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0885 涼の夢、叶う(前編)

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0885 涼の夢、叶う(前編)

二夜連続投稿 第一夜

暗黒大陸北岸沿いを西に向かうスキーズブラズニル号。

その甲板上では、新たな必殺技が生まれていた。

何やら筆頭公爵が、国王に文句をスルーされたようだ。

「出ましたね! アベルの必殺技、『剣王技・何も聞こえない』」

「なんだ、剣王って」

「あれ? アベル、以前言ってませんでしたっけ。王をやっていたって言ったら、剣王だとでも言うのか、ふざけるなって怒られたって」

「そういえば」

アベルも思い出したのか、頷く。

そんなアベルを見て、涼が首を振る。

「アベルは、都合の悪い記憶を、自分で 意図的 ( いとてき ) に消すことができるのですね。それは普通の人間にはできません。これで確定しました。アベルは人間ではないと」

「人間でないならなんだ」

「魔神」

「なんだそれは」

「悪魔と魔人の神です」

「そうか、そいつは大変だな」

涼がビシッと右手を伸ばして指摘するのだが、アベルは肩をすくめるだけだ。

「なんで大変なんです?」

「悪魔たちの神なんだろう? だったら、悪魔たちがリョウを殺そうとするのを、いつも止めてないといかんだろう? 大変じゃないか」

「確かに! アベル、アベルの役割はとても大切なものです、よろしくお願いしますね!」

「……俺は魔神じゃなくて、人間だからな」

アベルは小さく首を振るのだった。

そんな平和だったスキーズブラズニル号の甲板だが、ある報告から一気に 不穏 ( ふおん ) なものへと変わる。

「前方、島の影から船が出てきました!」

「斜め前方からもです!」

「我々の進路を 塞 ( ふさ ) ぐつもりです!」

「全ての船が同じ旗を掲げています……黒一色の旗です」

そんな報告を受けて、パウリーナ船長がアベルの元へ来た。

「陛下、恐らくは 海賊 ( かいぞく ) だと思われます」

「海賊?」

「黒一色の旗を掲げる『黒の旅団』。暗黒大陸北岸を縄張りとする、有名な海賊です」

パウリーナ船長が報告する。

「知り合いに『白の旅団』がいるが、船団なのに旅団を名乗るんだな」

変なことに感心するアベル。

「『白の旅団』と比べたら、フェルプスさんが可哀そうです」

涼が主張する。

ルンのB級冒険者フェルプス・A・ハインラインが率いるパーティーが『白の旅団』である。

そんな 殊勝 ( しゅしょう ) なことを言っている涼だが、アベルは気付く。

いや、誰でも気づくだろう。

涼が、とっても嬉しそうなことに。

だが、いちおう襲撃されそうなのは大変なことなので、喜びを必死に抑え込もうとしているが……。

「リョウ、嬉しそうなのは隠しきれてないぞ。諦めろ」

「なんてことを言うのですか! 海賊に襲撃されるのは大変なんですよ?」

「正直な気持ちだと、どうなんだ? 何て言いたいんだ?」

アベルがさらに言う。

涼は少し 逡巡 ( しゅんじゅん ) しつつも……。

「ホントに、言っちゃっていいです?」

「ああ、俺が許す。言え」

アベルが許可する。

「アベル、ついにやりました! 海賊船に襲撃されました!」

とても嬉しそうな涼。まさに、天にも昇りそうな様子だ。

「まあ、そうだろうな」

アベルとしては、涼が嬉しそうにしていたので想定の範囲内だ。

ただ、疑問はある。

「何で海賊船に襲われて嬉しそうなんだ?」

そう、そこは素朴な疑問だ。

「決まっています。海賊に襲われて、それを返り討ちにして、彼らがためていたお宝をがっぽりいただくのが王道展開だからです!」

「出たな、王道展開……」

嬉しそうな涼が、嬉しそうに説明する。アベルは、何度も頷く。

「アベル、船長さん、僕ちょっと試してみたいことがありまして」

涼がアベルとパウリーナ船長に提案する。

