LNCrawler

キスの意味

死に戻り聖女は兄の願いを叶えたい〜気づいていないけど無償の愛に包まれています〜 — novelba.com · All chapters

キスの意味

ロンはレオンが変身したアグネスの身体のサイズを慎重に測り、紙に書いていく。

「なあ、ロン。アグネスの身体は細過ぎるだろう」

「左様でございますね。腕などすぐに折れてしまいそうで痛々しいとしか言いようがございません」

「そうだよな。俺はアグネスがこんなになるまで気づいてやることができなかった」

アグネスお嬢様の姿をしているが、レオンが落ち込んでいるのがロンには手に取るようにわかる。

「まだ、いまからでも十分に間に合いますよ。これからのアグネスお嬢様の幸せを考えていきましょう」

そして、ロンがアグネスの採寸している間にレオンが手短に話したことは信じがたいことばかりで、アグネスの採寸に集中できない内容ばかりだった。

烏滸がましくも自分の息子や娘のように思い、自分が仕える大事な主たちが、この先の未来で暗殺されるなど想像すらしたくない、腹立たしい内容ばかりだ。

しかし、ロンの目の前で起こっていることは事実であり、実際にレオンがアグネスの姿になり、そして自分が採寸しているのだから信じるしかない。

そして、アグネスのドレスに必要な採寸が終わると、レオンはアグネスの姿から銀の指輪を外すだけで再び簡単にレオンに戻った。

それにしても未来から死に戻ったというレオンの雰囲気を見れば、1週間でガラリと変わったことは明らかだ。

一体、未来でなにを見てきたのだろうか。ロンはまだレオンがすべてを話していないことを薄々感じていた。

「レオン様のこともアグネスお嬢様のこともわかりました。アグネスお嬢様も死に戻っておられて、いまはノア様に守られておられるとお聞きし、少し安心しました。私は急ぎアグネス様の願いを叶えるために、学園に行ってまいります。その帰りに仕立て屋に寄って参ります。アグネスお嬢様のドレス等はとりあえず10着ぐらいでよろしいですか?」

レオンが満足げに頷いた。

「時間はないからそれで頼む。小物類も揃えておきたいから商会にも声をかけておいてくれ。いつ、アグネスが戻ってきてもなに不自由ないようにしておいてやりたい」

「承知しました」

ロンが急ぎ退室しようとすると、言い忘れがあったのかレオンに呼び止められた。

「ロンが出ている間に屋敷と領地の権利関係の書類等を整えておく。もし俺になにかあったら、セレーネに託してくれ」

「えっ?」

ロンはなぜ?と聞き返そうとしたが、なにかを決意しているレオンにその問いは愚問だと悟った。

「承知しました」

そのまま部屋を後にした。

セレーネは浴室を借りた後は、レオンの部屋で待つようにラチェット家の侍女に言われて、レオンが執務室から戻るのを待っていた。

いつの間にか窓の外はすっかり陽が落ちて、真っ暗だ。

執事のロンが外出をしていたのか、ラチェット家の馬車から飛び降りるように降り、急ぎ足で屋敷に戻ってきたのが見えた。

セレーネは窓に映る自分の姿を眺め、自分で筋肉質で硬い身体を抱きしめた。

(いまからレオンに抱かれる。ずっとそう望んでいたのに悲しいのはなぜなのだろう。憧れていた結婚初夜じゃないからか?それともわたしを抱くのが未来のレオンだからか?)

優しいノックがあって、レオンが部屋に戻ってきた。

「セレーネ、待たせて悪かった」

レオンも水浴びをしたのか髪の毛がまだ少し濡れたままだった。

「わたしは大丈夫だ。それよりもレオンは今までなにをしていたのだ?」

ふたりでレオンの部屋にあるソファに同時に座った。

「アグネスとノアが学園に編入できるように明日、学園を訪ねる約束を取り付けていた。あと、アグネスのドレスを10着ほど作ることにした」

アグネスの願いは普通の女の子として生活をすることだ。レオンは確実にアグネスの願いをひとつずつ叶えていっている。

「ノアも学園に行くのか?ノアは2度目になるぞ」

セレーネが真顔でレオンに聞き返す。

「騎士コースに行ったのは「ノア」。次は「ランドルフ・ノア・ネーデルラント」として、アグネスと少しの間でも学園生活を楽しんで欲しいんだ」

「ノアのその名前を出しても良いのか?その名前の男は死んだことになっているんだぞ」

「俺は未来を知っている。必ず変えるよ」

レオンの表情は真剣で、瞳は真っすぐに前を見据えていた。レオンのそんな表情を見たら嫌な予感しかしない。

いまは明るい未来のことだけを考えようと、セレーネは頭の中で可愛いアグネスが学園の制服を着て、その隣で照れ不貞腐れているノアを想像すると笑みがこぼれた。

「セレーネ」

レオンに不意に抱き寄せられて、顔が近いと思ったその時、唇をレオンに奪われた。

「…ん、んん」

2.3度、唇と唇が触れ合うだけの優しいキスをする。

レオンの瞳と見つめ合うと、あとはお互い思いが溢れて止まれず、より深いキスになった。レオンとキスをするのはこれが初めてではない。

そのまま、お互いの魂に触れ合うような深いキスを何度も何度も交わす。

レオンがようやく名残惜しそうに唇を離してくれたが、そのままセレーネは押し倒された。

「…レオン。未来でなにを見てきたんだ。なにを知っている?」

セレーネはレオンの耳元で静かにささやいた。