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討伐へ

死に戻り聖女は兄の願いを叶えたい〜気づいていないけど無償の愛に包まれています〜 — novelba.com · All chapters

討伐へ

翌朝、夜が明けぬうちに先遣隊が出発した。

魔獣が大量発生した地に一足先に出発する仲間たちに敬意を払って、多くの仲間たちが見送りに立ち会った。

ノアもレオンの姿に戻ったアグネスも彼らの無事を願い、送り出す。

その中には、朝練でレオン姿のアグネスに話しかけてきた赤毛の彼もいた。武勲を上げるために志願したと人伝に聞いた。アグネスは「俺も負けらねぇ」と走り去って行った彼を思い出しながら、無事を祈らずにはいられなかった。

昨夜のノアとアグネスは、あれからすぐにそれぞれのベットで眠りにつこうとしたがふたりとも眠ることは出来ず、アグネスは机に向かい、レオンに宛てた日記のような手紙をしたためた。

昨日のこと、今日のこと。これからのこと。そして、自分の願いは叶ったこと。

傍でノアも見守ってくれていた。

ふたりは慌ただしく朝食を摂ると、すぐに準備に追われて、あっという間にノアとレオンが所属する本隊の出発の時間となった。

アグネスはもうこの騎士団の寮の部屋には戻って来れない予感はしているので、ベットのシーツは皺ひとつないように伸ばし、お兄様の衣服も綺麗に畳んだ。

魔獣の大量発生は死に戻る前にもあった。

祈ることだけを求められて、被害の状況等詳しいことは教えてもらえなかったが、多くの騎士や民が犠牲になったに違いない。

きっと今回の討伐も、死に戻る前の討伐のように厳しい討伐になるだろう。

今回は祈るだけではなくて、自分が出来る限りのことを魔法を使ってでも尽くそうとアグネスは心に決めている。

そしてきっと討伐途中で女神様と約束した1週間が来る。ノアを残して死の世界に旅立たなければならないことは十分にわかっている。

自分にはあと4日しか時間がないのに、ノアに自分の気持ちを伝えてしまったことはノアに対して無責任だと思っている。

でもあの時、伝えずにはいられなかった。

少しでもノアが生まれてきて良かったと思って欲しかった。

そして、ノアは強い人だ。

きっとこれからもどんな困難も乗り越えて、困難を力に変えて前を向ける人だと信じている。

身内から命を狙われ続けても、いまも生きているこそがその証だ。

だから、ノアを残して消えることにいまはもうなにの憂いもない。

昨夜、ノアと想いが通じ合って、お兄様の願いである「アグネスの幸せ」も叶ったと感じている。

これできっとお兄様は生き返ることができる。

恋をし、相手と想い合える幸せがこんなにも満ち足りた幸せな感情で、この世の中にこんな感情があったのかと初めて知った。

いまもノアと目が合うと、自然に笑みがこぼれ、胸が高鳴り切なくなる。すぐに傍に駆け寄り、ノアに触れたくなる。彼の視界にずっと映りたいと、独占したいとそんな感情もはじめて知った。

幸せと苦しいが同居する世界。

これがきっとお兄様が叶えたかった「アグネスの幸せ」だ。

お兄様、わたしも普通の女の子のように恋をしましたよ。愛しい人と過ごせる時間はあと僅かの切ない恋だけど。

お兄様に直接報告できたらどんなに良かったか。

でもきっとお兄様のことだから、お兄様ご自身が生き返ったときに「アグネスの願いが叶った」と言葉がなくてもわかってくださると信じている。

お兄様が生き返ることは確実なのだから。

「アグネスの幸せ」に一区切りついたいま、これで魔獣討伐に全力で挑める。挑む覚悟ができた。

ガタゴトと揺れる荷台に大勢の騎士仲間とともにノアとアグネスは乗せられて、王都近郊の魔獣が待つ地へと向かう。レオンの姿になっているアグネスの横には自然な形でノアがいる。

