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刹那に想いを込めて 其の八

シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 — ncode.syosetu.com · All chapters

刹那に想いを込めて 其の八

ストックががが、毎日更新は最終防衛ラインですが文字数が減ったらお察しください

これまでずっと疑問だったことがあった、それはスキルの成長の違いだ。

例えばレペルカウンター、これは元々フラッシュカウンターというパリングスキルがレベルアップと共にジャストパリィを経てスキルが変化したものだ。

だが逆に、名前を変えることなくスキルの後ろにLv.いくつ、と表記されるスキルも存在した。

まぁそういうシステムなんだろう、と今までは深く気にも留めていなかったのだが、オイカッツォ曰く、自然習得するスキルは進化するものと強化されるもののニ種類が存在するらしい。

別のスキルに進化しない、熟練度が上がるタイプのスキル同士は各街に存在する 特技剪定所 ( スキルガーデナー ) なる施設で連結する事で別の合体 特技 ( スキル ) としてニコイチにする事ができるらしい。

例としてオイカッツォは格闘系スキル「パワーストレート」とクリティカル率に補正をかける「クリティカルアシスト」を合わせる事でクリティカル時に一定確率で気絶効果を付与する「ノックアウター」を挙げた。

それだけではなく、そのスキルが後どれくらいでレベルアップ及び進化するのかを教えてくれる、スキルを自然習得するためにどんな行動をすればいいかが書かれた秘伝書の販売などなど……おお、もうなんというか……今からゲーム開始時に戻れるならレベル10ちょいの自分をPKしてファステイアに叩き込んでやりたい。

「控えめに言ってあれだな、今までバットを使わずに素手でボールを打っていたのが間違いだと気付かされた気分だ」

「その例えはちょっと意味不明だけど心中は察するよ、俺も最適コンボ見落としてたのに気づいた時とかそんな感じになるし」

天井を見つめたまま放心しかけた俺へとオイカッツォが慰めの言葉を投げかけるが、なんというかそういうのとは違うんだよなぁ……スナイパーライフルを持ってるのにスコープを使わずに撃っていたような………ああああああああ

「ああああああああ……」

「サンラクサン、大丈夫ですわ……?」

「ちょっとモフらせて」

「へ?ぴゃあ!?」

モコモコモフモフを抱きしめながら、思考を切り替えるために今度はプラスな……自分を慰める要素を思い浮かべる。

まず第一に、今のスキル編成において連結可能なスキルは二つしかない事。これは仮に最初から特技剪定所の存在を知っていたとしてもそう大して利用することはなかったという事だ。

チュートリアル飛ばして大ガバしていたことの解決にはなっていないが、結果的には……という点で多少は慰められる。

「ふひゃ、くすっ、くすぐったいですわっ!」

次に知ったタイミングがウェザエモン戦前だったこと、少なくとも現状出来うる最善を欠いた状態でウェザエモンと戦う、という無意識的舐めプをする醜態は晒さずに済んだ。

「み、耳は駄目ですわっ!耳ぃーー!」

最後に、全ての街に特技剪定所が存在すると分かったこと。それはつまり隠しエリアながらも通常の街と同じ設備を持つラビッツにもそれは存在するだろう、ということだ。

スキルというゲームシステムに深く関わる要素の施設、というどう考えてもプレイヤーが常に二、三人はいそうな場所に行くことは俺にとっては中々に困難だ、正直脛に傷がある訳でもないのに隠れるのはいい加減飽きて来たのだ。

が、それ以上にエムルやリュカオーンの「呪い」について問われるのが面倒くさい。ラビッツで利用できるならそれに越したことはない。

「おういサンラク君や、エムルちゃんがなんか形容し難い軟体兎と化してるから正気に戻りなさいって」

「ん?」

ふと視線を落としてみれば、頭から湯気でも出てそうな様子のエムルがぐでぇー……とでも形容できそうな脱力っぷりで気絶していた。

「きゅー……」

「なんかだらけきった猫みたい」

「猫ちゃいますわ!ヴォーパルバニーですわ!」

おお、復活した。

「ちなみに 副業 ( サブジョブ ) とか 組合 ( ギルド ) とか……」

「あああああああああああああ!!」

「ぴゃあぁぁああああああああ!?」

どれだけ見落とししてるんだ俺はぁぁぁぁぁぁぁ!!!

大変なミスをしてしまった時、精神的に心折れそうになった時、どうやって精神の均衡を保ちますか?

