0887 西部諸国連邦再寄航
0887 西部諸国連邦再寄航
スキーズブラズニル号は西に進んでいる。
その後ろからは、突撃探検家三号君が操縦する氷の潜水艦ニール・アンダーセン号が、海面に浮上した状態でついてきている。
さらにその後ろには、氷漬けになった数百人と、氷漬けになった一体のゴーレムが。
ニール・アンダーセン号が、氷のチェーンで引っ張っているのは、海賊たちと、マファルダ共和国のゴーレム・シビリアンである。
その光景をスキーズブラズニル号の船尾から見て、満足そうに 頷 ( うなず ) く一人の水属性の魔法使い。
「三号君は、いい仕事をしています」
「確かに、ニール・アンダーセンを操縦して、自分でついてくるってのは凄いよな」
いつもはお 小言 ( こごと ) が多い国王陛下も、三号君の仕事ぶりは認めてくれている……と涼は思っている。
実際には国王アベルは、別に小言は多くないのだが……。
「アベルには、お小言が多い国王だというイメージを被ってもらいます!」
「なんでだよ」
筆頭公爵でもある水属性の魔法使い涼の策略が展開し、お小言国王アベルが不満を表明する。
「アベルが英雄過ぎるからです」
「意味が分からん」
アベルは、一部では英雄王とも呼ばれている。
「お小言が多いというイメージがつけば、一般のナイトレイ王国民が、アベルに 親近感 ( しんきんかん ) を抱いてくれるに違いありません」
「……そうか?」
涼の説明に、 胡乱 ( うろん ) げな視線を向けるアベル。
「元A級冒険者で、若くして国王になったアベルは、英雄王などと呼ばれているじゃないですか」
「俺が望んだわけじゃないがな」
「そんな英雄王にも、ダメダメな部分がある。器の小さな時もあるんだと感じれば、国民も親近感を持ってくれるに違いありません」
「器って、小さくなる時があるのか?」
「もちろんです。常に変わらないものなんて、この世の中に存在しません。人の器も同じです。時に大きくなり、時に小さくなる、そういうものです」
断言する涼。
なぜか、とても自信満々だ。
「国王に、あんまり良くないイメージがつくのは、民にとっては嫌じゃないか?」
「ええ、ええ。分かります」
アベルの懸念に、涼が頷く。
「でも、そもそもアベルは出来すぎ王なのです」
「何だ、出来すぎ王って」
「ハイスペック王様と言ってもいいでしょう」
「もっと意味が分からん」
アベルが首を振る。
「アベルって、何でもできるじゃないですか」
「何でも?」
「剣は強いし、冒険者はA級まで上がったし、頭も悪くなくて正義の心も持っています」
「お、おう」
称賛されて、ちょっと照れるアベル。
この辺りは、時間が経っても変わらない。
「でもそこで、『小言も多い』となれば、一気に庶民的な印象がつきます」
「あ、うん」
「そのギャップが狙いです!」
涼が右手人差し指を伸ばしてアベルを指さす。
「……」
当然、アベルは無言だ。
「アベル王のイメージ戦略に関しては 腹案 ( ふくあん ) がありますから、任せてください」
「なぜだろう、とても不安だ」
涼が右拳で自分の胸を叩いて任せてとアピールしているが、アベルは顔をしかめている。
「とりあえず、今は、それはダメだ」
「え?」
「これから西部諸国連邦の首都タギュンザを訪れるが、そこで王国に対して変なイメージを持たれたら困る」
「それは……当然です」
「王国へのイメージは、俺を通して形作られる」
「確かに、そういう側面はあるかもしれません」
アベルが一つ一つ論理立てて言い、涼も渋々ながらそれを受け入れる。
「『小言の多い国王』というのは、絶対に良いイメージをもってもらえん」
「それは、まあ……」
「そんな国王が治めるナイトレイ王国との親交が、西部諸国連邦にとって有益だろうか……そんな疑問を連邦の民に持たれるのは避けた方がいいんじゃないかと、俺は思うんだが?」
「……否定はしません」
涼ですら反論できない。
「それなら、『お小言国王』は王国に戻ってからにしましょう」
「まあ……それならいいだろう」
涼の提案に、アベルが頷く。
問題の先送り。
よくあることである。
なぜ、そんなことが行われるのか?