ノアとレオンが親友であり、いままで常に一緒に行動していたことが功を奏している。

どの騎士たちも恐怖で逃げ出したくなる気持ちを奮い立たせるようにわざと賑やかに明るく努め、荷台は明るい話題で皆で盛り上がる。

そして、王都近郊の片田舎に着いた。

森の手前で本部の設営を手際よく進め、野営の準備も進める。

そして、今か今かと先遣隊の帰りを待つが一向に本部に戻ってくる気配がない。

誰もなにも言わないが不安な時間だけが過ぎる。

ノアもレオンの姿をしたアグネスも緊張だけが高まる。

「誰か、先遣隊の行方を探しに行ってくれる者はいないか?」

上官によって集められ、捜索に出る者を募ってきた。だが、誰も上官と目が合わないように俯くばかりだ。

ノアとアグネスは視線を交わすとお互い頷き合った。

「「私が行きます」」

ノアとレオンの姿をしたアグネスが手を挙げた。

「私達ふたりで行かせてください」

レオンがそう付け加えた。

「わかった。ふたりとも頼むぞ」

レオンとノアのふたりで捜索に行くことを認められて、周りの者が安堵したのが分かった。誰もが危険な任務になることは察しがついていたのだろう。

「レオンもノアもありがとうな。生きて帰ってきてくれ」

たくさんの仲間に肩を軽く叩かれ、何度もお礼を言われ、ふたりは見送られた。

仲間の捜索のため、森の奥深くに続く踏み跡を確認しながら慎重に歩みを進める。

「アグネス、この役目を買って出たのには訳があるんだろう」

「ノアもですよね」

無言で歩いていたふたりだったが陣営からもだいぶ離れ、誰もいないことを確認するとようやくふたりは会話を交わした。

「わたしはわたしが出来ることを尽くそうと思います。わたしは魔法が使えますので、いまは祈るよりもその力を使いたいのです」

「そうだと思った。先日の霧を発生させた魔法みたいなことが出来るのだろう?」

「あれは水魔法の応用です」

レオン姿のアグネスが得意げに微笑んだ。

「でも、魔法を使うのにはアグネスの姿に戻らなければならないのではないのか?」

ノアは一番気がかりだったことを口にした。

「そうなんです。アグネスに戻らないとこの力は使えない。だからノア、協力してもらえますか?」

「もちろん。そのつもりで手を挙げた。俺はどうすれば、アグネスの役に立てる?」

その時だった。少し近くで草が擦れる音がする。

「アグネス、俺の後ろに」

「ノア、わたしが指輪を外して、呪文を詠唱して力を使い、指輪を嵌めるまで10秒。10秒だけ、わたしを守ってください!」

「10秒とは言わずに、ずっとこの身が亡びるまで俺はアグネスを守り続ける」

群れからはぐれたのか1頭の魔獣だったが、ノアは剣をすぐに抜き、魔獣に向かって駆けて行くとあっという間に倒した。

「ノアにかかれば、魔獣も瞬殺ですね」

「これぐらい倒せないと騎士は務まらない」

「お兄様もですか?」

レオン姿のアグネスが不思議そうに聞く。

「いまのレオンの中身はアグネスだと分かっているけど、面と向かって本当のことを言うのは照るな。レオンは強い。俺とレオンはお互い背中を預けられる仲だ」

そんな会話していたふたりは同時に少し遠くでなにかの気配を感じ取った。

「あっちだな」

「そうですね。あちらの方角でなにかありますね」

踏み跡を確認しながらふたりで駆けていくと、足音が聞こえてきた。

「アグネス、来るぞ」

ノアは剣を構えながら、その足音を待つ。

ガサガサと草をかき分ける音と共に、先遣隊が現れた。

「レオン!ノア!」

それは赤毛の彼だった。他に3人がいる。

「なにがあったんだ?」

「魔獣に追われている!」