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龍よ、龍よ! 其の三十二

シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 — ncode.syosetu.com · All chapters

龍よ、龍よ! 其の三十二

手が滑ったなら仕方ない

◇

『ちとそこらに転がっておれ』

ノワルリンドへの宣告は、驚く程にあっさりとしたものだった。

『なん……ごぐっ!?』

ノワルリンドの首をジークヴルムの手が掴み、人間程度ならば容易く握り潰せてしまうだろう握力を以って持ち上げる。

黄金の全身からその口腔の奥に収束する莫大なエネルギーの気配にノワルリンドは逃れようともがくも、その巨体が拘束から逃げるよりも早く……

『我が炎滅に叫べ……「 灼滅威吹 ( ブレス・オブ・ベイン ) 」!!』

───閃光。

最早叫びすらなく、赤熱した黄金とでも言うべき朱色のブレスを胸部に直撃させたノワルリンドの巨体がいとも容易く吹き飛ぶ。

「ノワルリンドさん!!!!」

秋津茜が悲鳴にも似た叫びを上げる。プレイヤーの何人かを巻き込んで吹き飛んだ先、力なく身体を横たえ呻くノワルリンドへと全速の走りで駆けつけた秋津茜はその胸部から溢れ出す尋常ならざる量のダメージエフェクトに思わず喉を詰まらせる。

「だ、あ、大丈夫ですか!?」

『く……ぎ、ぐぉぁ……』

返事はなく、ただ呻く声だけが半開きの口から漏れる。致命傷ではない、もしその傷が死に至る程のものであればゲームのシステム上、その身は既に砕け散っているはずなのだから。であればノワルリンドのHPはまだ尽きてはいない。

だがそれでも、満身創痍であることは明らかで、そんなノワルリンドの姿にプレイヤー達の中から声が出始める。

───チャンスなのでは?

───奴はクリア条件の内の一体だ

───今なら倒せる

───ノワルリンドを倒せ

まずい、と秋津茜の思考が警鐘を鳴らす。秋津茜とてノワルリンドが不特定多数に恨みを買っていることくらいは知っている、そんなノワルリンドが今最大の隙を晒している。

「ま、待って……あの、えと、あの……」

言葉が出てこない。ペンシルゴンであれば不特定多数をうまく言いくるめるだけの口八丁、サンラクであればその場のテンションだけで不特定多数に喧嘩を売る啖呵、それらのようなこの場を乗り切るだけの力ある言葉を秋津茜は口にする事が出来ない。

「ノ、ノワルリンドさん………」

その時だった。

「悪いなプレイヤー諸君、イベントシーンだ」

「聖女様の御前だ、武器を下ろせ!!」

───黄金と、純白が、漆黒を庇うようにプレイヤー達とノワルリンド、そして秋津茜を隔てて立ち塞がった。

「お前らがノワルリンドを倒したい気持ちは分かるが、まぁこっちもコイツを生かしてやりたい事がある……PvPみたいなもんだ、理解できなくても納得してくれ」

私服の上からプロテクターを付けただけのようにも見える、なんとも緊張感に欠ける防具。それとは真逆の荘厳さを持つ 外套 ( マント ) 。奇妙な「棒」を構えているのもさる事ながら、何よりも目を惹く異形の鉄仮面。

頭全体を覆うフルフェイスではなく、ガスマスクのようにも拘束具のようにも見える不気味な仮面。八つの目を模したデザインは人間が装備する仮面でありながらまるでそれが人の皮を被った怪物の素顔のようにすら思える。

「聖女様の為す悉くを妨げるモノを弾く、それが我ら聖盾輝士団の務め……今この場において、何人たりともノワルリンドに手を出すことは出来ぬと知れ」

そして、もう一人の片割れもまた堂々たる佇まいでノワルリンドを庇うように立つ。

純白にして堅牢、清廉にして強固。三柱の神を信仰する教会においてただ一人の聖女を守る最強の盾にして、一切の恥じらいも妥協も見せないロールプレイを行うゲーム内でも数人しかいないレコードホルダーの一人。

