0811 襲撃者の正体
0811 襲撃者の正体
「フランツォーニ海運商会は、僕らが乗ってきたスキーズブラズニルを造船した商会で、共和国でも一、二を争う海運商会の一つです」
商会に向かう馬車の中で、涼が説明している。
「商会長のジローラモ・フランツォーニさんは、特務庁のボニファーチョ・フランツォーニさんの弟さんだそうです」
「なるほど。じゃあ、その辺りからも、今回の情報が伝わっているかもしれないんですね」
「可能性はあるかもね」
涼が関係性を述べ、アモンが頷き、エトも頷く。
「だがリョウ、そんなすごい商会の人間が、いきなり訪れて会ってくれるか?」
「ふふふ、ニルス、僕はこう見えても王国筆頭公爵ですよ。スキーズブラズニルを買い付けたのも僕なのですから、いわば大口顧客です。大口顧客を粗略に扱う商会なんて、この世には存在しないのです」
訪れた買い付け一行は、涼のもくろみ通り、すぐに商会長室に案内された。
「ようこそおいでくださいました、公爵閣下」
「ジローラモ会長、突然訪問して申し訳ありません」
大口顧客涼ともなると、アポなし訪問でも商会長室に通されるらしい。
時候の挨拶や、スキーズブラズニル号の近況を話した後、今回の訪問の目的となった。
「実は、ミトリロ塊の買い付けに伺ったのです」
「なるほど」
隠すことなく、大上段から切り込む涼。それを笑顔で頷き流すジローラモ。
その反応から、ジローラモは知っていたようだ。
「ただ、お聞き及びかもしれませんが、そのミトリロ塊が昨晩、強奪されました」
「はい、そのような情報が届いております」
「実は先ほど、共和国最高顧問バーリー卿の訪問を受けまして、その中で捜査に協力する許可をいただきました。正式な書類はまだ手元にありませんが……」
「ふむ」
「その一環で、いろいろ考えたのですが、もし共和国外に運び出すのであれば、船ではないかと」
「あり得ますね」
涼たちの推測を、一つ頷いて肯定するジローラモ。
「もちろん、フランツォーニ海運商会の船が利用されることはないと思うのですが、海洋国家である共和国には多くの船があります……」
「確かに、その手の悪事の手伝いをする者たちも少なからずおりますね」
「その辺りの情報が入ってきたら、こちらにも回していただければ嬉しいなと思いまして。あ、もちろん、特務庁や共和国政府に通報した後で構いません。我々は、彼らと思いを同じくしておりますので」
「そういうことでしたら、承知いたしました」
涼の提案は、あっさりとジローラモに受け入れられた。
「我が商会には、共和国内の全ての港から情報が入ってきます」
「え? 全ての港? それっていくつくらい……」
「漁港を含めて千七百二十九港です」
「なんと 膨大 ( ぼうだい ) な……」
さすがに驚く涼。
涼の後ろに立っている『十号室』の三人が驚いているのも分かる。
「公爵閣下が宿泊されているのは『ドージェ・ピエトロ』ですね。情報が入りましたらお伝えいたします」
フランツォーニ海運商会から帰る馬車の中。
「泊まっている宿も知っていたな」
「ええ、ええ。さすがですよね。優秀な商人であればあるほど、情報の重要性を知っています。いえ、ほとんど本能として 取捨選択 ( しゅしゃせんたく ) しているというべきかもしれません」
ニルスの言葉に、涼は頷く。
「情報の重要性に気付かなかったばかりに、巨大な商会が傾くなどというのは、よくある話です」
涼は商人ではなく冒険者だ。
だが、地球にいた頃は、見習い副社長として経営にも携わっていた。
その頃に見てきた自分の会社、周りの会社、地域、取引先などなど。
目に入る全ては、自分の血肉となった……多分。
そんな経験全てが、今の涼を形作っている。
「とりあえず、打てる手は打ちました」
「そうだな」
「ドージェ・ピエトロに戻ったら、ケーキを食べましょう」
「……は?」
「やるべきことをやったら、ケーキを食べて待つ。これこそが、成功率を上げる正しい行動だと僕は信じています」
「俺には信じられんのだが?」
涼は力強く断言するが、ニルスは同意してくれない。
仕方がないのだ。
自分の考えと、他の人の考えが違ったからといって心乱したりはしない。
「そんなニルスはケーキ抜きですね!」
「おい、待てよ!」
「ニルスもケーキを食べたいですか?」
「……食べたい」
「そうそう、素直が一番です」
ニルスが顔をしかめて頷き、涼は重々しく頷く。
自分の心を乱すことなく、相手の心を引き寄せればいいのだ……多分。