「何をしたいんだ?」

「出でよ、ニール・アンダーセン」

涼が唱えると、スキーズブラズニル号の隣にニール・アンダーセン号が生成される。

さらに、いつの間にか涼のすぐ後ろに来ていた突撃探検家三号君に対して……。

「GO、三号君!」

涼が言うと、三号君は海に飛び込んだ。

さらにさらに。

「 召喚 ( しょうかん ) 、おらおらリフト!」

VRゴーグルのような物が、涼の掌に生じた。

「それって、三号君が見た景色を……」

「ええ、そうです。ちゃんと、アベルにも見えるように映像に映し出しますから、待っててください」

涼はそう言うとおらおらリフトを被り、唱える。

「同期画面展開!」

そう唱えると、テレビで言うところの百サイズほどの画面が、空中に生成され、三号君が見ている映像が映し出された。

「いいよな、これ」

アベルは嬉しそうに頷く。

暗黒大陸でも経験したが、アベルは好きらしい。

三号君がニール・アンダーセン号に乗り込んだ。

その三号君の視界が映し出されている。

涼は、『おらおらリフト』と同じ映像が画面に展開されているのを確認すると、これからの流れを説明する。

「三号君に、ニール・アンダーセン号を操縦してもらうのです」

「三号君に、動かせるのか?」

「大丈夫です。難しい操縦はしません。ちょっと海に潜って移動して、魚雷を撃つだけです」

涼は自信をもって宣言する。

「時代は無人機です! 自律型ゴーレムが操作する無人潜水艦が、王国を守ります。これさえあれば、帝国なんて怖くありませんよ!」

「リョウ……王国と帝国の間に海はないぞ」

「あ……」

アベルの冷静な指摘に、絶句する涼。

誰にでもミスはある。

「陛下?」

「ああ、船長。リョウのことは気にしなくていい。スキーズブラズニルはいつも通り、近づいてくる海賊船を沈めてくれ。リョウは海中から支援してくれるらしい」

「承知いたしました」

パウリーナ船長は一つ頷くと、指示を出しに行った。

「リョウ、スキーズブラズニル号の邪魔だけはするなよ」

「当然です。では、スキーズブラズニルに先行します」

涼はそう言うと、おらおらリフトを操作し始めた。

いつの間にか、手には剣道の小手のようなものを両手にはめている。

それで、三号君を操作する。

そして三号君が、ニール・アンダーセン号を操縦するのだ。

「いずれは僕が操作しなくとも、 御庭番 ( おにわばん ) が自分で考えてニール・アンダーセン号をはじめとしたロンド級潜水艦を動かせるようになるでしょう」

「……そうか」

嬉しそうに言う涼、小さく首を振るアベル。

アベルの脳裏には、一瞬、御庭番たちに操縦された氷の潜水艦群が向かってくる映像が再生された。

「まあ、リョウのオニワバンだから味方だろう」

涼とアベルは、スキーズブラズニル号の乗組員らの邪魔になりにくい船尾で、操作と映像を見ている。

三号君の目を通しての海中は……。

「やっぱり綺麗だな」

アベルが呟く。

だが、そこに筆頭公爵の苦言が。

「アベル、何をのんきなことを言っているのですか。僕らがいるここは戦場ですよ!」

「全くその通りなんだが、リョウの頬は 緩 ( ゆる ) んでいるぞ」

「そんなバカな!」

「 潜望鏡 ( せんぼうきょう ) 、伸ばせ」

涼が口で命令を出す。

ニール・アンダーセン号から海上に潜望鏡が伸びる。

同時に、ニール・アンダーセンの天井から、スキーのゴーグルのようなものが三号君の顔の前に降りてくる。

氷の反射を利用した潜望鏡。

水属性の魔法使いの 面目躍如 ( めんもくやくじょ ) である。

潜望鏡を通して、三号君が海上の状況を見る。

もちろん、涼のおらおらリフトと、同期画面にもその光景が映し出された。

しかし、それはアベルは初めてのもの。

「何だ、それは?」

「海上がどうなっているか見ているのです。普段、僕らが乗り込んでいる時は、<パッシブソナー>を使って状況を確認するので必要ないですが、三号君はソナーの魔法は使えませんので」