時間が解決してくれることがあるからだ。
つまり、『忘れる』という解決法である。
特に民衆向けに有効な方法であるが、『思いつき』に対しても有効だったりする。
特に、一人の人間の思いつきだ。
はたして涼は、時間が経つことに抵抗し、忘れないでいられるだろうか……。
その後、アベル王が「クックック」と悪い笑みを浮かべたという記録は、残っていない……。
数日後、涼とアベルを乗せたスキーズブラズニル号は、西部諸国連邦の首都タギュンザ沖に到達した。
今回の来訪は、東部諸国から連絡が行っている。
スキーズブラズニル号が新たな東部諸国首長、ゾルンの親書を運んでいるからだ。
「ゾルンさんの親書は大胆な内容でした」
「ああ、そうだったな」
涼が思い出し、アベルも同意する。
「あれ、ラムン・フェスさんも驚くんじゃないですかね」
「そうかもしれん」
涼とアベルがそんな会話を進めている間に、スキーズブラズニル号はタギュンザ港に入港した。
隣には、突撃探検家三号君が操縦するニール・アンダーセン号が浮上した状態で接岸している。
それは、引っ張ってきた海賊たちを引き渡すためだ。
数百人もの海賊たちは全員すぐに陸に上げられ、兵士たちに引っ張っていかれた。
ただ、氷漬けになった一体のゴーレムだけは海中に没した状態で入港している。
入港後も、海中にある。
「シビリアンはそもそも鋼鉄製ですので、薄い氷に包めば沈みます」
「お、おう」
「アベルがなんと言おうと、彼はマファルダ共和国に返してあげます。残念ながら、ナイトレイ王国が自分のものにしようとしても、僕が許しません」
「うん、そんなつもりは全然なかったぞ」
涼が仁王立ちになって拒絶の意思表示をするが、アベルはそんなつもりはなかったために首を振る。
そして船を降りたアベルと涼は、タギュンザの宮廷へと足を踏み入れた。
「アベル王陛下、ロンド公爵閣下、ようこそおいでくださいました」
そう言って二人を笑顔で迎えたのは、西部諸国連邦元首ラムン・フェスだ。
かつてラムン・フェスは、強制的に長い眠りにつかされていたのだが、涼の手術によって、起きることができた。
つまり命を救ったようなもの。
そのことに、ラムン・フェスはとても感謝しているため、二人とその背後にあるナイトレイ王国に悪い印象は抱いていない。
「どうぞ、こちらへ」
そう言って二人が導かれたのは外交交渉で使われる会議室。
ラムン・フェスはあくまで連邦の元首であるため、国王による謁見、みたいなイベントはない。
横長のテーブルがあり、右側にラムン・フェスを中心とした西部諸国連邦の外交団が座り、左側にナイトレイ王国外交団が座る……今回は涼とアベルだけだ。
挨拶の後、ラムン・フェスから口火を切った。
「陛下が、東部諸国元首ゾルン殿からの親書を携えていらっしゃると聞きました」
外交ルートで、東部諸国から伝わっているのだ。
「ああ、その通りだ」
アベルがそう言うと、懐から親書を出す。
涼が受け取り、西部諸国連邦の人間に渡し、それがラムン・フェスの元に届く。
開いて、一読後。
「これは……」
さすがのラムン・フェスも言葉を失う。
当然だろう。
書いてある内容が衝撃的だ。
主に二つの内容が書かれてある。
『お互いの首都で、毎年交互に首脳会議』
いわゆるシャトル外交だ。
こちらはいいだろう。
問題は、もう一つの方。
『ゾルンを弟、ラムン・フェスを兄として義兄弟の 契 ( ちぎ ) りを提案』
ゾルンが自らラムン・フェスの下につく……そういう意味を持つ。
ラムン・フェスが読んだ後、外交団のメンバーに親書が渡され、回し読みのようになる。