人呼んで「ガチ勢」ジョゼットが、もう一人の 鉄仮面 ( サンラク ) と並び立ってプレイヤー達の前に立ち塞がる。

「サンラク、さん……」

「おいおい、へたれてる時間はないぞ秋津茜。ここからが本番なんだぜ? そこの黒いの含めてキリキリ働いてもらわねーと」

「えと、あの、でも……」

「───少々、宜しいですか?」

「え? ふぁ、はいっ!」

突如として投げかけられた声、ノワルリンドの側でへたり込んでいた秋津茜が見上げれば、そこにはいつからいたのか一人の少女が穏やかな笑みを浮かべて立っていた。

「申し訳ありません、かの方へ少々問いたい事があるのです……」

「え、えと、ノワルリンドさんに……ですか? どうぞ……」

なぜか逆らう気が起きない、逆らってはいけないとまで思ってしまう不思議な雰囲気の少女の笑みに気圧されるように秋津茜は脇へと退く。

そして聖女イリステラの登場は周囲のプレイヤーをも止めてしまったかのようで、戦場の一角に驚く程の静寂が広がる。

「黒竜ノワルリンド、天覇のジークヴルムに 憧れ ( ・・ ) 、その手を伸ばす者……お聞きしても、宜しいでしょうか?」

『が、ぐご………』

「いいえ、言葉は必要ありません。ただ、心のままに……それで私には通じますから」

竜の目が聖女を睨みつける。しかしてイリステラは揺らがず、ともすれば無感情にも見える程の穏やかさを以ってたった一つの問いを投げた。

「──────?」

『……………』

その問いを聞く事ができたのは、すぐ隣にいた秋津茜だけだった。

ともすれば怒りのままに振るわれた黒竜の爪に斬り裂かれてもおかしくはないその問いに、しかしノワルリンドは沈黙と瞑目という形で返答し……慈愛の聖女と呼ばれる少女はただ、笑みを浮かべた。

「そうですか。それを聞いて、私も決心がつきました……」

ぴと、とノワルリンドにイリステラの手が触れる。そして、触れれば消えてしまいそうな雰囲気など最初からなかったかのような確固たる意志を瞳に浮かべたイリステラが口を開く。

「どうか、どうか、今一度立ち上がって。傷つき倒れたその身体に、再びの力を……【 事実改変 ( オモウガママニ ) 】」

イリステラの手が柔らかな白に輝く。まるで種から萌芽し成長する過程を早送りにしたかのような光の奔流がノワルリンドの全身を包み込み、光収まったその場には一仕事終えたかのように息をつくイリステラと、先ほどまでのダメージなど初めから存在しなかったかのような万全の姿で立ち上がるノワルリンド。

『お、オォォォ……!!』

「貴方の真意、確かに聞き届けました……どうかご武運を」

『グ……フン、元よりそのつもりだ。我はジークヴルムを倒す、そしてこのノワルリンドこそが真なる竜王たることを証明する……!!』

「ノワルリンドさん! えと、あの、お元気になったんですか!?」

『なにを突っ立っている秋津茜。貴様、このノワルリンドと共にジークヴルムを討つのであれば、斯様な無様を晒すでないぞ!』

「え、は、はいっ!」

その時だった。少し離れた場所で戦っていたプレイヤー達から驚きを帯びたどよめきが上がり、直後ノワルリンド達のすぐ近くに大質量が降り立った。

『……ほう? 貴様…………いいや、今を生きるならば多くは問わぬ。だが……我が前に立つと?』

「偉大なる黄金の龍王、人を愛するが故に世界を焼く者……こんな私とて、唯人として立つ事は出来ますもの」

『……そうか。今宵は良き日だ、我が幾星霜の悉くが満たされていく……』

ならば、とジークヴルムの目が真っ直ぐにただ一人の人間を、その背後にいる黒竜を睨みつける。

『我が「 B.o.B ( ブレス・オブ・ベイン ) 」の前に立つならば、その悉くは滅び去ると知れ!!』

数分前、ノワルリンドの胸を穿った滅びの一撃が再び放たれる。直撃を受けた黒竜の身体が強張り、周りにいたプレイヤー達が被害を恐れ逃げ離れる中……イリステラは笑う。

これまでのどこか浮世離れした笑みではない、年相応の少女が浮かべるようないたずらな笑みを浮かべて、イリステラは歌うように「悲鳴」を上げる。

「私、死んでしまうかもしれないわ……?」

「いいえ聖女様、この私がいる限り……如何なる滅びとて貴女を傷つけることは叶わない」

イリステラを狙う破滅の息吹、その射線上に立つ一人の聖輝士。その在り様はまさしく 守護神像 ( パラディオン ) のようで。

「ジークヴルム、お前に「 最大防御 ( ディフェンスホルダー ) 」たる所以を見せてやろう」

騎士系聖騎士派生最上位職業「 聖輝士 ( パラディオン ) 」

シャングリラ・フロンティアにおいて最大の防御力を保有するプレイヤー、ジョゼットは滅びの息吹を前に不敵な笑みを浮かべ……右手を突き出した。

「───我が血潮は熱く燃える」

【悲報】作者、聖女ちゃんの設定を我慢できずついにゲロる