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竜よ、竜よ! 其の一

シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 — ncode.syosetu.com · All chapters

竜よ、竜よ! 其の一

自重しないとマジでやばい、あと自分にここまで下ネタの知識があることに若干ダメージ

ディープスローター、もといナッツクラッカーがサービス終了のその時までゲームを続けた理由の一つに、奴自身が驚くほど強かったからというものがある。

シルヴィア・ゴールドバーグや竜宮院 富嶽のような戦闘力的な意味ではなく、例えるなら……そう、攻略難易度的な意味でだ。

まず奴が扱う下ネタ魔法。スペクリにおける必須級魔法や上位ティアに位置する魔法を軒並みAVタイトルとあらすじで染めやがったこいつは、魔法発動速度で他の追随を許さなかった。

そりゃ公衆の面前でAVのタイトルとあらすじ朗読出来る度胸を持ってる奴はそうはいまい。いたとしてもそいつらは皆、奴の陣営を選んだ。

強魔法を誰よりも速く行使できる、のアドバンテージが一体どれほどのものかは言うまでもあるまい。

だがこれはそう大した問題ではない。

奴の本当の脅威……それは 声帯変更 ( ボイスチェンジ ) を始めとした、あまりにも異質な模倣技能にある。

奴の前で十分動きを見せれば「見様見真似」で動きを完全に読み取られる。

奴の前で十日も戦ってみろ、思考すら読み切って「役割模倣」される。

チートと疑われる事数知れず、だが運営が奴をBANする理由は決まって「不適切な単語の連続使用による迷惑行為」であり……つまり奴はチート行為を一切行っていないという証明を、皮肉にもゲーム運営が証明していた。

あまりにも強いボスキャラの前ではモチベーションは枯れて萎える。その果てはゲームの終焉に他ならず、実際スペクリはそうしてサービスを終了したのだ。

「殺し合いから始まる友情、というのも乙なもんじゃのう……ふぇふぇふぇ、サンラクくんにゃあこの姿は馴染み深いんじゃあないかえ……?」

「チッ……「 小杖二丁流 ( ダブルワンド ) 」か」

そりゃそうだ、何せそのスタイルはスペクリ時代の俺そのまんまなのだから。くそッ、なんの当てつけだ? ご丁寧に装備品まで若干似せてやがる。

「っちょ、おいおいおい待て待て! マジでやり合うつもりか!? 落ち着けよ、特にサンラク! ここで万が一死んだら最後にセーブした拠点に戻っちまうんだぞ!?」

「…………命拾いしたなディープスローター」

「えぇ〜? ゥチのことぉ、もぉっと気軽に「ディプスロちゃん」って呼んでもいいょ? ……おっほぅ、その目ヤバイね妾の内なるマゾが 愛 ( め ) で撫でられてる気分ぞよ……鯨みたいに潮吹いちゃいそう。あ、マグロじゃないぞえ?」

こいつを今キルしても天は許してくれるだろうか、いやダメだろうなぁ……こいつ驚くべき事にカルマ値でネームを赤く染めてない。つまりPKではないからキルした場合俺が「悪」になる。

「……で、マジでなんなんだよ。フレ登録ならしてやるからさっさと帰れよもう」

「んー、ここまで拒絶されると流石にちょっとメンタルにヒビが入りそうだ……でもねぇ、本当に我輩は君と仲良くしたいだけなんだぜ?」

「悪いけどキャラ絞ってくんない? まだるっこしい人は好きじゃないんだ」

「仕方ないにゃあ……」

はぁー、ホンマこいつ天から落ちてきた隕石とかでデータデリートしてくれないかな……

あんまりにもあんまりなバカヤローとの再会は、ただでさえフェアカスそっくりなアーフィリアとの邂逅で削れた正気度をさらにゴリゴリ削ってきたが、いつまでも引きずるのも女々しい。

それにスペクリの衰退に関しちゃ悪乗りした俺達にだって 責任 ( 罪 ) はある。こいつ一人を悪者だなんだと主張するのは女々しいを超えてみっともない。

「さっさとフレ申請飛ばせよもう……」

「いいねぇ、ようやく私を受け入れてくれるんだねサンラクくぅん……」

『ディープスローターさんからフレンド申請が来ました。

「シャンフロのハラスメント対策的に全てのキャラは童貞であり処女なのでは? あたしも君もさくらんぼ!」』

つい反射的に拒否してしまった。

「……殴るぞ?」

「バッチコー……あっ待って思ってたよりガチな殴殺武器だ許してつかぁさい!」

ここで 超過機構 ( エクシードチャージ ) を切っても許されるよな?

トットリをパーティリーダーにしたのはマジで失敗だったかもしれない。

めでたくパーティ入りと相成ったディープスローターのニマニマ笑いにため息を漏らしつつ、萎んだモチベーションをなんとか膨らませて気分を切り替える。

「まぁいい……セーブ前に戻る事は出来ない。踏んづけた地雷もオートセーブされたらなんとかしなきゃならないのがゲームの世知辛さであり風情だ」

「地雷と 地雷 ( わたし ) をかけたの? 上手いねぇ」

くっそ……ちょっとしたネタもちゃんと拾ってくれるのが若干悔しい。しかも皮肉が通用しない無敵モードだ、すごく悔しい。

「トットリくん、確かエルフを拠点まで連れて行くユニークの真っ只中だったよねぇ? なのにここにいるって事は……ハハァーン、レベルキャップ解放の欲望には抗えなかったんだなぁ?」

