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インフレの風はいつだって速い

シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 — ncode.syosetu.com · All chapters

インフレの風はいつだって速い

古戦場から生きて……帰れる……?

兵は拙速を尊ぶ、そして俺も今速度を必要としている。なので両足がかろうじて乗る程度の板にタイヤを二つくっつけただけの奇妙な乗り物……所謂バランススクーターに乗ってパニック広まるケイオースシティを爆走していた。

……いやしゃーないじゃん、ティンクルピクシーの体格じゃバイクに乗れないしそもそもバイクを譲ってくれる親切な人(俺認識)がいないし……地味にプレイヤーが乗る前提のデザインなのかミーティアスクラスの機動力持ちを除けば地味に走るより速いんだよこれ。

「くそ……予定変更だ、速攻で奇襲をかけねば」

だが厄介なことになった、確率的に半々だからもしやと都合よく想定していたが乱数の女神はやはり邪神の類であったらしい。

「これ以上着替えさせるかよ……っ!」

GH:Cが発売され、ある程度経った事で殆どのキャラに定石と言うべき戦法が生まれた。その中でもカースドプリズンは大きく分けて二つのタイプに分かれる。

一つは「一張羅型」、カスプリは多彩な形態変化を可能としているが何もそれら全てを網羅する必要はない。バイク型、車型、ヘリ型……自分が最も得意とするフォルムを最短で纏って戦うタイプだ。これはシティ内にありふれているもの程、序盤の瞬発力と継戦力が上がるので中々に侮れない。そもそもこっちは「脱獄」メインのスタイルなのでゲージを溜めるまでの繋ぎとしての面が大きい。

ちなみに野良レートで遭遇した中で一番珍しかったのはPC重点で纏ってディスプレイに対抗するカウンターハックフォーム。

「奴に着替えさせる時間は与えられねぇ……」

そしてもう一つが「着せ替え型」、取り込む対象がもたらす性能を把握し、いつ如何なる場所どんな道具でも纏って使いこなす。本来ディスアドバンテージである呪いの鎧を最大限に活用するカースドプリズン特化スタイル。

この手合いの厄介なところはバトルスタイルがめちゃくちゃ多彩である事と……装備を 着替える ( ・・・・ ) 事でバトルスタイルを切り替えるだけではなく装備の耐久も回復してしまう点だ。

そして奴はアメリア・サリヴァン、全米二位のプレイヤーに予習不足を期待するのも馬鹿馬鹿しい。

なので今回採用するティンクル・クォーター・コンバット略してTQCは超急戦スタイルで行こうと思う。

TQC、古くはティンクルピクシーの研究を進めるうちに自然に生まれたという妖精神拳の流れを汲むこのバトルスタイルは、クロース・クォーター・コンバット……所謂CQCのパクリネーミングである。

だがその根本は「近づく、 粉 ( ヤク ) 漬けにする、ぶっ飛ばす」を極限まで突き詰めたある意味CQCと言えなくもないスタイルと言える。

その中でも超急戦スタイルはTQCの中でも最速のスタイルであると同時に、こう呼ばれている……

「くたばれティンキー☆」

「来たか、第二ラウンドだ!!」

「くたばれティンキー☆」

「くっ、ふざけた声出してんじゃ」

「くたばれティンキー☆」

……脳死スタイル、と。

「 機械群 ( メカニタン ) 」の雑魚エネミーを倒して補給をしようとしていた八脚カスプリへ、窓ガラスをブチ抜いて上空から奇襲を仕掛けつつ、俺を迎撃するために奴が身体を動かす前にティンクルパウダー散布。

「行くぞ 超急戦 ( ハイトルク ) !」

TQC 超急戦 ( ハイトルク ) 、やり方はとっても簡単! 理屈を捨てろ、思考を簡略化しろ、とりあえず殴れ殴れ殴れぇぇ!!

ティンクルピクシーの主な攻撃手段はティンクル☆ワンドに依存していると思われがちだが、実は単純な素手の火力も高い。具体的に言うとダストよりパンチが重い。さらに跳躍力や速度はミーティアス程ではないが空中ジャンプと数秒間の浮遊能力を持っている。

ここから導き出される妖精の戦いは、射程距離1メートル以内限定での超三次元機動にその真価を見せる!!

「ティンクルダイエット! 身を削れデブが☆」

「ちょこまかと……! ネズミかテメーは!!」

「はい 粉 ( お薬 ) 処方しますねー」

こればっかりはプロゲーマーだろうがどうしようもねーだろ、そんなでかい図体でティンクルピクシーを引き離せる訳がない。

殴る、空中ジャンプ、無駄にゴチャゴチャした腕に足掛け、肩に踏み込み、空中で身を捻って膝蹴りを奴の首に叩き込む!