「元々、そのセンボウキョウとかいうのは備え付けていたのか」

「ええ、ええ。これあってこその潜水艦です」

涼が嬉しそうに頷く。

普段は利用しないのだが、この辺りは涼のこだわりなのだ。

実際、こうして役に立っているし。

「前部砲門1番、2番開放。マーク256魚雷 装填 ( そうてん ) 」

涼が口に出しながら操作している。

もちろん小手内の操作だけでよいのだが、やはり気分を盛り上げることも大切だと思うので。

「射程に入りましたね! 1番、2番発射!」

海中のニール・アンダーセン号から、二本の魚雷が前方に向かって発射された。

魚雷は氷製で透明なので、海上からは認識できない。

<ウォータージェットスラスタ>による推進なので、気泡なども出ない。

当然、海賊船側からは全く分からない。

しばらくすると、最前列にいた海賊船の船首部分から二か所の水しぶきが上がった。

そこに大穴が空き、船が沈み始めるのが見える。

「やりました!」

「すげーな、おい」

涼が喜びの声を上げ、アベルが素直に称賛する。

「魚雷二本で確実に沈められることが分かりましたからね。行きます、これからが本番です。ニール・アンダーセン、マーク256魚雷三十二本、前部砲門開放。発射!」

ニール・アンダーセン号から魚雷が発射され、扇のように広がっていく。

すぐに涼艦長の指示が飛ぶ。

「最大戦速で突撃! 同時に、垂直発射管1番から32番まで魚雷装填」

最高速で突っ込みながら、次の攻撃のための準備も進める。

ニール・アンダーセン号は海面下十メートルほどの深さを一気に進み、海賊船集団の真下へ。

「垂直発射管開放」

そう言うと、操縦席の後ろの方、普段なら荷物や空気が積んである場所の上部が開く。

そこには、先ほど前方から放ったマーク256魚雷が海面に向けて装填されている。

「垂直発射管、魚雷発射!」

ニール・アンダーセン号は海賊船群の下を走り抜けながら、次々に海面に向けて魚雷を発射していく。

海面までわずか十メートルの距離。

発射と激突は、数秒の時差しかない。

ドゴン、ドゴン、ドゴン……。

連続する破壊音。

船底に大穴を開けられ、海賊船がさらに沈められる。

海賊船群の向こう側まで走り抜けたニール・アンダーセン号はUターンをする。

「あと……三隻?」

「リョウ、一番でかい船、あれだけは沈めるな」

「ああ、親玉が乗っているだろうから、その人と交渉します?」

「まあ、引き出せる情報があればだがな。沈めないで足止めはできるか?」

「可能ですよ。アベル王の 勅命 ( ちょくめい ) 、しかと 承 ( うけたまわ ) りました」

涼が優雅に一礼する。

誰にも見えないが、ニール・アンダーセン号の中でも三号君が同じように一礼した……。

「ニール・アンダーセン号停船」

停船し、きちんと狙いをつける。

「前部砲門1番から5番、垂直発射管1番から32番まで、マーク256魚雷装填、砲門開放」

狙いをつけつつ、放つ準備。

「行きます! 発射!」

前部砲門から放たれた魚雷四発が、沈めていいと言われた船に二発ずつ当てて沈める。

さらに一発だけ、これまで以上に慎重に狙いを定めた魚雷が、ボス船と思われる船の船尾に突き刺さる。

それは破裂せず、舵を正確に貫いた。

これでボス船は方向転換できない。

そして極めつけは、垂直発射管から放たれた32本の魚雷だ。

それは海面を突き破り、空へ。

魚雷だが空を飛んでいる……ウォータージェットスラスタで。

空から緩やかな弧を描いて、ボス船の帆を破り、マストを折る。

ボス船は、完全に動けなくなったのだった。

明日は「0886 涼の夢、叶う(後編)」を投稿します。