「えぇ、まぁ……はい」

「トットリ、そこは「うるさいゲロ豚」くらい言っていいぞ……喜ぶから」

「いや流石にそれはダメだろ、普通に罵倒だし」

「おいおいサンラクくんはSMセットとご一緒に吐瀉属性までお付けして調教するつもりかい? いいね……菊が薔薇になるまでくらいならズッポシしても良かったけど上のお口が期間限定おすすめメニューなのかなぁ!?」

…………

「さ、サンラクサンがかつてないほどに萎れてるですわ!?」

「人は覆面越しでもここまで感情表現できるのか……」

だれか、ぼくをはげまして。

「サンラク様、事情は存じませんがどうかお気を確かに……」

お前かぁ……つーか普通に善意100%な台詞で裏を疑うのは流石にこっちがフィルター剥ぎ取った方がいい案件か。

「んー、流石にこれ以上続けると本気でキレそうだしぃ……ほらほら、君らがわざわざ寄り道した理由を済ませないとねぇ」

全くもってその通りだ、こいつに手間取ってるだけ時間の無駄だろう。そう心を強く保って俺たちはこのなんとかプレートの中心部へ……

次の瞬間、目の前に何か人間大サイズの物体が落ちてきた。

「…………」

「…………」

「…………あー、私の子じゃないよ?」

ハナからそんなこと考えてねぇよ、つーか何をどうやったらプレイヤーが ティラノの頭 ( ・・・・・・ ) を出産できるんだよ。

一瞬あの傷だらけの個体かと思ったが、ダメージエフェクト付き以外の損傷は見られないので一般個体なのだろう。

「なぁ、この森にいる三つ首ティラノって頭を分離できる能力を持ってると思うか?」

「流石にそんな生物をデザインはしないだろ……」

「グロ対策のダメージエフェクトが邪魔でよく分かんないけど、千切れかけの首を遠心力で思いっきり吹っ飛ばしたらこんな感じに千切れそうだねぇ……」

ぴくぴくと痙攣する首ティラノの眼球を見るに、千切れてから……というか「生きていた頃」からあまり時間が経っていないようにも見える。

そして三つ首ティラノに首を分離発射する能力がない以上、ティラノ本体が自切したとも考えづらい。

つまり……これをやった奴がいる。それも遠心力で首を千切り飛ばすことで届くような距離に。

「……まさかお前の仕業じゃないだろうな」

「モンスタートレイン? それむしろサンラクくんの 十八番 ( オハコ ) でしょお……? スペクリの時だって……」

「思い出語りは後だ、トットリ………、…………このバカもパーティメンバーに加えてくれ」

「どんだけ葛藤してるんだよ……分かった」

遺憾でしかないが、少なくとも最上位職にまで到達してるなら肉壁以上の働きは出来るだろう。

異様な亡骸が天から降ってきたことで、この場にいる全員に緊張が走る。頭に乗せたエムルの身体が震え始め、俺は誰に言われるでもなく 傑剣への憧刃 ( デュクスラム ) を取り出して戦闘態勢に入る。

「陛下、殿下……場合により、 形 ( なり ) も振りも捨てて逃げていただく可能性がございます」

「い、一体何が起きたというのだ……!?」

「もしもの際は、森人族の者達を従えてお逃げを」

「サンラク様は、如何なさるおつもりなのですか!?」

そりゃおめぇ、こんなシチュエーションで居残りのナイトがやる事なんて一つしかないだろう?

「サンラクくぅん、何かクるねぇ、キちゃうねぇ……!」

「うるさい構えろ脳内どピンク! トットリお前は森人族を連れて離だ……」

「Quwrrrrrrrrrooooooo!!!」

それはなんと形容するべきか、電話の着信音とかパトカーのサイレンだとか、そう言ったものを何百倍にも不愉快にしたものというか……ああ、音の種類は全く異なるのに、どこかで聞いた覚えのあるような……

「お客様は徒歩でのご来店のようだねぇ……ご指名は誰かなぁ?」

「ぱっちりお目目がチャームポイントのティラノちゃん(生首)の熱心な追っかけなんだろう」

「……あっちだ!」

揺れが近づけば震源がどこかも分かり易くなるというもの、トットリが指し示した方を見ればそこには外敵の侵攻を阻むイバラがあり蔦があり……

そして何か、悍ましいまでに 赤い ( ・・ ) 何かが猛烈な勢いで蔦のネットへと突撃を仕掛け……そして、信じられないくらいあっさりと蔦の束縛をぶち抜いて森人族の里へと堂々と潜り込んできた。

それはまるで血のように赤い。

カラーリングが赤一色、という手抜きとしか思えないそれはおおよそ知性を感じさせない、それこそ死んだ魚の目のような眼差しはどこに向けているかも定かではない。

それはまるで肉のように赤い。

骨が見えている、臓物が今にも零れ落ちそうになっている。そもそも陸上生活に全く適していなさそうな鰭のような前脚はズタボロで、だがそれを無理矢理地上を歩く為に酷使する姿は生物としての基本すらも踏みにじっているようで。

それは、それは……

「Qillllllliiiiiiiiiiiiiiiii!!!」

手当たり次第に何もかもを貪った、あまりにも悪趣味なキメラのようで。

俺の声と、 世界 ( システム ) からのや通知はほぼ同時に響き渡った。

「全員散開!!」

『モンスター 急襲 ( レイド ) !』

『討伐対象: 貪 ( むさぼ ) る 大赤依 ( だいせきい ) 』

『レイドバトルが開始されます』

『参加人数:3/45』

実は非常に分かりづらいけど貪る大赤依が主人公たちの前に現れた伏線はちゃんと張ってあったりします

蔦「拘束力に定評があります」

貪る大赤依「粘液ごとムシャムシャア!」