「これは……」
「本当ですか?」
親書が移動するたびに、そんな言葉が生み出されていく。
一通り親書が回ったのを見計らって、アベルが口を開いた。
「元首による親書だ。しかも、ナイトレイ王国国王が運んだ親書。その価値と意味は説明するまでもないな」
アベルの口から紡がれる、王としての言葉。
「もちろんです、陛下」
答えるのは当然ラムン・フェス。
国主が発した言葉に、国主以外が許可も得ずに答えるのは、ある種の 不作法 ( ぶさほう ) 。
この場にいる全員が、それは理解している。
アベルが、さらに言葉を紡ぐ。
「本来なら、大臣らを集めて会議を開いたうえで対処を決めるのだろうが……今回の親書に関して、それが必要だろうか」
「……そう、そうですね。義兄弟の契りというのは、私とゾルン殿の間の個人的なものです。それを大臣たちに諮る必要はないでしょう」
アベルの問いかけに、ラムン・フェスは頷く。
それを驚きの表情で見る西部諸国連邦外交団。
だがすぐに視線を元に戻す。
彼らも理解できるのだ。
これほどまでにゾルン首長が 下手 ( したて ) に出てきた意味を。
そして、それは千載一遇の好機……暗黒大陸全域に平和が訪れる好機。
もちろん、前首長が引き起こした西部諸国連邦への侵攻に関して、賠償を求める声があるのは事実だ。
その賠償責任を、新首長であるゾルンに求めるべきなのも理解できる。
だが政治とは、それも多国間の政治とは、法や理屈通りにはいかないもの。
ましてや、大衆感情通りにいくことなどありえない。
それはここにいる人間たち全員が知っている、ある種の常識。
「互いの首都での、毎年の首脳会議に関しては大臣らに知らせますが、これに反対する者はおりますまい。義兄弟に関しては、私個人とゾルン殿個人の話ですので、他の大臣に諮る必要はありません。お受けいたします」
即断即決。
ラムン・フェスは大国を率いてきたカリスマ的元首。
だからこそ、『早く決断する意味』を理解している。
それも、間を取り持ってくれる第三国の国主の前なれば余計にだ。
「そうか! その返事を聞いて安心した」
破顔一笑 ( はがんいっしょう ) のアベル。
隣で笑顔のまま何度も頷く涼。
こうしてナイトレイ王国一行は、暗黒大陸に訪れるであろう平和に、大きく寄与したのであった。
本日2026年10月15日
・「水属性の魔法使い 第三部 東方諸国編 Ⅷ」発売!
・TOブックス新レーベル「LEVIN」創設発表!
「水属性の魔法使い 第三部 東方諸国編 Ⅷ」発売は、もう言うまでもありませんね。
ついに第三部完結です!
戦いばかりの最終巻ですが、仕方ありません。
話の流れでそうなってしまいました。
「なろう版」では、全く活躍しなかった「三色」が、「書籍版」では頑張りました。
ぜひ、読んでやってください。
きっと、「第五部 浮遊大陸編」では、もっと活躍……する、かな?
それから、本書を発行しているTOブックスさんが、2027年1月15日に新レーベルLEVINを創刊します。
その発表が、本日2026年10月15日にありました。
SNS: https://x.com/levin_tobooks
HP: https://levin.tobooks.jp/
「轟け王道! 真っ向勝負な物語!」
うちの子のためのような標語……
もちろん「水属性の魔法使い」も、主要作品の一つに入っています。
右上と左上、目立つところに涼がいますよね!
きっと、いろんな本屋さんやネット上での宣伝で目立つでしょう。
楽しみですね!