「TQC、変則式ティンクル光魔法……!」

「どうみても挌闘技だろうが!」

閃光魔導 《 シャイニングウィザード 》 さ……!!

着地、奴がスタンから抜け出す前に再び肉薄し、フルスイングで厄介な砲門にワンドを叩きつける。砕けない、しかし思考停止中なので構わず殴る。

「クソがっ!」

カースドプリズンの力によって取り込まれた「機械群」の銃を一つ破壊、だがここでスタンが切れて反撃が飛んでくる。

一応俺もカスプリ使いだ、カースドプリズンがされて嫌な事は分かっているし、その対処も把握している。

ティンクルピクシーみたいな小柄なキャラは間合いの内側に入り込んでくる敵を相手にする場合はとにかく適正間合いを作ることが肝要。

「何…!」

だが、奴が選んだのは俺の想定してた答えとは異なるものだった。小柄なキャラが大柄なキャラの懐に入る、ここで有利不利を考えてしまうのはバトルものだけだ、世間一般ではこの場合「大きい方が小さい方を捕まえた」と受け取るだろう。

挌闘 ( コンバット ) じゃない、これは…… 挌闘 ( グラップル ) か!! 野郎、掴みでこっちの機動力を殺すつもりか……上等、 ジョイント ( 多段ブースト ) されたTQC、思考する暇もないほど脳を回転させてやるよ。

◇

「 若野牛 ( コルトバイソン ) の浅間さんに教わった実況術が通用しないくらい状況が動いてるんですけど……」

「行動じゃなくて状況を実況解説しろってやつですよね、あれ僕も参考にしてます。とりあえず今起きてるのは…… 顔隠し ( ノーフェイス ) の方が初手捨て身作戦に出てますね」

「え、最初から捨て身……?」

「厳密には余計なこと考えずに攻撃特化してる感じですね、相手の対応に最速で答えを返すからあの勢いに負けたらそのまま押し切られる可能性もありますよ。だったらやっぱり超必殺を切ったのもその一環か……?」

銃弾が撒き散らされ、妖精が乱舞する。機巧装甲に短杖が叩きつけられる度に火花が散り、妖精を捉えんと追う怪挟がアスファルトを抉る。

ティンクルピクシーがあまりにも至近距離を 飛び ( ・・ ) 回っているがために、まるでカースドプリズンが一人で踊っているかのようにも見える光景は、妖精が呪鎧を追い詰めているようにも見えてその実、拮抗状態を形成していた。

「顔隠しさんはカースドプリズンの追加武装を破壊する事を優先しているんでしょうか? カースドプリズン本体の体力はあまり減っていないように見えます」

「でしょうね、パワー特化しているように見えて不意打ちの飛び道具である脚の銃はティンクルピクシーの天敵たり得ます。見た限りではティンクルピクシー有利に見えますけど、カースドプリズンに張り付いているのは半分くらいは回避目的です」

「止まったら掴まれる、だから攻撃しようがしまいがエスケープの脚は止められないのね」

そう、巨体の怪物を翻弄する妖精という光景は視点を変えれば潰される死の危険から必死に逃げる羽虫という意味も同時に持っている。

ティンクルピクシーは小柄な体躯で相手を翻弄するキャラクター設計だが、小柄というアドバンテージはディスアドバンテージにもなり得る事実に変わりはない。

「それにパウダーのスタンにも弱点はあります、あれプレイヤー側からの動作は封じられても武装そのもののアクションは止められないんです」

「つまり、カースドプリズン本体を止めても銃は撃てるってことですか?」

「ですね、だから顔隠しは銃の破壊を優先してるし、般若はそれを踏まえて攻撃を凌いでいます」

ただ、と慧は口を開きかけ……だがしかし発言権は銀の画面に奪い取られる。

「互いに時間をかけすぎたわね、それとも双方共に それが狙い ( ・・・・・ ) だったのかしら? もう二人とも 超必殺 ( ウルト ) のゲージが溜まっているワ」

誰もが同じ場所を見るとは限らない、だが果たして妖精と呪鎧は双方共に条件を満たした。

そして、その名の通りに混沌渦巻き吹き荒れるケイオースシティの状況が、動く。

妖精神拳だけやたら研究が進んでいるのは前作からティンクルピクシーだけやたらとキャラ造形に力が入ってるから

余談だがこの「ティンクルピクシーをやたら気合い入れて作った人」と「R.I.P.の変身プロセスを熱く語った人」は同一人物。色々あって引き抜かれたんだけどこの縁があったのでGH:Cの企画が通った(つまりネフホロ2も……)