個人的に一番簡単な手段は、「思考停止して単純作業に没頭する」だ。問題からの逃走である上に事態が何も解決しない、というどちらかというと悪手寄りの手段ではあるが、今の俺にとってはこれが最善だ。

だから、釣った。釣って釣って釣って釣って釣りまくって、餌に釣られた鰻を狩って狩って狩って狩って狩って狩りつくし……数度死にかけ、数度死にかけた鰹野郎を救出し、いつしかライブスタイド・レイクサーペントとのレベル差が縮まり、その挙動を俺もオイカッツォも把握し始めて……そして夜。

「うーん、私の見立てではあと二日はかかると思ってたんだけど、もうレベル40かぁ………君達生き急ぎすぎじゃない?」

「違………あのバカが……現実逃避して……」

「そもそも 現実逃避 ( シャンフロ ) してさらに逃避ってどこに逃げてるの?」

「いや、うん……ちょっと頑張り過ぎた」

二人合わせてライブスタイド・サーモン七十四匹、ライブスタイド・レイクサーペント六体……俺はレベル42、オイカッツォはレベル40。

これがただひたすら鮭釣りと鰻狩りで現実逃避し続けた俺(と、そのとばっちりを食らったオイカッツォ、時々エムル)による本日のスコアだ。

「動きが単純とはいえライブスタイド・レイクサーペントは平均レベル45はあったはずなんだけど、よく倒せたねぇ」

「はぁ?お前ウチのエムルさんはレベル56だぞ?」

「困った時のエムルちゃんマジ強いのなんの……」

終盤は経験値が分散して旨味が減るから、という理由で俺とオイカッツォ二人で戦っていたが、それでもエムルがいなければどちらかは死んでいただろう。

「君達は本当、馬鹿だねぇ……いい意味でも悪い意味でも。まぁいいや、ほら立った立った、今日は満月なんだから……君達にユニークシナリオEXを受注させに行くよ」

「……一旦ログアウトしちゃダメ?」

「駄目です、そのセーブテントだって馬鹿みたいに高いのに回数制限付きとかいう畜生アイテムなんだからね!というか割と時間押してるの!」

オイカッツォが悲しげに見つめる先には、直方体の布によって面が構成された所謂レジャーで使用するようなテント……を中世の素材で作りました! 的なものが鎮座している。

曰く「廃人でもおいそれと買い占めはできない即席セーブポイントアイテム」というそれは、本来ならば街やラビッツのような拠点に存在するベッドの上でしかログアウトできない筈のシャングリラ・フロンティアのゲームシステムにおいて例外的にモンスターの出現するエリアでのセーブを可能とするアイテムだ。

「先の街は便利なアイテムが多くていいなぁ……」

尤も、「セーブする」「【 座標転移 ( テレポート ) 】などのファストトラベル系の移動先に指定する」などで減少する回数制限がある上に、モンスターに襲われない効果があるわけでもない。

そのため、よほどの理由がない限りは【 座標転移 《 テレポート 》 】でちゃんとした拠点に戻るなりしてセーブした方が安全かつ安上がりであるらしい。

幸いこの隠しエリアはサーモンを釣り上げ続けてレイクサーペントをおびき出さない限りは敵Mobが出ないらしいので思う存分くつろいでも問題ないとのこと。

「つまり少しばかり休んでもバチが当たったりは……いてっ」

ペンシルゴンからの返答は無言で顔に投げつけられた、システム的に譲渡されたスクロールだった。

夜であっても千紫万紅の樹海窟の壁に根付いた苔達に光を抑えるという概念はないらしい。真昼間と変わりないような明るさの樹海窟を、三人と一匹が進む。

「しかしよりにもよって俺が攻略したエリアに隠しエリアが実はありました、ってのは個人的になんか悔しい」

「時間指定タイプの隠しエリアだから運ゲーだよ、見つけられなくても仕方ないよ、うん」

見つけた奴に言われてもなぁ、オイカッツォはまたしても「ユニークいいなぁー俺も自力で見つけたいなー」と持病を再発したので、もはや放置ということで結論が出た。

「満月の夜、千紫万紅の樹海窟の壁に生えた蛍光苔の中で極一部だけ 光らなくなる ( ・・・・・ ) 苔がある。そこを調べれば……」

ペンシルゴンがぺたりと触れた、周囲の苔の光で見えづらいように隠されている光を放たない苔がボロボロと崩れ落ち、その先に苔の生えていないかろうじて頭がぶつからない程度の高さは確保された暗い道が現れる。

「よく気づいたなこんなの」

樹海をそのまま押し込めたようなこのエリアは、兎にも角にも広い。そんな中で壁にびっしりと生えた発光する苔の中から、言い換えれば壁中に光源がある中から光っていない場所を見つける、という事を意図的にできるとも考えづらいが……