翌日、朝食を食べ終えた涼たちの元に、受付のお姉さんがやってきた。
「ロンド公爵様、フランツォーニ海運商会からお手紙を届けにきた方がいらっしゃいました」
「ありがとう」
涼は受け取ると、さっそく中に目を通す。
「首都北にあるテルモリ港で不審な動きあり、特務庁には連絡済みだそうです」
涼の言葉に色めき立つ『十号室』の三人。
涼は手紙を持ってきた受付のお姉さんに告げる。
「テルモリ港というところに行きたいので、御者付きの馬車を一台お願いします」
こうして、一行はテルモリ港に向かった。
テルモリ港は……。
「封鎖されています」
「 紐 ( ひも ) が張られているね」
「あの中には入るな、ってことですよね」
「参ったな」
馬車から降りた涼が呟き、エトが確認し、アモンが推測し、ニルスが嘆息する。
現代地球の犯罪現場における規制線のような紐が張られ、守備隊のような人たちが間隔を置いて立ち、やじ馬がそれ以上中に入ってこないようにしているのだ。
「仕方ありません。ここは伝統的な方法をとります」
「何だろう、嫌な予感しかしないんだが」
「ニルスの単騎特攻で、意識を逸らすのです!」
「ああ、そんなことだろうと思ったぜ! やらないからな!」
涼が宣言し、ニルスが拒否する。
これが、お約束である。
涼は小さく首を振って、もっと現実的な方法を見つける。
規制線の前まで行って、中に向かって大きく手を振ったのだ。
「局長さん!」
そう、奥に特務庁のボニファーチョ局長を見つけたので。
涼の声に反応したボニファーチョによって、一行は無事に規制線の向こうに入ることができた。
進んでいった桟橋の付近は、かなり酷い状態……。
「死体が……どれだけあるんだ、これ」
「三十人以上は……」
「守備隊みたいな人たち以外に、五人くらい? 黒っぽい服の人たちもいるね」
ニルスもアモンもエトも、その惨状に驚くほど。
三人ともB級冒険者として、かなりの 修羅場 ( しゅらば ) をくぐってきた。
そんな三人から見ても、かなり 凄惨 ( せいさん ) な部類の現場だと言える。
「どうして公爵閣下がこんな場所に?」
「ああ……ちょっと情報が入ってきまして」
少しだけごまかす涼。
「ジローラモ……」
ボニファーチョが呟いたのは、ただそれだけだ。
もちろんそれは、弟でありフランツォーニ海運商会の商会長ジローラモのことであろう。
「それで……ミトリロ塊は?」
涼は一番気になっていることを問う。
「今回あったのは五百キロ分です」
「半分ですか」
ボニファーチョの答えに、涼は頷く。
だが半分取り戻せただけでも万々歳だと思っている。
最悪でも、それを買い付けて戻れば、一定の成果は出るから。
涼とボニファーチョが話している間、後ろからついてきていた『十号室』の三人は、近くに転がる死体をいくつか見ていた。
黒服を着ている者たちの胸には、大きめのタトゥーがあるようだ。
「頭が二つある……鳥?」
「それを剣が貫いているね」
「珍しいタトゥーですよね」
ニルスとエトが説明し、アモンも知らないようだ。
三人とも分からないらしく、首を傾げている。
しかし、三人の声が聞こえた人物が反応した。
「今、なんと?」
涼だ。
ボニファーチョ局長と話していたために、タトゥーはまだ見ていないのだが、気になる言葉が聞こえた気がした。
三人の方に、早足で近付いてきて、死体を覗き込んだ。
その胸には、剣で貫かれた双頭の 鷲 ( わし ) のタトゥーが!
「すいません、このタトゥーって、他の死体にもありますか!?」
涼は周りにいる特務庁の人間たちに、大きめの声で問いかける。
真っ先にその声に反応したのは、ボニファーチョ。
「はい、連中の胸全員にあります。それが、連中の身元を特定する有力な手掛かりになるだろうとは思っているのですが……もしやロンド公爵は、何を意味するかご存じで?」
「ええ、知っています」
涼は顔をしかめる。
正直知りたくなかった。
涼は、彼らの創設者の錬金術を引き継いだ……つまり、彼らの錬金術のレベルが高いことを知っている。
創設者から託されたのは、三冊の黒いノートだった。
「彼らは、暗殺教団です」
本日(2025年4月10日)情報が解禁されました。
『水属性の魔法使い 第三部 東方諸国編Ⅱ』 2025年6月20日発売!
書籍特設サイトからの予約も始まりました。
http://www.tobooks.jp/mizuzokusei/index.html