エトと涼は一つの結論を出す。

マファルダ共和国は海洋国家であり、海運国家だ。

そしてある程度の船であれば、千キロ程度の荷物は簡単に運べる。

見つからないようにすることも簡単かもしれない。

「ちょっと今から行きましょう」

「捜査協力証とかいうのは、まだもらっていないぞ?」

「ええ、それは共和国政府関連の場所で協力してもらうのに必要でしょうけど、今から行こうとしているのは民間です。商会です」

「商会?」

「フランツォーニ海運商会に行きます」

ニルスの 怪訝 ( けげん ) な表情に、涼は旧知の商会の名を答えた。