「見つけたのは私なんだけど、ぶっちゃけると偶然。ここで取れるアイテムを獲りに来た時に見つけたんだよネ」

「そういうことだオイカッツォ、ユニーク発見は運ゲーだから天に祈れ」

「………その目をやめろぶっ飛ばすぞこのやろー」

おいおい俺の「地べたを這う愚民共の鳴き声を天より憐れみと慈悲の表情で眺める帝王の眼差し」に対してなんたる無礼だ、不敬だぞ不敬。

「もー、君達はすーぐそうやって漫才を始めるんだから。ほら、武器はインベントリにしまったら行くよー」

「わぉ……これは中々に壮観な」

「ユニーク抜きにしても私はこのエリアが好きなんだよねぇ」

暗闇が続く道、どうも上り坂らしいそれを進むこと数分。ようやく見えた淡い光差す出口を抜けた先には、一面を赤い花に覆われた空間が広がっていた。

見上げればそこに洞窟の天井はなく、現実のそれよりも巨大な丸い満月がその光を夜風と共にこの赤い花畑へと注いでいる。

地面が浮いているわけでも、物理的にあり得ない光景であるわけでもない。少し頑張れば現実でも再現できそうな景色だが、何故だかこれまでに見た何よりも幻想的に見えた。

「綺麗なお花ですわ!」

これは、確か彼岸花ってやつだ。実物を見たことはないけど、ローファンタジーなゲームでは結構特定のテーマを示すファクターとしてよく見る……即ち、死を暗喩するものとして。

「さ、行こうか。セッちゃんがお待ちかねだよ」

遠慮容赦なくペンシルゴンが彼岸花を踏みながら進んでいることから、花を踏むことでトラップという線はないようだ。迷いなく進むペンシルゴンに続き、歩いていると一本の枯れ木が見えてくる。そして枯れ木の下に……女性?

「す、透けてますわ!」

「本当だ、バグかな?」

「何故第一候補が仕様じゃなくてバグなのかな……」

クソゲージョークだよ、全く……とはいえ、ペンシルゴンの様子からしてあの半透明の女性が目当てのNPC「遠き日のセツナ」で間違いないだろう。

「やぁやぁセッちゃん、一ヶ月ぶり」

「あら……アーサー、久し振りね」

幽霊だからもっとかすれるような、吹けば消えてしまうような儚いものかと思ったが、意外にもハキハキとした喋りと笑みで、後ろの光景が透けて見える程に希薄ながらも、ショートボブの髪を揺らしたNPC「遠き日のセツナ」はペンシルゴンに微笑みかけた。だが、それよりも地味に気になることがある。

「ふむ……エムル」

「なんですわ?」

「あの人が着てる服に見覚えってある?」

「うーん……アタシにはちょっと思い当たりが無いですわ……」

だろうな。あの幽霊の女性が着ている服、どうもファンタジーらしさが著しく欠けている。植物性、動物性の繊維から作られた服や、生物の皮や甲殻から作られたものとも違う。画一的な大量生産品に近く、高級感を仄かに感じさせる……そう、 現代人 ( ・・・ ) である俺が既視感を覚えるそれはどちらかと言えば、サイエンスファンタジーに属するものだ。

「神代ってやつか」

シャングリラ・フロンティアという世界観において重要な意味合いを持つ「神代」。言ってしまえば旧文明とも言えるそれに類するキャラクターが絡むユニークシナリオ……馬がミサイルだのレーザーだの妙な単語が出た時点で分かってはいたが、なんだか俄然やる気が湧いて来たな。

と、ペンシルゴンが不敵な笑みを浮かべながら、おれたちの方へと振り向く。

「紹介するよセッちゃん。このバカ二人があいつ……ウェザエモンに引導を渡すための切り札だよ」

その紹介に俺とオイカッツォを見るセツナの目は、期待と悲哀が半々で混ざったような、なんとも言えない目をしていた。

特技剪定所で購入出来る秘伝書は購入してそこに記述されたアクションを達成し、かつ適正レベルであればスキルを習得できるというものです。覚えるのが面倒でレベル制限があるわざマシンと思っていただければ。

秘伝書を持っているだけで習得率(仮に飛び蹴りのスキルがあったとして、秘伝書の有無で習得できる確率が変わる)が上昇するので、攻略サイト見ればタダじゃん!ともいきません。ポンコツちゃん……もとい、ヒロインちゃんが使用したスキルにも秘伝書由来のものはありますが、それらは特技剪定所で買ったものではなくユニークシナリオ報酬だったりと特殊なものです

そして当然の権利のようにそれぞれの街の特技剪定所で販売している秘伝書は違ってくるのでお遍路よろしく街を巡るプレイヤー達の姿が